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三章 人形と復讐の行方
41話
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「はぁ。 やってくれたね、君たちは」
ギルド本部の貴賓室。
そこで事の顛末を聞き終えたパーシヴァルは開口一番、頭を抱えてそう言った。
どう見ても歓迎されている様子はない。
ともすれば俺達の行動が余計に問題をややこしくしたとさえ言いそうな雰囲気だ。
困惑気味にビャクヤが食い下がる。
「どうした。 なぜ首を振る。 我輩達は有明の使徒としての責務を果たしたのだぞ!」
「なぜと聞かれれば、そうだな。 君達が自分の階級をはるかに超えた結果を出してしまったから、と言うのが一応の回答になるかな。 それが本当の話なら、という前置きが付くけれどね」
「当然であろう! 我輩とファルクスは確かにワイバーンから村を守り、使徒を打倒したのだ!」
「ビャクヤの言う通り、あの村を救ったのは事実です。 それに、魔素を大量に生産していた使徒も仕留めました。 そこに何の問題が?」
ワイバーンとの戦いは激戦だったし、使徒との戦いは一歩間違えればビャクヤや俺が命を落とす危険もあった。それらを乗り越えて勝ち取った勝利だ。その事実が否定されているようで、いくらギルドマスターとはいえ俺も黙ってはいられない。
だがパーシヴァルは肩を竦めて、言った。
「使徒を排除したこと問題じゃない。 問題はワイバーンのほうだ。 いいかい? あの勇者達ですら、ワイバーンと戦うには実力不足だとギルドは判断している。 それを四頭も同時に、一度に討伐してしまう。 その意味が分かるかい? 素晴らしい成果だと手放しで喜べるレベルではないんだ。 その話が広まれば勘違いをする人々も出てきてしまう」
「勘違い、ですか」
「そうだ。 アイアン級の冒険者がワイバーンをいとも容易く討伐したらしい。 なら自分達でもワイバーンを討伐できるのではないか、とね」
そんなまさかとは思ったが、ありえない話ではなかった。
他の冒険者が手柄を立てると、ならば自分もと考えるのは冒険者の性(さが)と言える。
結果、無茶な依頼へ挑み、帰らぬ者となるのは珍しくない話だった。
「そしてワイバーンを複数頭同時に討伐する冒険者をアイアン級と評価しているギルドへの信頼も失墜する。 ギルドは冒険者を正しく評価できていないのではないか、自分達は不当な評価を受けているのではないかと不満も出てくるだろう」
パーシヴァルは大きなため息をついて、続ける。
「後から連絡を送るけど、私の権限で二人の階級を上げる試験を行うとしよう。 それだけの実力があれば自然と認められるだろうけれど、無駄な混乱が起きる前に私の方で対処させてもらう」
ギルドに信頼があるからこそ依頼が集まり、ギルドが適正だち判断した冒険者がそれをこなす。
今回で言えばワイバーンを討伐できるのは、ゴールド級以上の冒険者という基準が設けられていた。
その基準を大きく狂わせる事の危険性を、俺達は正しく理解していなかったのだ。
「すみません、そこまで大事になるとは思っていませんでした」
「いや、謝ることはない。 いろいろと弊害もあるが、これはうれしい誤算ともいえるよ。 早急に君たちの階級を上げることができれば、今後の行動や作戦への支援が容易になる」
「支援というのは、使徒と戦う為の?」
「うむ。 パーシヴァルはギルドの情報網を使って、魔素や黄昏の使徒の情報を集めているのだ。 我輩達だけでは、どうしても手が回らぬからな」
確かに各地に窓口が存在するギルドの情報網を使えば、効率的に使徒の存在を割り出すことの容易なはずだ。
ギルドマスターともなればそれらの情報を意図的に集めることも可能だろう。
だがパーシヴァルは苦笑を浮かべて、背もたれに体重を傾けた。
「とは言っても相手も狡猾でね。 今回のように商人など表の顔を作られると、捜索も難しいんだ。 我々と同じく、相手もこちらの動きを探っているだろうからね」
魔素の脅威に加えて敵対する黄昏の使徒。
あの戦いを経てひと段落ついたと思っていたが、状況はそう簡単な物ではないらしい。
「つまり、今回の様な相手が、まだ多く残っているということですか?」
「そうだね。 そう考えるべきだ。 黄昏の使徒の数を把握しきっている訳ではないが、少なくとも15人はいると考えられている。 そして仕留めたのは、6人。 今回は第三の賢者、だったかな」
「確かに、死に際にヴァンクラットはそう名乗っていました」
「ではこれで仕留めた数は7人だ。 残りは8人。 いや、最低8人か」
ヴァンクラットと似た存在が、あと8人も残っている。
そう考えただけでも、背筋が凍る。
あれ程の被害を出した使徒がそれだけ集まれば、街の一つや二つ、容易に滅ぼしてしまえそうだからだ。
そんな馬鹿なと考える自分と、やりかねないと不安に思う自分がいる。
それほどの蛮行を抑止する倫理観が、黄昏の使徒には欠如しているのだ。
ヴァンクラットがいい例だろう。
焦燥感に駆られて、パーシヴァルへ問いかける。
「その8人の情報は掴めているんですか?」
「いいや、油断を許さない状況ではあるが、使徒の位置を正確に割り出すにはもう少し時間が必要だ」
冒険者ギルドの情報網を持ってしても捜索に手間取るのなら、ヨミの能力に頼ればいいのでは。
そう考えたが、ビャクヤも同じように首を横に振っていた。
「それは、困った。 ヨミ様もなんの影響か、今は使徒の位置を測りかねている様子だ」
「それならば情報が入るまで休むと言うのはどうだろう。 休息も戦いの一部だからね。 だがもし、時間を持て余しているというのであれば、手伝ってほしいこともある」
そうパーシヴァルは言うが、ギルドマスターから頼みとあっては断れなかった。
「俺は構いませんよ。 ギルドマスターに働かせて、休むなんて豪胆な性格じゃないので」
「我輩もだ。 休んでばかりいては腕が鈍ってしまうからな!」
ビャクヤの同意も得られた所で、パーシヴァルは前かがみになって囁いた。
「それなら結構。 だが最初に確認しておかなければな。 君達、幽霊の存在を信じるかい?」
そういう彼の表情は、少しばかり意地の悪い物だった。
ギルド本部の貴賓室。
そこで事の顛末を聞き終えたパーシヴァルは開口一番、頭を抱えてそう言った。
どう見ても歓迎されている様子はない。
ともすれば俺達の行動が余計に問題をややこしくしたとさえ言いそうな雰囲気だ。
困惑気味にビャクヤが食い下がる。
「どうした。 なぜ首を振る。 我輩達は有明の使徒としての責務を果たしたのだぞ!」
「なぜと聞かれれば、そうだな。 君達が自分の階級をはるかに超えた結果を出してしまったから、と言うのが一応の回答になるかな。 それが本当の話なら、という前置きが付くけれどね」
「当然であろう! 我輩とファルクスは確かにワイバーンから村を守り、使徒を打倒したのだ!」
「ビャクヤの言う通り、あの村を救ったのは事実です。 それに、魔素を大量に生産していた使徒も仕留めました。 そこに何の問題が?」
ワイバーンとの戦いは激戦だったし、使徒との戦いは一歩間違えればビャクヤや俺が命を落とす危険もあった。それらを乗り越えて勝ち取った勝利だ。その事実が否定されているようで、いくらギルドマスターとはいえ俺も黙ってはいられない。
だがパーシヴァルは肩を竦めて、言った。
「使徒を排除したこと問題じゃない。 問題はワイバーンのほうだ。 いいかい? あの勇者達ですら、ワイバーンと戦うには実力不足だとギルドは判断している。 それを四頭も同時に、一度に討伐してしまう。 その意味が分かるかい? 素晴らしい成果だと手放しで喜べるレベルではないんだ。 その話が広まれば勘違いをする人々も出てきてしまう」
「勘違い、ですか」
「そうだ。 アイアン級の冒険者がワイバーンをいとも容易く討伐したらしい。 なら自分達でもワイバーンを討伐できるのではないか、とね」
そんなまさかとは思ったが、ありえない話ではなかった。
他の冒険者が手柄を立てると、ならば自分もと考えるのは冒険者の性(さが)と言える。
結果、無茶な依頼へ挑み、帰らぬ者となるのは珍しくない話だった。
「そしてワイバーンを複数頭同時に討伐する冒険者をアイアン級と評価しているギルドへの信頼も失墜する。 ギルドは冒険者を正しく評価できていないのではないか、自分達は不当な評価を受けているのではないかと不満も出てくるだろう」
パーシヴァルは大きなため息をついて、続ける。
「後から連絡を送るけど、私の権限で二人の階級を上げる試験を行うとしよう。 それだけの実力があれば自然と認められるだろうけれど、無駄な混乱が起きる前に私の方で対処させてもらう」
ギルドに信頼があるからこそ依頼が集まり、ギルドが適正だち判断した冒険者がそれをこなす。
今回で言えばワイバーンを討伐できるのは、ゴールド級以上の冒険者という基準が設けられていた。
その基準を大きく狂わせる事の危険性を、俺達は正しく理解していなかったのだ。
「すみません、そこまで大事になるとは思っていませんでした」
「いや、謝ることはない。 いろいろと弊害もあるが、これはうれしい誤算ともいえるよ。 早急に君たちの階級を上げることができれば、今後の行動や作戦への支援が容易になる」
「支援というのは、使徒と戦う為の?」
「うむ。 パーシヴァルはギルドの情報網を使って、魔素や黄昏の使徒の情報を集めているのだ。 我輩達だけでは、どうしても手が回らぬからな」
確かに各地に窓口が存在するギルドの情報網を使えば、効率的に使徒の存在を割り出すことの容易なはずだ。
ギルドマスターともなればそれらの情報を意図的に集めることも可能だろう。
だがパーシヴァルは苦笑を浮かべて、背もたれに体重を傾けた。
「とは言っても相手も狡猾でね。 今回のように商人など表の顔を作られると、捜索も難しいんだ。 我々と同じく、相手もこちらの動きを探っているだろうからね」
魔素の脅威に加えて敵対する黄昏の使徒。
あの戦いを経てひと段落ついたと思っていたが、状況はそう簡単な物ではないらしい。
「つまり、今回の様な相手が、まだ多く残っているということですか?」
「そうだね。 そう考えるべきだ。 黄昏の使徒の数を把握しきっている訳ではないが、少なくとも15人はいると考えられている。 そして仕留めたのは、6人。 今回は第三の賢者、だったかな」
「確かに、死に際にヴァンクラットはそう名乗っていました」
「ではこれで仕留めた数は7人だ。 残りは8人。 いや、最低8人か」
ヴァンクラットと似た存在が、あと8人も残っている。
そう考えただけでも、背筋が凍る。
あれ程の被害を出した使徒がそれだけ集まれば、街の一つや二つ、容易に滅ぼしてしまえそうだからだ。
そんな馬鹿なと考える自分と、やりかねないと不安に思う自分がいる。
それほどの蛮行を抑止する倫理観が、黄昏の使徒には欠如しているのだ。
ヴァンクラットがいい例だろう。
焦燥感に駆られて、パーシヴァルへ問いかける。
「その8人の情報は掴めているんですか?」
「いいや、油断を許さない状況ではあるが、使徒の位置を正確に割り出すにはもう少し時間が必要だ」
冒険者ギルドの情報網を持ってしても捜索に手間取るのなら、ヨミの能力に頼ればいいのでは。
そう考えたが、ビャクヤも同じように首を横に振っていた。
「それは、困った。 ヨミ様もなんの影響か、今は使徒の位置を測りかねている様子だ」
「それならば情報が入るまで休むと言うのはどうだろう。 休息も戦いの一部だからね。 だがもし、時間を持て余しているというのであれば、手伝ってほしいこともある」
そうパーシヴァルは言うが、ギルドマスターから頼みとあっては断れなかった。
「俺は構いませんよ。 ギルドマスターに働かせて、休むなんて豪胆な性格じゃないので」
「我輩もだ。 休んでばかりいては腕が鈍ってしまうからな!」
ビャクヤの同意も得られた所で、パーシヴァルは前かがみになって囁いた。
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