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第三章 使い方

竜との交渉は

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竜の動きが止まった。

そしてゆっくりと限界まで開いていた翼を閉じていく。

「お前はなんだ?」

竜が言う。
あれ?人の言葉話してる?

「アタシは元アギラのアシュレイ族だ。貴方と同類だよ」













竜の名前はグレイダン、キリコと同じくアギラ出身で、アギラを離れた放浪竜なのだそうだ。

アギラは掟に厳しく、弱いものは即切り捨てる。人拐いに捕らえられた経験のあるキリコも、外の世界を知りたくてアギラを飛び出したグレイダン(竜)も、アギラの掟に従えなかった弱者として切られた為に黒斑の病に犯されても誰にも助けを求められず、せめて世界樹に見守られて朽ちようと思っていたらしい。

「洞窟にぶつかってきたの貴方?」

「すまん、あまりにも辛くて八つ当たりで暴れた…」

(本当に八つ当たりだったのか)

といってもオレは実際に見てないからな。

この竜はまだ126歳程で、強さには興味がなく、外に憧れて人の形を練習し、言葉を必死に覚えたのでこの若さでこんなにも流暢に人の言葉を話すことができるらしい。

ちなみにオレ達に攻撃をしてきたのは、穏やかに死に逝きたいのにおもしろ半分で邪魔をしに来た奴等なのかと思ったと言っていた。

お互い誤解が解けて何よりだ。

「それで、助けに来たと言うのは?」

「一つの可能性だけど、もしかしたらその病を治せるかもしれないの。貴方がまだ生きたいと思うのならば協力して欲しい。そのままアギラの竜として誇り高く死に逝きたいのなら邪魔はしない」

竜とは強いものの象徴である。特にアギラでは手を借りず己の力で長く生きるのが誇りの一部である。手を借りる事は自分の弱さを他者に教えるようなものだからだそうだ。

オレは竜じゃないからその考えはよく分からないけど。

「己は既にアギラを捨てた身だ。もし生きられる可能性があるのなら、喜んで協力させて頂く」

「ありがとう」

竜との交渉が成立し、森に隠れていた獣人達にもう安全だと知らせる。そして水はそのまま持ってきてもらい、入れ物から溢れそうな紅破の葉と新鮮な絹布(ルキオとの交流品)を持ってきてもらった。

「じゃあ、ライハ。後は頼むわね」

「何かあったらすぐ言うよ」

「ベストを尽くします!」

さぁ、ここからオレの出番だ!
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