異世界美容院『ANGEL』

イタズ

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それぞれの想いその2

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クリスタルです。
どうも・・・
エッ!
私が話をするのですか?
・・・あまりしたくはないです。
だって・・・そんな余裕は私には有りません・・・
もう今は学ぶことだらけなんだから・・・
又にして下さい。
駄目?店長命令?・・・
・・・分かりました・・・狡くないですか?
ジョニー店長の命令には逆らませんよ・・・

どうしようかな?・・・
そうですね、私がこのお店を知ったのは髪結い組合で話題になったからです。
凄腕の髪結いさんが居るって。
それも男性。
耳を疑いましたよ。
男性が髪結いさん?この国では聞いたことがありません。

その興味に負けて噂のシャンプーを購入がてら、予約を入れに来ました。
そしてその時に始めてジョニー店長をお見かけしたんです。
第一印象は、それなりの男前だなと。
でもそれよりもそのカットしている姿が私には神々しく観えたのです。
途轍もない衝撃でした。
余りに様に成っている。
後光が射して見えました。
あっ!ジョニー店長には言わないで下さいね。
だって・・・照れるじゃないですか・・・
絶対ですよ!

カットするハサミのリズム感がよくて、コーム櫛の扱いも一流だと直ぐに分かりました。
噂は本当だったんだと。
でも本音を言えば、同時に嫉妬心も生まれてしまったのです。
私はカットの技術には自信がありました。
髪結い組合の中でもカット技術は群を抜いている自覚があったのです。
今思えばお恥ずかしい限りです。
何を勘違いしていたのかと・・・



早く予約日にならないかと興奮が収まりませんでしたよ。
是非近くで見学したい。
その技術を盗みたいって。
本当は褒められたことじゃないのは分かっています。
でも私はカット技術を極めたい。
その一心だったんです。

そして迎えた予約日当日。
お恥ずかしいことに胸の高まりが収まりませんでした。
あっ!勘違いしないで下さいね。
ジョニー店長の事を好きだとか、そう言うんじゃないんで、まったく。
そういう感情はありませんので。
ええ・・・そこを勘違いされてしまうと困ります。
仕事に影響しますので・・・
私は仕事とプライベートはしっかりと分けるタイプですので。

私が受けた施術はパーマカット。
パーマは髪をふんわりと見せる様に仕上げてくれるとのこと。
この国のパーマ技術からは考えられないことです。
そもそもどうやってパーマをするのか・・・
今は分かっていますよ、流石に。
でもこの当時の私は知らなかった。
こんなパーマの方法があるなんて・・・
私は眼を疑いましたよ。
ものの一時間でパーマが仕上がっていました。
この時点でもう私は来店する前の私では無くなっていた。
鏡に映る私を何度も見返しましたよ。
何なのこの髪形は・・・

その後カットに入る。
私は無意識にハサミを凝視していたのでしょう。

「そんなにハサミが気になりますか?」

「いえ・・・すいません・・・」
思わずこんな回答をしていました。
私、実はコミュニケーションを取るのが少々苦手で・・・
本当は聞きたいことが山ほどあったのに、何一つ尋ねることが出来ませんでした。
ああ、勿体ない。
自分の性格を悔やみましたよ・・・

その後私は悩みまくっていました。
この人に今直ぐに弟子入りしたい。
でも私には・・・
それを簡単に許して貰える状況になかったのです。



私の父は既に他界しています。
兄弟は上に姉が二人。
二人共嫁いでいて、家には私と介護を必要とする母のみ。

母の介護は二人の姉が一日おきに行ってくれています。
でも生活費は私が稼がないといけません。
この家の大黒柱は私なんです。
髪結いさんの給料は・・・その時々で変わります。

私はこの時には自分のお店を持っていたので、売上次第だったんです。
売上は・・・あまり良いとは言えません。
どうしてなのか分かりませんでした。
カット技術には自信があったのに・・・
あまりリピート客は根付きませんでした。
今なら分かりますよ。
何が足りなかったのかは・・・
でも当時の私は気づけなかったのです。

それでも何とか生活は出来ていました。
最低限の生活でしたけど。
日々悶々としていました。
今の直ぐにでもジョニー店長に弟子入りしたい。
でも弟子入りするということは、給料は格段に減ります。
実際髪結い見習いの頃の私の給料は当時の半分ぐらいです。
またあの頃に戻るなんて・・・
母が食べられなくなるのでは?・・・
でも学びたい!
心の中で葛藤が収まることなんてありませんでした。



そして私は髪結い組合会館でジョニー店長を見かけてしまったのです。
なんでこの人がここに・・・
噂は本当だったみたいです。
あのフェリアッテがジョニー店長を召し抱えようとしていると・・・
一気に気分が萎えました。
ああ・・・あの憧れのカット技術がフェリアッテに独占される・・・
結局の所そうなるんだ・・・
もう・・・嫌になる・・・
私の想いはいとも簡単に潰えてしまったのです。
この権力の権化に勝てる人は誰もいないと・・・



数日後。
私の世界は一変しました。
ジョニー店長があろうことかフェリアッテの化けの皮を剥いでいたことを、私は知ってしまったのです。
この話を聴いた時には柄にもなく、思わずガッツポーズをしていた様です。
母に言わせると私は無茶苦茶興奮していたらしいです。
その私を見て笑いが収まらなかったと言っていました。
観ていてこちらが嬉しくなっていたと。

でもこれは快挙です。
だって相手はあのフェリアッテですよ?
誰もが恐れ慄く傲岸不遜のフェリアッテ。
絶対に敵に回してはいけない相手。
これまでにも勇気ある髪結いさん達が苦言を呈しては、追いやられていた。
誰も敵わない。
あの名君として名高い伯爵でもいいように操られている。
無敵の暴君。
それをあしらっただけで無く、若返りの秘術も行ったとか・・・
もう震えが止まらなかったです。
私は・・・もう・・・



それを母が察していました。
そしてこう私に告げたのです、

「クリスタル・・・いいんだよ・・・自由におし・・・やりたいことをやりな・・・私のことは・・・どうにかなるでしょう・・・いいから・・・そのジョニー店長に師事してきなさい」
私は涙を堪えられませんでした。
大事な母。
こうまで言わせてしまったのだと・・・
罪悪感はありました、でももうこの気持ちを私は抑えることが出来なかったのです。

そして私は一目散に美容院『アンジェリ』を目指しました。
道すがら、早歩きで歩くアイレクスさんとマリアンヌさんを見つけてしまった。
お二人の表情を見て分かりました。
同じ気持ちなんだと・・・
結果的にはアイレクスさんは違っていたようですが・・・
あの人はよく分かりません。
ジョニー店長も困っている様子。
この人は只の変態です。
真面に取り合ってはいけません。
ジョニー店長に恋心を寄せているのは分かりますが・・・
絶対にアプローチ方法を間違っています。
コミュ障の私でも分かるんですよ。
もう、末期ですね。

そんな変態はさておき。
私はなんとか美容院『アンジェリ』で雇って貰う事が出来ました。
実技審査では緊張して自分の実力の半分以下のパフォーマンスしか発揮できませんでした。
でもジョニー店長にはそれも織り込み済みであったようです。
この人何者?
洞察力がエグいんですけど・・・
ちょっと怖いぐらいです・・・

そして私は絶句してしまいました。
雇用契約書。
こんな物は始めて見ます。
その内容は・・・
ああ・・・どうして・・・
私は学びに来たというのに・・・
だって・・・今よりも倍の給料だなんて・・・
狐に摘ままれている?
どうして・・・

ジョニー店長からこんな言葉が返されました、
「クリスタルちゃん、俺は大いに期待している。君ならこの美容院『アンジェリ』を次のステージに連れていってくれると、今後ともよろしく!」
ジョニー店長の笑顔が眩しかった・・・私、泣きそうです。

でも泣いては駄目。
今ではない。
私はこの人の期待に答えなくては・・・
絶対に私は美容師になる!
それが最高の恩返しではないでしょうか?



そして今があります。
私は国王様のお陰で接客の重要性を理解しました。
コミュニケーションを取るのは苦手ですが、ジョニー店長の教えに従い。
聞き上手を目指しています。
これならば私にも出来そうです。

あっ!お時間になったようです。
フロアーに戻りますね。
えっ!充分に話上手だったって?
止めて下さいよ。
柄にも無い・・・
それでは。
これっきりにして下さいよ!



ん?
なんですか?
ええ、マリオですが?
なんと!
宜しいのですか?
私が語っていいと!
これは何かのサプライズですかな?
私の誕生日は三ヶ月後ですが?
違う?・・・
ジョニー店長のご指名ですと?
これは失敬!
先ずは衣服を整えさせて貰えますかな?
失礼があってはならないかと・・・

ふう・・・整いました。
教えて下さいますかな?
ほうほう・・・好きに話してくれと・・・フムフム・・・
否・・・そういう訳に行きますまい。
私はジョニー店長には限りなくお世話になっておりますので、散々ジョニー店長を褒めちぎるべきでしょう。
なんと・・・それは違うと・・・本人の要望・・・
んーん、参りましたな。
しょうがありません、たってのジョニー店長の要望。
私し、マリオが叶えてみて進ぜましょう。



でも・・・困りましたな。
いきなり躓いてしまいそうです。
ああ・・・これぐらいならいいでしょう。
ジョニー店長にはお世話になっております。
これぐらいは宜しいですよね?・・・
それは私だけに関わらず、娘や妻も・・・
おお・・・いいですよね?・・・
そして私も・・・
セーフ・・・
説明させて貰いましょうか・・・

ちょっと黒子さん!
私のキャラではないのですが、これは無いんじゃないでしょうか?
少々無理があるかと思います。
ええ、間違いなく!

あっ!そうですか。
好きにしてくれと?だったら早くそうして下さいよ。
遅く無いですか?
商人ギルドに訴えさせて貰いますが?
関係ない・・・そうですか・・・
まあいいでしょう。

ふう、折角の機会です。
ジョニー店長に関する話をさせて貰いましょう。
ええ、私は彼に頭が上がりませんよ。
それでいいのです。
だって彼はこの国の救世主なんですから!

えっ!救世主?
何でって・・・分からないのですか?
彼の偉業が?

はあ・・・しょうがない。
おさらいしましょうか・・・特別ですよ・・・

ジョニー店長はこの国に美容院を開業なされました。
この国にシャンプーやリンスを広め。
人々の髪を救いました。

そして、私含めたくさんの薄毛で悩む者達に希望を与えました。
ほら、見て下さい!
このフサフサとした私の頭頂部を!
これを救世主と言わずに何というのですか?!

それにタックスリー君なんて、見事なカツラを被っているではないですか!
私は事情を存じ上げておりますが、騙されている者・・・失礼。
彼がツルッパゲなのを知らない物が大半なんですから!
彼も人が変わったかの様に活き活きとしておりますぞ!
これも救世主の所業。
それに私の妻もコンプレックスが解消され、毎日を楽しく過ごしておりますよ。
それに化粧が上手になり、若返って見えます。
私も鼻が高いですよ。

そしてシルビアのあの毎日を謳歌している姿は・・・
嬉しくて仕方がありませんよ!
それを導いてくださっているジョニー店長は正に救世主!
えっ!ニュアンスが違う?
流石にそれは無理がある?
ムムム!

なんですと?
もう時間?
これからじゃないですか!
まだまだ話したい事が色々とありますが?
ああ・・・駄目・・・
そんな・・・
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