41 / 55
魔術師団棟
しおりを挟む
転移門をくぐるとそこには、なぜか数十人の魔術師たちが待ち構えていた。
「!? まさか待ち伏せですか!?」
ランズベルト様が私を後ろに庇うように一歩前に出る。
けれど、ノルン辺境伯は、特に気にすることもなく、転移門のある壇上からじっくりと優雅に魔術師たちを見渡して、彼らに微笑みかけた。
「師団長ーーーー!!!!」
その微笑みに、集まった魔術師たちから一斉に声が上がる。
中には、今にも泣き出しそうな者までいる。
まるでアイドルのように、歓声に応えて魔術師たちに笑顔を振り撒く辺境伯。
「…………これは一体……」
戸惑う私とランズベルト様に、肩をすくめながら淡々と答える。
「大方、クレリオが色々やらかしているんでしょう。まあ、ですが、魔術師団棟を明け渡していなかったところは褒めてあげましょうか」
(いえ、そこではなくて……)
この歓声に微笑みを振り撒くのはどうやら辺境伯にとってはいつものことらしい。
辺境伯は壇上を降りていくと、次々に駆け寄ってくる魔術師たちにあっという間に囲まれた。
「師団長、お待ちしておりました!」
「やはり来てくださいましたか!」
「ああ、師団長! やはりあなたでなければだめです!」
「師団長!! なんとかしてください!!」
口々に元師団長であるノルン辺境伯を待ち望んでいたことを告げる。
辺境伯は彼らの言葉を慣れた様子で躱し、一通り部屋を見渡した後、少し考え込むと、ニッコリ笑って魔術師たちに問いかけた。
「で、現師団長はどちらです?」
ノルン辺境伯のその言葉に、急にピタッと歓声が止み、その場が静まり返る。
その反応に、悪魔の微笑みが姿を現した。
室内の体感温度が一気に二、三度下がる。
そんな空気の中、壇上に居た魔術師が、若干身を震わせながら申し訳なさそうに辺境伯の下へと歩み出た。
「く、クレリオ様は、その……お、王宮の、謁見室の方に、いらっしゃるかと……魔術師団棟には、し、しばらく戻られておりません」
魔術師の「クレリオ様」という言葉に、ノルン辺境伯は一瞬笑顔を消し、魔術師たちを見る。
「現魔術師団長はクレリオです。クレリオのことを『師団長』、私のことは『ノルン辺境伯』と呼ぶように」
「申し訳ありません! ノルン辺境伯!」
代表して進言した魔術師が頭を下げると、他の魔術師たちも気まずそうに一斉に頭を下げた。
「で、師団長がそんなところで何をしているのですか?」
「そ、それは……」
「それは? まさか闇属性魔法を使う令嬢に夢中になっている、なんてことはありませんよねぇ?」
笑顔の圧が強い……。
魔術師たちは、皆示し合わせたかのように、辺境伯と目線を合わせようとしない。
彼らは救いを求めるように私とランズベルト様を見た。
とはいえ、私もランズベルト様も今ここにいる目的はその令嬢なのだけれど。
しかも、クレリオ様が加担していなければ、前回対峙した際に、片がついていた可能性が高い。
クレリオ様やその側近たちがノルン辺境伯に怒られるのだとしたら、それは当然だろうと思えてしまう。
困った私とランズベルト様が顔を見合わせていると、辺境伯が「では、参りましょうか」と声を掛けた。
そして優雅に先導するノルン辺境伯に、私とランズベルト様をはじめ、数名の魔術師がついていく。
すると、辺境伯は急に振り返り、魔術師たちに向かって、手と目線でついてくるなと合図をする。
「あなたたちはこの魔術師団棟を出たら魅了の影響を受けてしまいます。こちらで待機を」
「しかし……!」
「棟に居る限り安全です。クレリオからもそう言われているのでは?」
その言葉に魔術師たちは虚をつかれたような顔になる。
「!?」
「あのバカのしそうなことです」
一瞬優しい笑みを浮かべた辺境伯は、再び前を向く。
「ハーティス公爵、アラベスク嬢、急ぎましょう」
「はい!」
そうして、私たちは謁見室へと向かった。
「!? まさか待ち伏せですか!?」
ランズベルト様が私を後ろに庇うように一歩前に出る。
けれど、ノルン辺境伯は、特に気にすることもなく、転移門のある壇上からじっくりと優雅に魔術師たちを見渡して、彼らに微笑みかけた。
「師団長ーーーー!!!!」
その微笑みに、集まった魔術師たちから一斉に声が上がる。
中には、今にも泣き出しそうな者までいる。
まるでアイドルのように、歓声に応えて魔術師たちに笑顔を振り撒く辺境伯。
「…………これは一体……」
戸惑う私とランズベルト様に、肩をすくめながら淡々と答える。
「大方、クレリオが色々やらかしているんでしょう。まあ、ですが、魔術師団棟を明け渡していなかったところは褒めてあげましょうか」
(いえ、そこではなくて……)
この歓声に微笑みを振り撒くのはどうやら辺境伯にとってはいつものことらしい。
辺境伯は壇上を降りていくと、次々に駆け寄ってくる魔術師たちにあっという間に囲まれた。
「師団長、お待ちしておりました!」
「やはり来てくださいましたか!」
「ああ、師団長! やはりあなたでなければだめです!」
「師団長!! なんとかしてください!!」
口々に元師団長であるノルン辺境伯を待ち望んでいたことを告げる。
辺境伯は彼らの言葉を慣れた様子で躱し、一通り部屋を見渡した後、少し考え込むと、ニッコリ笑って魔術師たちに問いかけた。
「で、現師団長はどちらです?」
ノルン辺境伯のその言葉に、急にピタッと歓声が止み、その場が静まり返る。
その反応に、悪魔の微笑みが姿を現した。
室内の体感温度が一気に二、三度下がる。
そんな空気の中、壇上に居た魔術師が、若干身を震わせながら申し訳なさそうに辺境伯の下へと歩み出た。
「く、クレリオ様は、その……お、王宮の、謁見室の方に、いらっしゃるかと……魔術師団棟には、し、しばらく戻られておりません」
魔術師の「クレリオ様」という言葉に、ノルン辺境伯は一瞬笑顔を消し、魔術師たちを見る。
「現魔術師団長はクレリオです。クレリオのことを『師団長』、私のことは『ノルン辺境伯』と呼ぶように」
「申し訳ありません! ノルン辺境伯!」
代表して進言した魔術師が頭を下げると、他の魔術師たちも気まずそうに一斉に頭を下げた。
「で、師団長がそんなところで何をしているのですか?」
「そ、それは……」
「それは? まさか闇属性魔法を使う令嬢に夢中になっている、なんてことはありませんよねぇ?」
笑顔の圧が強い……。
魔術師たちは、皆示し合わせたかのように、辺境伯と目線を合わせようとしない。
彼らは救いを求めるように私とランズベルト様を見た。
とはいえ、私もランズベルト様も今ここにいる目的はその令嬢なのだけれど。
しかも、クレリオ様が加担していなければ、前回対峙した際に、片がついていた可能性が高い。
クレリオ様やその側近たちがノルン辺境伯に怒られるのだとしたら、それは当然だろうと思えてしまう。
困った私とランズベルト様が顔を見合わせていると、辺境伯が「では、参りましょうか」と声を掛けた。
そして優雅に先導するノルン辺境伯に、私とランズベルト様をはじめ、数名の魔術師がついていく。
すると、辺境伯は急に振り返り、魔術師たちに向かって、手と目線でついてくるなと合図をする。
「あなたたちはこの魔術師団棟を出たら魅了の影響を受けてしまいます。こちらで待機を」
「しかし……!」
「棟に居る限り安全です。クレリオからもそう言われているのでは?」
その言葉に魔術師たちは虚をつかれたような顔になる。
「!?」
「あのバカのしそうなことです」
一瞬優しい笑みを浮かべた辺境伯は、再び前を向く。
「ハーティス公爵、アラベスク嬢、急ぎましょう」
「はい!」
そうして、私たちは謁見室へと向かった。
361
あなたにおすすめの小説
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる