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第二章 動き出す
知らぬところで
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あれからさらに20分。
「ほらほら、もう少しよー!」
既に到着しているカリアからの声が聞こえる。猫の姿も見当たらないから猫ももう着いているのだろう。
だんだんとコツをつかみ始めた屋根超えをゼイゼイ息を切らせながら最後の屋根をよじ登るとようやくリベルターの店が見えた。
「!」
カチャリ。
ドアノブを回す音が聞こえて急いで屋根から飛び降りると、リベルターが此処に来るのがあらかじめ分かっていたように現れた。
「よく来たわ。無事で何より」
そしてリベルターが優しく微笑んだ。
全くの無事ではないが、度重なるミラクルによって今生きているから無事で当たっているか。
「ニャー、ニャー」
猫が嬉しそうに駆け寄りリベルターの太股に体を擦り付ける。あの巨体にすり寄られるとバランスを崩してしまいそうだが、リベルターは気にせず猫の巨体を優しく撫でた。
ゴロゴロ喉を鳴らすのが聞こえた。おかしいな、飼い主のオレよりもなついているぞ。
「リベルター、今回は力を貸して頂きありがとうございます」
カリアがお礼を言うのを見て、慌てて頭を下げた。それはもう深々と。
「良いのよ、それよりもきちんとコレが役に立って良かったわぁ。どう?体に不具合とかは無いかしら?」
リベルターが触れているのは猫の首輪。
しばらく考えて、ふと思い付いた事が。
「あの、もしかして、オレの異常な回復能力ってリベルターさんが?」
この首輪に何か細工がされているのだろうか。装着しているの猫だけど、何かしらの付属的なやつで飼い主も共に影響みたいな。
「んー、と、半分正解かしら。私が渡したこれは『魔蔵ノ鍵』って言って大量の魔力を装着しているモノに貸してあげることが出来るの。あ、もちろん使った分の魔力が戻るまでは外れないし死なない程度には魔力吸われるんだけどね」
頭のなかに金融のCMが再生された。
つまりは、オレの猫はこの首輪に魔力の借金をしている、と。そして今返済中、と。
「…ん?でもそれ猫が大きくなった原因じゃないんですか?」
回復能力は関係無いんじゃないかと。
しかしそれにリベルターが小さく首を横に振った。
「貴方とこの子は今共存関係にあるからね、猫に流れる魔力は当然貴方にも影響があるわ。前にも無かった?貴方の追ったダメージをこの子はちょくちょく肩代わりしていたみたいよ」
「ええ!?」
慌てて猫を見て、記憶を巡らせる。
そんなオレの横でカリアが「ああ、そういう事よ」と納得の声をあげていた。
「待って、当事者だけ何も知らないこの状況辛い」
必死に記憶を巡らせ、リベルターの言葉を照らし合わせてみる。今のところ思い出したのはユラユで手をぶつけて剣を逸らした時に付いた傷が思ったよりも早く治った記憶。そういえばあの頃猫はよく右前足を舐めていたような気がする。
あれ、もしかして傷肩代わりしていたのか。
「……なんか、異常な回復能力が備わったと思ってデメリットも考えず調子のってすみませんでした!!」
とりあえず知らず知らず猫に多大な負担を掛けてた事にオレは全力で謝った。そんなオレを見て、猫は「気にするな」と軽く尻尾を振った。
男前か。
リベルターが店から猫の首輪に形が少し似た腕輪とネックレスを持ってきた。銀色に様々な色が混じっていて、光の方向によって色彩が変わる。
そして腕輪に3つの穴が、ネックレスには所々に赤い石が嵌め込まれていた。なにコレ。
「コレなんですか?」
石を指差しリベルターに訊ねてみるが。
「ンフフフ、いいもの。後で分かるわぁ」
とだけ。
何だろうな、何となく魔力が籠っているのだけは分かるけど、何故か白いものなのか黒いものなのか分からなかった。
「あ!そうそう、貴方を紹介したい方がいるんだけど良いかしら?」
「?」
「?」
商品を見ていたカリアと同時にリベルターを向く。
「えーと、たいした事じゃないんだけど、面白い子達がいるから少し見てみてって…。ダメかしら?」
カリアと目が合う。
「好きにするよ」
再びリベルターを見る。
特に困ることはない。ないと思う。多分。
「大丈夫です」
「ほんと?嬉しいわ!じゃあー、“フリィダン”から紹介されたって言う方がいたらお願いね!」
「リベルターではなくて?」
「私もうそろそろ此処離れてウェズオー方面に行かないといけないから、その為に呼びやすい名前に変えているのよ。クワトロ達も私の移動と共に定期的に変わるから、次にあったら確認してみると良いわ。それで私の居る地域がわかるから。あ!そうだ!貴方さえ良ければ私の“使い”にならない?そうすれば色々優遇するわよ、少し仕事をしてもらうけどね」
なんでニックの呼び名がマテラ語の数字なのかと思ったら、居場所を分かりやすく教えるためだったのか。それにしてもフリィダン、フリーダム…、freedomか。リベルターも『自由』って意味だしな。この人も呼び名だけで本名は別なのかもしれない。
「どう?」
「んー、すみません。今は遠慮しておきます」
ちょっとまだ自分の事で精一杯で他の事を考える余裕がないし、何よりもまずカリアの弟子として色々教えてもらっている最中だ。ホールデンに戻る理由がなくなった以上、ちゃんと勉強したい。
でも余裕が出来たらやりたいなとも思っている。
あ!そういえばその事言ってないや!
戻ったら言おう。
「そう、まぁ仕方ないわね。でもやりたくなったらいつでも言ってね」
「ありがとうございます」
それから少しだけ雑談し、太陽が高くなった頃にリベルターの元を後にした。
「え、帰りもやるんですか?」
「? 街に戻るまでが修行よ」
「……おぅ」
こうしてオレの1週間のサグラマ往復修行は終わった。
「ほらほら、もう少しよー!」
既に到着しているカリアからの声が聞こえる。猫の姿も見当たらないから猫ももう着いているのだろう。
だんだんとコツをつかみ始めた屋根超えをゼイゼイ息を切らせながら最後の屋根をよじ登るとようやくリベルターの店が見えた。
「!」
カチャリ。
ドアノブを回す音が聞こえて急いで屋根から飛び降りると、リベルターが此処に来るのがあらかじめ分かっていたように現れた。
「よく来たわ。無事で何より」
そしてリベルターが優しく微笑んだ。
全くの無事ではないが、度重なるミラクルによって今生きているから無事で当たっているか。
「ニャー、ニャー」
猫が嬉しそうに駆け寄りリベルターの太股に体を擦り付ける。あの巨体にすり寄られるとバランスを崩してしまいそうだが、リベルターは気にせず猫の巨体を優しく撫でた。
ゴロゴロ喉を鳴らすのが聞こえた。おかしいな、飼い主のオレよりもなついているぞ。
「リベルター、今回は力を貸して頂きありがとうございます」
カリアがお礼を言うのを見て、慌てて頭を下げた。それはもう深々と。
「良いのよ、それよりもきちんとコレが役に立って良かったわぁ。どう?体に不具合とかは無いかしら?」
リベルターが触れているのは猫の首輪。
しばらく考えて、ふと思い付いた事が。
「あの、もしかして、オレの異常な回復能力ってリベルターさんが?」
この首輪に何か細工がされているのだろうか。装着しているの猫だけど、何かしらの付属的なやつで飼い主も共に影響みたいな。
「んー、と、半分正解かしら。私が渡したこれは『魔蔵ノ鍵』って言って大量の魔力を装着しているモノに貸してあげることが出来るの。あ、もちろん使った分の魔力が戻るまでは外れないし死なない程度には魔力吸われるんだけどね」
頭のなかに金融のCMが再生された。
つまりは、オレの猫はこの首輪に魔力の借金をしている、と。そして今返済中、と。
「…ん?でもそれ猫が大きくなった原因じゃないんですか?」
回復能力は関係無いんじゃないかと。
しかしそれにリベルターが小さく首を横に振った。
「貴方とこの子は今共存関係にあるからね、猫に流れる魔力は当然貴方にも影響があるわ。前にも無かった?貴方の追ったダメージをこの子はちょくちょく肩代わりしていたみたいよ」
「ええ!?」
慌てて猫を見て、記憶を巡らせる。
そんなオレの横でカリアが「ああ、そういう事よ」と納得の声をあげていた。
「待って、当事者だけ何も知らないこの状況辛い」
必死に記憶を巡らせ、リベルターの言葉を照らし合わせてみる。今のところ思い出したのはユラユで手をぶつけて剣を逸らした時に付いた傷が思ったよりも早く治った記憶。そういえばあの頃猫はよく右前足を舐めていたような気がする。
あれ、もしかして傷肩代わりしていたのか。
「……なんか、異常な回復能力が備わったと思ってデメリットも考えず調子のってすみませんでした!!」
とりあえず知らず知らず猫に多大な負担を掛けてた事にオレは全力で謝った。そんなオレを見て、猫は「気にするな」と軽く尻尾を振った。
男前か。
リベルターが店から猫の首輪に形が少し似た腕輪とネックレスを持ってきた。銀色に様々な色が混じっていて、光の方向によって色彩が変わる。
そして腕輪に3つの穴が、ネックレスには所々に赤い石が嵌め込まれていた。なにコレ。
「コレなんですか?」
石を指差しリベルターに訊ねてみるが。
「ンフフフ、いいもの。後で分かるわぁ」
とだけ。
何だろうな、何となく魔力が籠っているのだけは分かるけど、何故か白いものなのか黒いものなのか分からなかった。
「あ!そうそう、貴方を紹介したい方がいるんだけど良いかしら?」
「?」
「?」
商品を見ていたカリアと同時にリベルターを向く。
「えーと、たいした事じゃないんだけど、面白い子達がいるから少し見てみてって…。ダメかしら?」
カリアと目が合う。
「好きにするよ」
再びリベルターを見る。
特に困ることはない。ないと思う。多分。
「大丈夫です」
「ほんと?嬉しいわ!じゃあー、“フリィダン”から紹介されたって言う方がいたらお願いね!」
「リベルターではなくて?」
「私もうそろそろ此処離れてウェズオー方面に行かないといけないから、その為に呼びやすい名前に変えているのよ。クワトロ達も私の移動と共に定期的に変わるから、次にあったら確認してみると良いわ。それで私の居る地域がわかるから。あ!そうだ!貴方さえ良ければ私の“使い”にならない?そうすれば色々優遇するわよ、少し仕事をしてもらうけどね」
なんでニックの呼び名がマテラ語の数字なのかと思ったら、居場所を分かりやすく教えるためだったのか。それにしてもフリィダン、フリーダム…、freedomか。リベルターも『自由』って意味だしな。この人も呼び名だけで本名は別なのかもしれない。
「どう?」
「んー、すみません。今は遠慮しておきます」
ちょっとまだ自分の事で精一杯で他の事を考える余裕がないし、何よりもまずカリアの弟子として色々教えてもらっている最中だ。ホールデンに戻る理由がなくなった以上、ちゃんと勉強したい。
でも余裕が出来たらやりたいなとも思っている。
あ!そういえばその事言ってないや!
戻ったら言おう。
「そう、まぁ仕方ないわね。でもやりたくなったらいつでも言ってね」
「ありがとうございます」
それから少しだけ雑談し、太陽が高くなった頃にリベルターの元を後にした。
「え、帰りもやるんですか?」
「? 街に戻るまでが修行よ」
「……おぅ」
こうしてオレの1週間のサグラマ往復修行は終わった。
応援ありがとうございます!
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