あの子との電話と、あの子のピアス

木風

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電話と熱

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「奏?……起きてた?」
『うん。課題やってたとこ。……お疲れさま』

いつの間にか、ライブのあとに奏に電話をするのが当たり前になっていた。
会えない時間が長すぎて、せめて声だけでも触れていたくなる。

柔らかくて、まっすぐで、どこまでも優しい奏の声。
鼓膜に触れるたびに、心の奥まで満たされていく。
ただ「お疲れさま」って言われただけなのに、全部救われたような気がするんだよ。

「ドームは来るんだっけ?」
『……うん。八神さんが部屋も取ってくれたの』
「マジ!?じゃあ、あとちょっと。頑張れるわ、オレ」
『……がんばって』

なんでもないやりとりのはずなのに、ときどき混ざる吐息や、語尾の甘さに、思考が止まりそうになる。
そんな声で「がんばって」とか言われたら……
頑張るどころか、何かが溢れそうになる。

「うん。……夢に出てこいよ」
『出るように頑張って寝る』
「それもう、寝技じゃん……じゃ、おやすみ」
『……おやすみ、セナくん』

……通話を切ったあとも、耳に残る奏の声が、まるで甘い毒みたいに、オレの脳を蕩けさせる。

ただの声ひとつで、身体の一部が熱を帯びて、疼き出す。
こんなことで反応してる自分がバカみたいで、でも止められなくて。

「……はぁ」

天井を見つめて、喉の奥からこぼれるように吐いた溜め息。
でも……全然落ち着かない。
むしろ、さっきよりひどい。

「……だめだ、いったん冷静にならねーと」

シャツを脱ぎ捨て、熱のこもった体を冷ますようにバスルームへ向かう。
熱めの湯を浴びて、冷静になろうとするけど……

湯気の向こうに、想像の中の奏が現れる。
濡れた肌、あらわになった鎖骨、滴る水をそのままにオレを見つめてくる。

「……セナ君、待って……」

その声を塞ぐようにキスを落とす。
唇のやわらかさ、濡れた髪をなぞる指の感覚、それらすべてが現実みたいにリアルで、オレの神経を焼いていく。

……あいつの肌って、どんな感触なんだろう。
頬に触れたら、きっと冷たくてあたたかい。
腰に手を回したら、思ったより細くて、繊細なんだろうな。

シャワーを浴びながら、手が止まらなくなる。
こんなこと、するつもりじゃなかったのに。
ただ会いたかっただけなのに。

それなのに、頭の中では服を脱がせて、何度も声を奪って、溺れるように抱きしめてる。

「……はぁっ……マジで、どーしようもねぇな、オレ……」

壁に手をついて、額を預ける。
滴る水の音だけが、浴室に響いてる。
それすらも、あいつの吐息に聞こえて仕方ない。

シャワーのノズルを壁にかけたまま、しばらくその場に立ち尽くす。
熱いはずの湯が、いつの間にかぬるく感じるほどに、体が火照っていた。

身体を拭いて、タオルを腰に巻いたままベッドに倒れ込む。

するとまた、さっきの
『……おやすみ、セナくん』
がリフレインする。

もうだめだ。完全に、奏に“飼い慣らされてる”。

……こんなに、欲しくなるなんて思わなかった。

今、あいつはどんな格好してるんだろう。
きっと夏だから、モコモコの部屋着じゃないよな。
キャミとショーパン……か、それとも薄手のワンピ。

どっちにしても、無防備すぎる。
想像するだけで、喉が渇く。

大切にしたい優しくしたいって気持ちと、めちゃくちゃにしたいって衝動が、心の中でぶつかり合う。

「セナ君……さっきも……」

“さっきも”ってなんだよ。足りるわけねぇ。
手を這わせて、服を脱がせて、恥ずかしがる顔を見たい。
怯えて、それでも受け入れようとしてくれる表情が見たい。

緊張してる奏も堪らないけど、少しづつ慣れてきて照れながら応えようとしてくる姿も見てみたい。

少しづつオレに染まる奏を……オレだけが見たい。

オレの腕の中でしか見せない顔を、オレだけが知っていたい。

余裕なんて持てない……けど、ふと痛くないか……
無理させてないか心配で見つめるオレに気がつくと、きっと潤ませた瞳で

「大丈夫……このまま……一緒が……」

そう言ってくれる奏が愛しくて、それでも本気で煽ってるのかと思うくらい、オレの理性は限界を超える。

「……っ……2回て……オレ、マジかよ……」

写真もないのに。
声だけで、こんなに昂ってる自分に引く。
けど、それだけ奏はオレにとって特別なんだ。

電話をやめることなんてできない。
もうこんな夜を何度過ごしただろう。
あいつの声を聞かないと、眠れない夜が続いてる。

……誰にも渡したくない。

そんな気持ち、自分にあるなんて思わなかった。

奏。
お前に会えなかったら、オレはきっとずっと空っぽのままだった。
誰かひとりを心から欲しいと思ったことなんて、今までなかったんだ。

だけど、今は違う。
その“誰か”が、お前じゃなきゃ意味がない。

いつか……全部、受け止めてほしい。
この気持ちも、熱も、ぜんぶ。

だけどときどき、不安になる。
あいつの気持ちが見えなくて。
オレばっかりが好きなんじゃないかって……

前に誰かに「不安になる」って言われたっけ…
やっとわかった気がする。

……オレの方が、ずっと欲しがってる。

だから……

いつか……どうか、オレの想い、全部受け止めてよ。

「……せめて、マジで夢に出てこいよ」

そう呟いて、枕に顔を埋める。
部屋の中は静かなまま。
答えてくれる声は、どこにもなかった。



ちなみにこの掌編、スターライトパレード3巻本編のセナ視点からの番外編です。
よかったら本編ものぞいてみてください。
『スターライトパレード3巻~Éternité~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/179646396/439976601/episode/10073708
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