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第二章 動き出す

ザラキ、考える

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雷雲が思ったよりも早めにやって来てしまったので、修行もそこそこで切り上げ家に戻ってきた。

今日やった修行は手探りで始めたので成果はない。やったことと言えば目のピントを合わせると言うものだ。

魔のモノと融合してしまったことにより、オレの体には、仮説であるが、魔のモノ特有の能力が宿ってしまったのではないかとの事だった。魔のモノは魔力を見る能力に長けている、だからオレの死にかけの状態とプラスして魔力を見る力が強いのではと説明された。だけど、オレが馬鹿なのかよくわからなかった。

「あ、寝てる」

夕方頃、また灰馬が出てたので一応心配になって小屋を覗けば小屋の中で熟睡していた。しかし扉は空いている。いや灰馬しか居ないから良いんだろうけどさ。

気になったのでザラキに聞いてみると、灰馬が寝るのに飽きて扉に体当たりしていたので出したとのこと。
管理ずさんすぎるだろ。

でもちゃんと夜になると戻るから別に良いのか?




窓越しでネコが外の雨を見ている。
暇なのかな。

ネコはそのままで家で出来る修行を考えているときに、オレはふとわからないことがあってザラキに質問した。

「ザラキさん、一つ良いですか?」

「なんだ?」

「龍って、海龍だけじゃないんですね」

てっきり一種類しかないのかと思った。

「ああ、龍は結構な種類がいる。知っている龍を大まかに教えると、海を巡る海龍。こいつがなかなか気紛れな性格をしていてな、よく漁師と小競り合いを起こしている」

ザラキが紙にウツボのようなものを描く。毛や鱗や角が生えているが、オレには何故かウツボに見えた。

「で、さっきの風龍だが、あれは世界の何処にでもいる。ルキオで目撃者が多いが、風が常に吹いているから関係があるんじゃないかと言われている。ルキオ以外の風が強い国にも現れるから風神とか呼ぶ所もあるらしい。それでも気軽に現れるわけじゃない、姿も透明に近いし呼んでも気付かない時のが多い、見られたのは幸運だ」

俺は特徴的な風で気付いただけだしな。

とザラキが言う。
幸運なんだ、アレ。

「他にも氷で出来た龍とか、土のなかにいるのとか、姿も色々だし。全部知っているやつは居ないと思う。なんせ龍は精霊と似たようなもんで、人の理解を越えている」

「じゃあ、ドラゴンは?」

「あー、そっちは専門じゃないからなぁ。キリコに聞いた方がいい。話は長いが色々教えてくれるだろう」

「そういえば竜混じりでしたね」

忘れていた。

「それにしても、お前ほんとうめんどくさい体してるな。混じりすぎ」

「好きで混ざってないです」

「くそー、まさかこんなに修行が手こずるとは思わなかったぜ。色つきのが見えたのならすぐだと思ったんだがなぁ」

「すみません」

「謝ることはない。俺の力不足だ」

まだまだだなぁー、とザラキが言う。
しかし落ち込んでいる様には見えない。それどころか目が子供のように輝いているように見える。

「とりあえず、今はその見えすぎる目を解析しよう。ここは山の中腹だから山頂よりも魔力がある。ただ、余計なものもたくさんあるから純粋な魔力を見辛いと思うが、今回は逆に好都合だ。一つずつ見てみよう」

一つ目。
何かの粒子が見えます。

「風のか?」

「と思いますけど。あの風の帯を見てからは風の粒子なのか自信無いです」

「一応書き留めとくか」

二つ目。

「外だと帯がたまに見えます。家では見えません」

「なんだと思う?」

「………なんだろ?流れの帯的な?」

「これは明日確かめよう」

三つ目。
特になし。

「何も見えない?」

「よくわからないです」

四つ目。
靄が見えます。

「どこに見える?」

「ネコとか、あとザラキさん」

「………これには見えるか?」

空のコップを出す。

「見えません」

ザラキは暫し考え、静かに立ち上がった。

「ちょっとそのままで俺の手見てろ」

言われた通りピントを合わせたままじっと見ていると、靄が大きくなっていった。まるで薪を足された焚き火のよう。

「靄は増えてるか?」

「増えてます」

「じゃあ次は一つ目のピントで見てみろ」

言われた通りにしてみると、粒子が凄い勢いでザラキに吸い寄せられていた。

「どうだ?」

「粒子がザラキさんに集まっていってます」

「じゃあこれは?」

ザラキが手を横八の字に振った。するとザラキの手の周りの粒子が七色に輝き小さな竜巻のような渦が生まれた。

「光の渦が出来てます」

ザラキが手を止め考え出す。
そしてこっちを見てこんなことを言った。

「試しに目はそのままで、心の中で粒子に集まれって全力で命令してみろ」
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