愛玩動物(ペット)な人生では終わりません! ~ネコによるネコのためのネコ生改善計画~

蟻と猿の糸つむぎ

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24皿目:ニート、本気出してないだけ

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「ひゃあっほーーーーーーーう!!」

 不知火は咆えた。
 そして、目の前の輝きへと思い切り飛び込んでいった。


 上がる水しぶきが七色に輝く。
 そういえばまだ、森は朝を迎えたばかりだ。木々の隙間から差し込む太陽の光は鮮烈で、光の線が輪になって虹の水面をはじいた。

 川辺の石は丸っこくてツルツルで、素足で踏むとコロコロと気持ちがいい。
 苔むした倒木が川の浅瀬に引っ掛かかり、近づいてみると川魚がチョロチョロッと、不知火の足の間を抜けていく。

 さやさやと頬を撫でる風。
 そよそよと流れる、キンと冷えた川の水。

 どこかでチチチ……と小鳥がさえずり、緑の世界に木霊していく……。


「めっちゃ綺麗!めっちゃ自然!!すげーーーーー魚取りたい!!!」



 ここが恐怖の森だなんて、到底信じられない。

 川辺から森を見上げれば、木々の生い茂る向こう側、ほんのちょっといったところにアルジの家の黒い屋根が覗いていた。
 石造りの水路が真っ直ぐに伸びていて、帰りの道もばっちり、絶対に迷わないだろう。


 不知火がバシャバシャと遠慮なく水を蹴散らしたせいで、魚は散り散りになって逃げていく。
 不知火は「わっははは」と笑っては魚を追いかけ回し、逃げられては笑い……そしてついに、大きな石に足をつんのめらせて、川の中、盛大にこけた。


「うはッ、ぶぶッ!ぶくぶく」


 ちょっとした深みにハマったようである。
 次から次へとやってくる水が転んだ不知火の頭を乗り越えて流れていく。
 不知火は慌てて両手をついて体を起こし、ブハッと顔を水面から覗かせた。


 ――グォアァォン


「げほげほッ……!あーびっくりした!……あっ、アルジやめろ!!捕まえんな!!」


 しまった……と思った時にはもう遅く、不知火は後ろからやってきたアルジにヒョイと抱えあげられてしまった。

 安定の過保護である。
 うっかり溺れそうになった自分も悪いが、そんなにヒョイヒョイ抱えられても困る。
 可愛い子にはある程度旅をさせたほうが、成長すると思うんだ……。


 ――ゴゥォグゥガゴォル……ァンァォゴググォォ


 バタバタと暴れて無駄な抵抗をする不知火を、アルジはがっちりと抱え、川の深いほうへとズンズン歩いて行った。

 川の真ん中は、不知火だったら太腿まで浸かるぐらいの水深はあるが、アルジの巨体にかかれば精々が膝か膝下ぐらいにしかならない。

 アルジはグリグリと不知火の頭を撫で、それから「よく見ていろ」とばかりに不知火の顎を掴んで水面に顔を向けさせると、自分もじっと水面を見つめて動きを止め…………それから、すごい勢いで右手を薙ぎ払った。


 ――ブンッ!


 鋭く速い物が、空気を切って水面を打つ。
 遅れて、キラキラ光る飛沫とともに、空に弧を描く銀色の放物線。



「……あ、魚」



 魚が空を飛んでいく。


 ――……こういう光景、絵本とかテレビとかで見た。

 クマが素手で魚獲るやつ。

 ……リアルに出来る奴、いるんだな…………。


 不知火は空を飛ぶ魚を目で追い…………岸に叩きつけられ動かなくなったところまで見届けて、目の前にあるアルジの顔を見上げた。



 ――…………グル?



 ……いや、グル?じゃないし。




 すごいパワープレイである。


「ほら、やってみろ」なんて言い出される前に、不知火は慌ててアルジに拍手を送った。


「すごいすごーいすごーーいアルジ。……とりあえず、もう1回やって?」


 首の毛をぐいぐい引っ張り、アルジに魚を強請る。

 本当は自分で獲ってみたいなとも思っていたのだが、まあ今日は釣り具もないし、今度ということにする。

 そうして瞬く間に5匹の魚を仕留めてもらい、岸辺に戻って息絶えた魚たちを興味深々に観察した。

 黒光りする背中に、銀色の腹部……顔の周りには黄色い斑紋が浮いていて、背びれは翡翠色にキラキラと光っている。
 形はイワナとかアユとかに似ているが、全長は30㎝ぐらいあり、肉厚だ。

 多少大きさが違っても川魚には違いないので、塩焼きにしたら美味いだろう。


 試しに、近くに落ちていた木の棒で口から魚を串刺しにしようとしたら、それを見ていたアルジが押しとどめ、魚を奪い取った。
 慣れた手つきで魚をひっくり返し、エラの中に指を突っ込んで……プチッ……と小さく音を立てると、そのままゆっくりズルズルズルズル……と、内臓を取り出していく。


「……はっ?何それ、どこをどうしてんの?すげーーー!」


 覗き込んでもよく分からなかったが、一瞬で内臓の処理が終わったらしい。
 胃袋とか顎のエラの部分とかが綺麗に一続きになってスッキリと取れていて、それを川の水でサラサラと濯げば「ほら、出来上がり」とばかりに手渡される。

 ここまでくれば後は簡単……不知火はアルジが処理してくれる川魚を片っ端から棒に突き刺し、あとは塩振って焼くだけだな、と意気揚々と家に戻ったのだった。




 ―――――――――――



 家に戻るとアルジはまず火を熾し、不知火が串刺しにした魚に塩を塗って焼いてくれた。

 出来上がりを待つ間に風呂場へと連れて行かれ、魚臭くなった手や泥だらけの足をしっかりと泡立てたタオルで洗ってもらう。

 水路から水を補給していた浴槽はもうすっかり満杯で、不知火が体を拭いている間にアルジは桶で浴槽の水を台所の水瓶へと移す作業に移っていた。


「うはあ……これを俺が起きる前に毎朝やってたの?大変だねぇ……」


 蛇口を捻れば魔法のように水が湧いて出る世界じゃない。
 自分がぐーすか寝ているうちに文句も言わずやっていてくれたんだなぁ、と不知火はアルジに感謝した。



 食事は作ってもらっているし、仕事にだって行かなくていい。
 服は着てないから洗濯もせず、日がな一日、寝ているだけの生活。



 まあ、ペットとしてはそれで良いんだが…………


「うーーん。そろそろ、何かするかなぁ……」


 怪我療養にしてももう、休みすぎだし、正直最近、何もしなさすぎてちょっと暇でもあったのだ。

 不知火が来てからペットの世話という仕事も増えてしまい、アルジだって大変だろう。



 …………どうせ、自分は普通のペットじゃないし。



 少しくらい何か奇抜な事をしてたって、こいつは気にしないに違いない。



 ――ォグウル。グゥア




 出来立てほやほや、釜戸で作った熱々の塩焼きを見て、不知火は「ひゃっあーーーい!」と奇声を上げて手を叩いた。

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