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第三章 使い方

爆走なう

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「この二週間、お世話になりました!!」

「おう!近くに来たら絶対に寄れよ!!」

『美味しい鳥用意しててー!』

「めっちゃでかいの用意してやる!!」

ザラキと涙ながらの(比喩)別れを終え、灰馬に股がった。くそう、こいつも二週間でだいぶ逞しくなりやがって。

これは全然別の話であるが、この馬。昼間放し飼いにしていたら突然いなくなり探し回っても見付からず半分諦めていた頃にひょっこり姿を表した。山の主達と仲良くなって。どうも遠出をしたら帰れなくなり、そのまま国境沿いの山をウロウロしているうちに山の主と友達になっていたっぽい。なんて馬だ。

「大げさだなー」

「凄いお世話になったから」

主に魔力方面で。

「ザラキ、原因がわかったら連絡寄越すよ」

「頼んだ!気を付けろよ!」

そしてオレ達は山を下った。
鬱蒼とした森にある獣道を辿りながら麓まで行くと、そこにはザワワザワワと有名なサトウキビ畑が広がっていた。

思わず触り掛けたが止めた。

事前にサトウキビの注意点を教えて貰ったからだ。なんとサトウキビ葉っぱ。下手に触るとスッパリ切れる。そして若い葉っぱは目では見えにくい棘が無数に生えており、刺さったらなかなか取れないうえにチクチクと嫌な痛みが自然に棘が取れるまで続く。ルキオの人達もサトウキビ狩りをするときは入念に準備をして行うのだ。素人が安易に手を出すものではない。

「キビ食べたいば?」

「オレの前いた所でもこれを育てていた所があったからさ、つい。歌にもなったんだよこれ」

「これが?」

「これが」

「へぇー、面白いなそれ」

そういえば母さんがハマってずっと歌っていたなと懐かしくなる。

「歌ってみなよ」

「え、いやオレ歌上手くないし」

「コッチも聞いてみたいね」

「ええー…。結構抜けてるところあるけど良いですか?」

「大丈夫大丈夫、歌ってみ。聞いてみたいさ」

「じゃあ」

歌を歌いながら道を行く。向こうを思い出して家族は今どうしているのかと思う。歌い終え、次は俺だとアウソが歌い出し、順番に故郷の歌や好きな歌を歌いながら進んでいった。


山沿いに進み、しばらく行くと舗装された道に出た。舗装されたといっても土に丸石を敷き詰めて、隙間に小石を詰めたものだけど。

「ここをずっと行くと港町のクニチブルに着く」

クニチブルはルキオ三大港町の一つだ。ここから出た船は華宝国へと着く。そこからはマテラやルキオにはない陶器や宝石、食べ物なんかが輸入されてくる。勿論輸入だけでなくルキオは輸出も盛んだ。南の外海から勝ち取ってきた海の恵みや魚、珊瑚に海遊人ンミアシバー達しか手に入れることの出来ない宝石などがある。あとはサトウキビウージーだ。甘味は貴重だからな。高く売れる。

「あそこは後で行くよ」

「ライハ吃驚するぞ!見たこともない船があるからな!」

「そりゃ楽しみだわ」

帆船は初めてだから、テンション上がる。

更に数日掛けて山沿いに行き、途中人の行き来が激しい道も抜けてまっすぐ。それこそ観光ではありませんからと全ての町や村をスルーするくらいまっすぐ。いや出発する前に事情を聞いたけどここまでスルーするくらい急いでたのかと今更ながら実感する。途中からマテラ後半の猛スピードで走行中だし。いや、慣れたけどさ。さすがにもう慣れたけど。

すれ違う人が「なにあれ」みたいな目で見てくるのはまだ慣れない。

確かにとんでもないスピード出してるのは自覚してます。対抗心燃やした駿馬乗りが勝負しかけてきても即引き剥がせるくらいのヤバイ速度出してるしね。

よく慣れたよ。もう全然馬酔いしない。
何ならもう片手離せるよ。

「落馬するからまだ止めなさい」

「はい」

キリコに怒られた。

そんなこんなで飛ばし続け、ザラキ宅出発から5日後。








「なに、ここ」

オレ達はとんでもない所に辿り着いたのだった。
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