INTEGRATE!~召喚されたら呪われてた件~

古嶺こいし

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第二章 動き出す

突撃組と潜入組

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村にある頑丈で閉じ込めておくのに最適な所は物資を保管するための共同倉庫が一番である。

しかも現在は物資が届かずに補給も出来なかったので、二つあるうちの一つが空だというのもタイミングが良かった。

「…尋問って、なにするの」

「…まぁ、色々とな」

そして倉庫にはカリアと数人のハンター。そして村の男が村長含め四人が入っていき、オレらは追い出された。

曰く、まだ早い、とのこと。

「キリコさんは内容知ってるんですか?」

理由は違えど同じく追い出されたキリコに訊けば首を傾ける。

「尋問にも色々あるから…、今回はどれかしらねぇ?」

その後説明された尋問の種類が本当に豊富すぎて、オレはしばらく戦慄が止まらないでいた。





カリアが戻ってくるまでの時間、暇だからと一人スクワットをしていたらアウソとキリコがやって来て修行を手伝ってほしいと言われた。

「何すりゃ良いんですか?」

「ちょっと適当にアタシに攻撃してみ」

「了解です」

アウソがちょっと離れた所に座り、いつの間にか移動していた猫と一緒にじっとこちらを見ている。

「アウソは参加しないんですか?」

「ん?ああ、あれは見稽古(みげいこ)よ。これからやるアタシ達の立ち回りをああやって集中して見ることで知識を増やすの。後であんたもやってみると良いわ」

なるほどと納得したところでお互い構える。

オレは昔学校で習った空手の半身の姿勢。キリコは両腕を下げ、僅(わずか)に足の位置をずらす。

といっても避けられるのが落ちなんだよなぁ。かといってやる気がないのがバレたら攻防交代でやられるので本気でやらないといけない。

「しっ!」

右の突きをフェイントにノーモーションで右足で前蹴りを繰り出す。それをキリコは半身ずらすことによって回避した。初撃を避けられるのは知っていた、しかしいつもここらで予想外の反撃が来るはずだがそれがない。ということは攻撃し続けろということだろう。

突き出した右足を戻すことなく地面を強く踏み締め、そこへ体重を移動させながらマテラで言う『猫手(ガトマノ)』と呼ばれる軽い拳を作り手首側の掌、手底をキリコの胸元目掛けて突き出した。

しかし触れる前にキリコの左手の甲によって軌道が右へと流され肩も一緒に押し込まれて体制が崩される。やばいと踏ん張ろうとしたが、いつの間にか体重を乗せた足がキリコの足に引っ掛けられ、流された腕を大きく引かれたと思ったときには、何故か目の前には空が広がっていた。

「ゲフッ、ウ!!」

ドスンと背中が地面へ叩き付けられて激しく噎せる。

「げっほ!げっほ!げほげほっ!!」

「ちゃんと受け身とらないと」

あの流れるような投げで咄嗟に受け身なんか取れるわけない。
いまだに肺を直接強く叩かれているような痛みを手で擦りながら咳が治まるのを待ちながらキリコがアウソに今の受け流しの注意点やコツなどを教えているのを聞いていた。

「ライハの課題は攻撃の時に防御を考えていないところね。常に反撃されたときの事を考えながら動きなさい」

「はい…」

痛い言葉である。

「そういえば、ライハ。あんた何で剣の軌道を素手で逸らそうとしたのよ。避ければ良かったでしょ?」

思い出したようにキリコが言うので、その時の状況を説明した。
肩を踏まれて動けなかったこと、そして剣が首を狙っていて時間がなかったことを、だ。

「その押さえ込み方なら簡単に脱出出来るわよ」

「へ?」

「見せてあげるわ。アウソ、ちょっと」

キリコの手招きによってアウソが嫌々ながらも近付いてくる。猫を手渡され、そのままフードに突っ込めば肩の方に首を乗っけて来た。どうやら一緒に見るらしい。

「あんたライハが押さえ込まれているの見てた?」

「見てましたよ」

「これからライハにやり方見せるからアタシを同じように押さえ込んでみて」

「ええー、マジですか。がちなやつで?」

「がちなやつで」

「手加減してくださいよー」

髪を綺麗に纏めあげて布で覆ってからキリコは仰向けに寝転がる。そこへアウソがあの時と同じように拘束した。勿論肩に布を置いてその上から踏みつける感じだが。

「…もうちょっと強めじゃない?まだ少し動けるわよ?」

「…じゃあ、このくらいすか?」

「このくらいね。ライハ、アウソに腰の黒刀を渡して」

言われた通りに黒刀をアウソに渡し、準備完了。

「キリコさん本当に手加減してくださいね」

「はいはい。あんたは本気でやりなさいよ。じゃあ、ライハちゃんと見てて」

いくわよ。
そういった次の瞬間にはアウソが倒れていた。

「んん?」

何した?

「見た?」

「見たけど良くわかりませんでした」

「あんたそれじゃあ見稽古にならないじゃない。アウソもう一回よ」

「ええー!!嫌すよ!ビックリしたし足痛いし!」

嫌がるアウソであったが、キリコのハア?の前には為す術もなく、嫌々もう一度キリコを踏みつける。
今度は見逃すまいと集中して見る。

そうすると、一連の流れがわかった。

降り下ろそうとしたモーションを取った瞬間、キリコが動く右手をアウソの肩を踏みつけている足の膝の内側を押し、同時にキリコの右足がアウソの左腰を蹴ったのだった。

すると重心が右足に掛かっていたアウソの体制が大きく崩れ、剣の軌道はキリコとは明後日の方向を薙いでいく。

そして体制を立て直すことも出来ずにアウソは地面へと転がった。

「…なるほど」

こんなに簡単に脱出できたのかと感動した。
この方法を見てしまうと、あの時何故手を使ったのかと疑問が沸き上がり、無知はいらない怪我を作るということを学習した。

「と、こんな感じね。そんで内膝を押すときに拳で殴って関節攻撃をすれば相手はしばらく動けなくさせることが出来るわよ」

「ほう!」

イメージしてみると案外簡単そうだ。実際にやるのとは恐らく違ってくるのだろうが、知識があるのと無いのでは明らかな差が出来る。

そう考えると、すごく面白く感じた。

「も、もういい?」

倒れた体制のままアウソが恐る恐る言う。

「ありがとうアウソ。勉強になったよ。キリコさんもありがとうございます」

それから三人で順番に組手をしながら時間を潰し、カリアが出てくる頃には夕方になっていた。

「場所が割れたよ」

カリアが言う。

尋問をしていた人達と外で待機をさせられていた人達が集まり、会議を開いた。

かなりの人数なので外で地べたに座り地図を開く。

村長が地図を指差し、アジトの場所を詳しく説明し、更に尋問で吐かせた情報も交えながら襲撃ルートを画策していく。
アジトの規模はそこまででかくはなく、とある洞窟を改造して使っているらしい。

それにちょうど良いところに今アジトでは強奪した物資を運ぶという事で人手を割いている。

「拐われた人達はどうしたんや」

「あいつらはただの下っぱ共だから詳しいことは分からへんが、鷹ノ爪が関わっている…ということは確かや。しかも、一定期間経つと運び屋が来るらしい。くそ、うちの村を縄張りに使用しとったってことか…」

「……一定期間ってのは、どのくらいなん…」

「それが、分からん、と」

吐き捨てるように何かを言う男性。
捕まえた賊を殴り殺そうとしていた人だった。

「まずはアジトに乗り込んで探るしか無いね。潜入組と突撃組に分かれるよ」

まず突撃組がアジトの中で大暴れして気を引き付け、潜入組がどさくさに紛れて奥の方に侵入し、拐われた人達を解放するというもの。

「あんたたちはアジトの出入口を張って、逃げ出す奴等を取っ捕まえといて。全員纏めて軍に突き出すから」

「おん、分かった」

そして戦闘力のない村の男達が尻尾巻いて逃げる奴等を集団で襲い掛かってお縄にする。
武器は鍬(くわ)やシャベルにフライパン。そして武具屋のリーオから幾つか武器を貸出ししてくれた。
売り物なのに良いのか?と質問したら、奴等には散々されたからその鬱憤(うっぷん)を晴らすためだと思えば安いもんだと言われた。ちなみにぎっくり腰のガロ爺の御墨付きである。
男前や。

「襲撃は今夜、準備しておいて」













各々武器を手に森を進む。

空のだいぶ高い位置に三日月が出ているが、
辺りは薄暗く、襲撃するとなれば不用意に灯りも着けてはならないのでとても危険である。

「そこ、根っこがあるぞ。気を付けろ」

だが、普段から灯りなく森のなかを行く時もあるハンター面々は夜目が利くようになるらしい。

先導するハンター達が後方の村の男達に足元の危険を小声で知らせていた。

(…そしていつの間にかハンターに染まりつつあるオレ、ってか)

弟子入りしてまだ一月も経ってないというのに、暗い森の道が普通に見えていた。それこそ足元の根っこどころか小石まで見えるレベル。

(やっぱりほとんど人工の光を絶って生活すると夜目が利くようになるんだな)

「にゃーう」

心の声に反応するように「自分も見える」と猫が肩で鳴いた。

「お前は元々見えるだろ」

しばらく行くとハンター達が止まった。
此処が目的地のようだ。

「よし、ここから分かれるよ、突撃組が先に突入するから、戦闘が過激化してきた頃合いで潜入組が入って。タイミングは…、キリコとサズだっけ?任せるよ」

「はい」

「任せて師匠」

キリコと緑の髪をした中年の男性、サズが返事をする。

「ライハとアウソも、キリコが付いているとはいえ危険なのには変わり無いからね。自分の身は自分で守るよ」

「了解っす」

「わかりました」

返事を返し、カリア達突撃組がアジトの方向へ消えていくのを見送っている最中、後方が騒がしいことに気付いた。

敵に見付かったのかと思ったが、どうやら違うようだ。村人組の中から見覚えのある男性が剣をもって這い出てきた。

「お願いします!俺を潜入組に入れてください!!」

あまりにも必死な形相過ぎて軽く引いてるとそれに気付いたキリコが男性に声をかけた。

「名前は?」

「レーニォ・スパニーアです!」

「その剣は使えるの?」

「使えます!昔、旅芸団(ヒターノィ)と行動を共にしていました!きっと役に立ちます!」

「アタシはうちの弟弟子(おとうとでし)で手一杯だから、ちゃんと自分の身は自分で守ってよ」

「はい!迷惑は掛けません!」

「だって、サズはどうする?アタシは受け入れ構わないけど」

レーニォがお願いしますとサズを方を見る。
サズは得物の斧を地面へと置き、髭をポリポリ掻きながらレーニォを頭から爪先まで眺めてキリコの方を向いた。

「俺も構わん。旅芸団(ヒターノィ)ん所にいたのならそこそこ腕は立つしな」

その言葉を聞いてレーニォは嬉しそうにグルァシアスと二人に向かって言っていた。
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