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22皿目:薪に咲く
しおりを挟む――調子にのって、やりすぎた自覚はある。
あの日、ベタベタになってしまった体を流し終えたチビは、すっかり疲れ切ってしまったらしく、眠い目を擦り擦り、寝室の扉の前で「ナァァア」と甘えた声を出した。
まだ昼にも届かない時間ではあったが、居間にあるチビの寝床は情事の後で汚れており、寝かせてやる事もできない。
寝室は作業場や台所から一番離れた部屋であり、様子を見守れないため基本日中は使わないようにしていたのだが…………チビがこっくりこっくりと船をこぎ始めたのを見て、ボガードは慌てて寝室の扉を開いてやった。
――正午。
昼飯でも食べるかと寝室を覗いたが、チビはまだ布団に包まって眠っていた。
つい数刻前に寝たばかりだ、起こすのも可哀想かと思い、ボガードはそのまま寝かせてやることにした。
――昼すぎ。
そろそろ目が覚める頃だろうか。
ひょいとのぞき込むと、チビはベッドの上でちょこんと尻をついて起き上がっていた。
まだ眠いらしく目を擦っているが、ボガードに気づくと「ナァウ」と鳴いて、外を指さし便所の催促をしてきた。
連れて行ってやると、いつも通りに自分できちんと小便を済ませてボガードの元に戻ってくる。
抱き上げ際にチュ、と頬にキスをしてやれば、チビはボーッとした表情でそれを受け止め、そのままこてんと首を傾げた。
まだ眠いのだろうと思い、寝室に戻してやった。
――夕方。
昼飯を食いっぱぐれているから、早めの夕食にしてやろう。
そう思って寝室を覗くと、チビは寝転がってはいたが、目はしっかりと覚めていた。
ボガードと視線が合い、慌てたように反らす仕草に首を傾げる。
飯だと言って抱き上げようとすると、チビはピョンと飛び起きて居間へと走って行ってしまった。
飯は良く食い、朝にももりもりと食べていた腐りかけの果物も、出した分は全て平らげてしまった。
歯磨きをしてやろうとチビを呼ぶと、チビはボガードの横を素通りしてブラシを奪い取り、なんと自らの力で器用に歯ブラシを始めた。
抱きしめて褒めてやろうとすれば、チビはボガードの頬を思い切り突っぱねて顔をそらし…………ボガードはそこでようやく、チビがなにかに怒っているようだぞと、思い至ったのだった。
――夜。
危惧していた通り、チビはトイレに行く時以外はボガードとの接触を尽く避け、ベッドの端っこに丸かってボガードにきっぱりと背中を向けた。
まだ秋に差し掛かったところとはいえ、寒いだろうと引き寄せるが、チビはいつもの“顔ペシリ”もせず、グイグイと体を捩って逃げて行ってしまった。
ボガードは一人寂しく……というか、チビの寒さを心配しながら、眠りについたのだった。
――早朝。
ボガードはいつもの時間に目覚めた。
身を起こすと、視界の隅で小さな背中がピクリと動いたのが見える。
まさか、寝坊助のチビがもう起きているのだろうか?……いや、もしかしたら、怒りが冷めやらず、一晩中起きていたのでは……?
ボガードの背に、冷たい汗が伝った。
――朝食の時間。
水の確保や火起こし、朝食の支度などの日課をこなしたボガードは、恐る恐るチビのいる寝室を覗いた。
いくら考えても、チビの怒りの原因には思い至らないが、変わったことといえば確実に、昨朝のあの出来事である。
気持ちよさそうに見えたチビだったが……もしかしなくても何か、どこかに嫌な事があったのだろう。振り返ってみても可愛らしいチビの痴態が思い浮かぶばかりで、本当に全く何も、心当たりはないのだが。
…………困った。
ひとまず、チビの好きなバナンの実をひとつ、手土産に持ってチビに呼びかける。
「チビ、チビ」
……反応はない。
しかし、ベッドの端に近づいて、こんもりした山のすぐ傍で声をかけた時……ふいに伸びてきた小さな手が、グッと握りこぶしを作ってボガードの鼻っ面をペシリと打ち上げた。
「?……チビ!」
久しぶりの“顔ペシリ”である。
いつもと違って平手ではなく拳が握られているのは気になるが、昨日はコレすらやってもらえない程に、徹底的に拒絶されていたのだ。
ボガードはつい嬉しくなって、思わずぺらぺらと喋りだしていた。
「チビ、チビ。ああチビ……よくわからんが、俺が悪かったんだろう。許してくれ。一体なにが嫌だったのか……今度俺がやったら鼻面でもアソコでも拳で殴ってくれて良い。だからほら、機嫌を直してくれ…………」
無口なボガードにしては長文の謝罪に、口にした本人が一番驚いている。
だが、それだけ普段可愛いだけのチビが怒ってしまったことに驚いていたのだ。
こんなに心の距離を感じたのは、それこそチビを初めて拾った時……そう、もう2週間は前のあの日以来だった。
なかなか布団から顔を出さないチビに焦れ、ボガードは恐る恐る布団の端を引っ張った。
クィクィと引っ張れば、「グゥグゥウ」と低く唸る声がして、同じだけの強さで布団を引っ張り返される。
自分の動作にチビが反応してくれた。
……それだけでも、もはや、嬉しい。
「チビ、チビ」
たたみかけるようにクィクィとしつこく反応を待っていると、ふと緩んだ布団の隙間から、にゅっと再び拳が現れて…………半ば忘れかけていた、左手の中のバナンが一瞬で奪われた。
「……チビ」
布団がもぞもぞと蠢き、クチャクチャとしばらく咀嚼音が響く。そして……ペイッと投げられたバナンの皮を、ボガードは反射的に空中でキャッチした。
クフッと息の漏れる気配……その音は、しばらく聞けていなかった、チビが嬉しい時に出る小さな笑い声だった。
「……チビ。そろそろ……機嫌を、直してくれたか?」
――ニャアゥ。ニャアアァアァ、ナゥウウァウ!
布団からひょっこり顔を出したチビに、ボガードの口からも思わず笑いが漏れる。
チビはやっぱりまだ少しヘソを曲げていたが、何事か懸命にニャアニャアと鳴いた後、グワッと両手を開いてボガードに飛び掛かってきた。
「はははっ……お前といると、本当に飽きないな」
小さな体を受け止め、ボガードはホッと、安堵の息を吐いたのだった。
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