虚空の支配者 ~元勇者パーティの荷物持ち、最弱魔法で無双~

夕影草 一葉

文字の大きさ
90 / 100
六章 黒衣の守護者

91話

しおりを挟む
 水滴が滴る音が響く古い監視塔の中。
 石畳の上に直接座り、堅く冷たい感覚を味わいながら、ゆっくりと顔を上げる。
 視線の先では、階段に腰かけた黒い衣装の女性が紫色の瞳で俺達を見下ろしていた。

 見た通り、俺達の立場は対等ではない。

 監視塔の劣化が激しいのか風も容赦なく吹き込み、寒さで震えるような気温になっている。
 だというのに女性は気にした様子もなく、俺達を見下ろす態勢のままだった。
 そこにある感情は明確だ。俺達への怒りと不信感。

「本当に、申し訳なかった」

 それらを打ち消すために謝罪の言葉を投げかけるが、女性は小さく鼻で笑った。

「申し訳ない? その言葉を発した以上、自分の行いを理解しているのですね?」

「なんの許可もなく里に立ち入った挙句、武器を使おうとした」

「それも、この場所が隠れ里だと知っていながらの行動です。 到底、許せることではありません」

 怒りによって振り下ろされた槍が地面を叩く。
 その瞬間、甲高い金属音と共に眩い雷光が迸り、周囲の雑草が弾け飛んだ。
 少しでも判断を間違えば、あれが自分たちに向けられる。
 そう考えるだけで、背筋を冷たい物がなでる。

 逃げ延びた者達が身を寄せ合う隠れ里。そこへ武装した集団が入ってきて、武器を抜く。
 それがどういった意味を持つか、最初に考え付かなかった俺達に非があるのは間違いない。

 それに敵味方が入り乱れる中で、魔族の特徴や里の住人との明確な判断もできていなかった。
 本格的に武器を使うことがあったら、間違えて里の住人を攻撃してしまったかもしれない。
 
 安易に戦いへ身を投じる事への危機感が薄れていたのかもしれない。
 もはや返す言葉もなくうなだれるしかない。
 だが、思わぬところから援護が行われた。

「ベルセリオ様、彼らも悪意があった訳ではないのですから、その辺で……。 私もこうして、無事だったわけですし」

「黙っていなさい、イグナス。 私も悪意で彼らを責めている訳ではありません」

 黒い女性――ベルセリオの隣に立つ、男性が俺達へと助け船を出してくれていた。
 ただ目を引くのは、その男性の頭で動く獣の耳と、見え隠れする尻尾である。
 大陸の中央では余り見ない獣人である。それも彼は狼に近い種族らしい。
 
 聞く話によれば獣人の彼、イグナスは戦いを得意とする獣人の一族であり、ベルセリオと共に里を守っているのだという。思い出してみれば魔族との戦いでも、彼が先陣を切っていた覚えがある。
 
 ただ当事者のイグナスを持ってしても、ベルセリオの説得は難しそうだ。
 イグナスは申し訳なさそうに、俺達へ半笑いを浮かべた。

「里の住人を助けようとしたことには、素直に感謝します。 しかし後先を考えずに行動した愚行を許すことはできません。 即刻、この里から出ていってもらいます」

「はぁ!? ちょっと待ちなさいよ! 謝罪はしたし、当人が許してくれてるんだから、追い出すことはないでしょ!?」

 唐突な宣告にとっさに食い下がるアリア。
 だがベルセリオは冷たい微笑を浮かべて、アリアを見返した。

「あら、可愛らしいお猿さんがなにか吼えてますね。 ですが私は生憎と動物とは話せないのです。 残念ですが」

「……あの女、殴りたい」

「止めておけ。 お主では逆に殴られるのが落ちであろうからな」

「ベルセリオ。 俺達は訳あってこの里に来たんだ。 話だけでも聞いてはくれないか?」

「聞かなくとも結構。 貴方達はあのクソ忌々しい鋼の聖女ミリクシリアの助言でこの場所を訪れた。 その程度は知っています」

 反射的にベルセリオの顔を見返す。
 ミリクシリアが俺達にこの里へ向かうよう指示したのは、エルグランドを立つ直前の事だ。
 そしてその話は俺とミリクシリアの間で交わされただけで、第三者がその内容を知るすべはなかった。
 なのに、どうしてベルセリオがその内容を知っているのか。
 
 だがベルセリオは微笑を浮かべたまま、詳しく話そうとはしなかった。

「なぜ。 そう言いたげな顔ですね。 ですがこのような里にもそれなりの情報網がある、とだけ話しておきましょう」

「いいや、なら話が早い。 エルグランドの世論は今、異種族や魔族を排斥する声が高まってる。 このままでは遠からず、エルグランドと魔族の全面戦争へ突入することになる」

「知っています。 奇妙な病気を持ち込んだ異種族への反感が高まり、その煽りを受けた民衆が排斥主義者へ変異したと。 笑い話ではないですか。 数年前までは私達が、そして今では異種族が。 あの街の人々はなにかを憎まなければ生きていけない愉快な病気にかかっているようですね」

 ベルセリオはこちらの神経を逆なでするような、クスクスと嫌に上品な笑いをこぼした。

「笑い事じゃないだろ」

「いいえ、これほど愉快なことがありますか? 私達を追い出した者達が、その排斥主義によって悲劇を迎える。 我々からしてみれば、これほど愉快な見世物はありません」

「その被害がこの里や大陸中に広まったとしても、笑ってられるのか」

「私の見解ではエルグランドと魔族の力は拮抗しています。 総力戦となれば双方が疲弊し、争い硬直状態に陥る。 残念ですが貴方の見解は――」

「戦場で病を広げることを目論む者達がいると言ったら?」

 そこで初めて、ベルセリオの微笑が崩れる。

「病の本質は破壊の限りを尽くす生きる屍を作る事だ。 先ほど里を襲った魔族のように。 それが両陣営の全戦力に広まれば、どうなると思う?」

「破壊の限りを尽くす二つの軍勢が生まれ、大陸へ散らばる。 それが病を流行らせた者達の狙いだと?」

「確証はない。 だが危惧すべき事態ではある。 違うか?」

 ミリクシリアが俺達をこの里へ向かわせた理由。
 そして戦争を止めるうえで助けになる人物とは、まさしくこのベルセリオだと確証していた。
 その片鱗を垣間見ただけだが、広範囲を薙ぎ払う雷を操る魔法に加えて、彼女自身の戦闘能力を加味すれば、相当な実力を持っていることは間違いない。
 下手をすればあの鋼の聖女に匹敵するかもしれない。

 そして広範囲への攻撃手段を持っているという、意味では俺達よりも殲滅戦向きの能力だと言えた。
 ミリクシリアがここまで読んでいたかはわからないが、魔族の前線基地を攻める上で、ベルセリオの能力は必要不可欠だ。
 だからこそここが正念場だと言えた。

 ベルセリオを、仲間に引き入れることができるかどうか。
 ただ俺の推測を聞いたベルセリオは、少なくない時間を思案に費やした。
 そして長い沈黙の末に、決断を下す。

「その話をすぐに信じることはできません。 貴方の妄想である可能性もある」

「それは……否定できないが」

「ですが見逃すこともできなのは事実。 であれば誠意を見せなさい。 その話が出まかせではないという、手伝うに値する作戦だという誠意を見せれば、力を貸すこともやぶさかではありません」

 立ち上がったベルセリオは槍を片手に、宣言した。

「その身をもって証明なさい。 そうすれば、このベルセリオが力を貸しましょう」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...