死ぬまでに叶えたい十の願い

木風

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第九話 願いがもたらしたものは

セラフィーナはその日のうちに幽閉された。
エドヴァルトの命は簡潔で、迷いがなかった。

彼女がかけた呪いの責任を問い、王宮の塔に閉じ込め、外部との接触を断ち、唯一の窓だけを残した。

王宮の誰もが驚いた。
エドヴァルトが愛したセラフィーナを、これほど冷静に処断できるとは思わなかった。
しかし、エドヴァルトには既に、かつてとは違う何かが宿っていた。

彼はその後の時間を、呪いの解決に費やすことになる。

王国中の呪術師を集めた。
隣国にまで手を伸ばし、異国の魔法使いとも交渉した。
古い書物を取り寄せ、自ら読んだ。ヴァランド呪術師と共に夜を徹して研究を続けた。

その間、エドヴァルトはエリアーナの部屋を変えず、彼女の体は白い寝台の上で眠っていた。

死んでいるわけでも生きているわけでもない状態で、ただ止まっていた。
顔色は日を追っても変わらずに、まるで眠っているようで。
ランプに照らされた横顔は、あの十の願いの時と変わらない。

エドヴァルトは毎晩、その部屋を訪れた。
言葉はほとんど言わなかった。
ただ、傍に座って、しばらく過ごした。

「ピクニックの帰り、お前が転びかけたな。あの時、手を掴んだ。それが最初だった」
「音楽会の夜、お前が目を閉じて音楽を聴いていた。あの顔を……何年も前から知っていたような気がした」
「嫌いだと言えなかった理由は、お前にはわかっていたな。わかっていたのに、最後まで私に言わせようとした。それが少し、腹が立った」

誰もいない部屋で、独り言のように語り続けた。
それは謝罪でもあり、告白でもあり、三年間言えなかったことの全て。

二年が経つ頃。
呪術師が一つの手がかりを見つけた。
エリアーナにかけられた呪いは、単純な死の呪いではなく、複合的なものだった。
その核心にあるのは『愛されなかった者の嘆き』という古い呪術の形式で、術をかけた者の心の状態が大きく影響していた。
つまり、セラフィーナの嫉妬と哀しみが呪いの根幹にあったのだ。

「呪いを解く鍵は、術をかけた者の心そのものにございます。セラフィーナ様が自らの行いを認め、赦しを請い、真に心が解放されれば……呪いは弱まるかもしれません」

エドヴァルトはセラフィーナの元を訪れた。
二年半ぶりに見るセラフィーナは、すっかり変わっていた。
塔の中で過ごした時間が彼女から何かを奪い、そして別の何かを与えていた。
美しさはまだあったが、かつての輝きとは違う、枯れ木のような静けさが宿っていた。

エドヴァルトは椅子に座り、セラフィーナを見る。

「エリアーナへの呪いを、解いてほしい」
「解き方は存じ上げませんわ」
「呪術師が調べた。お前の心が本当に変われば、呪いは弱まるという。嫉妬が、憎しみが、解けていけば」
「……それなら、生涯解けませんかもしれませんわね。……わたくしがどれだけ愛しても、あなたはきっと彼女を選びました」

セラフィーナは長い間、窓の外を見ていた。

「わたくしは間違えたのでしょうか。あなたが私を見てくれなくなるのが怖くて、彼女を傷つけました。でも……あなたが彼女を選んだ理由が、今なら少しわかりますわ」
「なぜだ」
「彼女は、わたくしを恨みませんでしたわ。私が命を縮めたのに、怒らなかったのです。それが本当に……」

セラフィーナは目を閉じた。

「怖かったのですわ。そういう人間には、勝てませんわ」

その夜、セラフィーナは長い時間をかけて、何かと向き合った。
それは自分自身との対話だったのか、あるいは祈りだったのか、エドヴァルトにはわからない。
しかし翌朝、呪術師がエリアーナの部屋で静かに報告した。

「呪いが弱まっています」
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