愛玩動物(ペット)な人生では終わりません! ~ネコによるネコのためのネコ生改善計画~

蟻と猿の糸つむぎ

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25皿目:ひとすじ差して

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 さぁて。ニート脱出、目指せ勤労ペット!
 ……と思い立った不知火だったが、ここで最初の難関に差し掛かった。



 ……アルジである。


 予想通りの展開すぎて、自分が何故挑戦しようとしたのかすら、疑問だ。


 まず不知火は、気持ちの赴くまま、自分がしてみたい事を手伝おうと考えた。

 釜戸の火おこしや料理……現代日本では経験できない……というか経験しようとすると体験料がとられたり、大人数で1つの釜戸を囲んで、何もやることなーい……となるやつである。

 ここではし放題。というか、しないと生活に関わるのだから、不知火が出来るようになればアルジの負担がぐっと減るだろう。


 しかし、意気揚々と不知火が台所へ近づくと、どこからともなくアルジがやってくる。
 薪を手に取るとアルジはデンと真後ろを陣取り……釜戸に薪を入れようとした瞬間に、やっぱりというか何というか……ヒョーイと捕まえられてしまった。


 それでも前のように寝床に戻されるとかではなく、抱えたままアルジが代わりに「こうやるんだ」とばかりにやっているのを見せてはくれるのだが…………


 あれだ。難しすぎるお手伝いを申し出た幼児を、「ありがとうね~~」と言いながら言葉巧みに受け流し、結局大人が全部やっちゃうやつ。


 ――気持ちはありがたいけど、あなたにはまだ、難しいのよねぇ~~~。


 アルジの本音が漏れてくるようである。


 ……まあ、学校の自然教室とかで薪を組んだことぐらいはあるが、アルジも自分でやったほうが早いだろうし……。

 不知火は、火おこしはまだ早かったなぁと、諦めることにした。



 気を取り直し、次に挑戦したのは料理である。

 鍋の具材のほうは、もう既にアルジによって用意された後だ。
 それでも、アルジはまだ何かやっているようだし、少しぐらい手伝えることがあるだろう。


 調理台には手が届くものの、高すぎて使いづらいので、不知火は台の上によじ登った。
 まだ後ろに陣取っていたアルジが、それを見てヒョイッと抱えあげてくれ、不知火は調理台と空のシンクの間に胡坐をかいて座りこんだ。


「おっ。今日はバナナとオレンジ?いいね~」


 棚から出してくれた食材を受け取り、不知火はふむふむと頷く。

 普段同様、器にまるごとデンと入っている果物たち……アルジはあまり果物を食べないので、当然不知火のための果物だろう。

 だけど………残念。人間は普通、オレンジをまるかじりなんてしない。


 つまり、切らなければ食べられない。そう、だから切ってみるしかない。


 不知火、ジャストドゥーイット。



 不知火はさっそく、洗って干してあった包丁をとろうと身を乗り出した。

 …………しかし、またしても、アルジに遮られた。


「あっ。アルジ!ダメダメ、それ欲しいの!ちっさいほうで良いから!ちょっとでいいから貸して?ちょっとでいいからぁ~~~~…………ニャー!」


 後半ズラの真似までしてみたが、包丁に手が届く前に遮られ、しつこく手を伸ばした結果、不知火はヒョイと台から降ろされてしまった。


 ――納得いかない。


 包丁ぐらい、不知火だって扱える。
 触る事もさせてもらえずに遠ざけられ、不知火はいよいよ不機嫌になった。


「ちっくしょ……こうなったら、お前がいない時に使ってやるんだからな!ふん!!」


 分かりやすくプンプンムーブをかましながらアルジの足を引っ張ったり、腰布の結び目を複雑にしてやったりと細かい悪戯をして鬱憤を晴らし、不知火はすごすごと寝床へ戻っていった。


「あ~~~、外に出て働くなんて出来る訳ないしなぁ。畑とかなら出来そうだけど、1人で家の外とか……あああああ無理無理。はあああぁあ……何すっかなぁ」


 キョロキョロと部屋の中を見回し、落ちていた使用済みの腰布(2枚見つけた)や汚れたタオルは回収しておく。
 アルジは家事仕事なんでも出来るわりにやることは大雑把で、あちこちに何かが出しっぱなしだったり、置きっぱなしだったりする。
 そういうのを拾って風呂場の前に置きに行くぐらいは、前から気づいた時にしていたことだったが…………まあ、これも子どものお手伝いくらいにはなるか。


 仕方ない。
 こういう細々した手伝いを見つけてちょこちょこ働いて、そのうち隙を見てアルジの自分に対する株を上げ、やらせてもらえることを増やしていこう。


 不知火はうんうんと1人納得すると、アルジの作る鍋が煮えるまでの間、他に出来る事はないかな……とウロウロウロウロと部屋をさまよったのだった。



 ーーそしてふと、視線を上げた。

 本棚の中に半ば突き出る形で置かれていた本を見て、不知火は足を止めた。



 分厚い革の装丁、黒くて大きな大型古書…………それは以前、チラッとだが中身を見た事のある本である。


「飼育書か……」


 不知火はテーブルから1つイスを持ってきて上り、落ちないように気を付けながらズリズリとその本を引き出した。


 そのまま座ってぺらりと捲れば、1ページ目にはライオンのようにふさふさした大型ネコ科の動物が座り、こちらを見てちょんと首を傾げている。


「可愛いな~~」


 写真じゃないのが残念だが、この世界には地球のような写真技術は発展していないのだろう。
 その代わり、描かれている絵は毛の毛量や足の形、陰影に至るまで、極めて微に入り細に入り描かれており、下手な白黒写真よりも美しくて、いっそのことこっちのほうが良いのかも知れない。


 イエネコは飼ったことがあっても、大型ネコは飼ったことのない不知火は、しばらく夢中で本を読み進めた。
 ミミズがのたくったような文字はもちろん意味が分からないが、写実的な絵の下に解説のようなものが載っている箇所であれば、何が書かれているのか何となくだが予想することができる。


 本文らしい文字の詰まったページはどんどん読み飛ばし……ふと、巻頭の可愛いライオンの絵にまた戻り……不知火は思わぬ発見をした。


「……これ、“ネコ”だ!ネコって書いてある!!」


 ライオンの挿絵のすぐ下、タイトルらしき1行目の文字。
 その中の1部分が、各ページの猫の絵の下に共通して綴られているのを発見したのである。


 ――グゥア、ゥゴガォグウルウ


「アルジ!!アルジー!これこれ、見て!ネコって書いてあるだろ?!ネコだよな!!アルジッ。俺、おれ本なら読めるかも!!!」



 ――何もかもが未知で、不確かで、不明瞭なこの世界…………アルジの腕がなければたちまち崩壊してしまうだろう、脆くて小さな自分の居場所。

 そんな不知火の小さな世界に、小さな小さな穴が開き、光が兆した瞬間だった。
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