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第四話
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名探偵ミツコ ドキドキワクワク!?潜入調査!本当の目的は殺人事件の解明だよ忘れないでね!?編
ハルミの作戦はこうだった。先ず、公安警察の人を探す。次に玉蟲家のお金が払えなくなった人を探す。最後に開かずの扉を探す。
できれば犯罪行為があってほしい。それを立件し通報さえできれば解放される。
正直秘密を全部手に入れられたとしても帰れる保証がどこにもない。あの大きな鍵のかかった門と巨大な壁。あれを抜けられるほどハルミの身体能力は高くはなかった。
最悪アイトみたいに体を売ればなんとかなるのか?
未だ迷ってしまいましたーの言い訳が使えるうちにいろんな部屋を調べることにした。破戸はどこかにいってしまった。
何と言っても最初は開かずの扉。廊下には他に人がいないことを確認すると、鍵の方を触ってみる。
成程、典型的な鍵タイプであった。これは鍵がないと絶対に入れない。壊すことも視野に見てみたがそれもどうやら無理そうだ。
そう言えば破戸は誰が鍵を持っているか言っていなかった。富津に考えて蜜柑船が持っているのだろうが、一応他の人が持っていることも考慮しておく。
次に修行の場をそっと覗く。
さっきと変わらない面々がずっと両手を合わせ目を瞑っている。これからこれをしないといけないのかと思うとゲンナリした。
最後に大人しく寝床についた。そこは剣道場のような硬い床で、雑魚寝のせんべい布団が永遠に敷かれていて、頭上には名前のプレートがあった。宇沙梨を探すと扉側に見つけられた。
「ここで夕飯までに待て、と、、、一体何しておけばいいんだ」
隣を見ると、またそれも布団の上にネームプレートが置いてあった。
もしやこれは入会した順で扉に近くなっているのかな?
『流石に仲間の情報は教えれないから、ヒントだけ出す。彼は三ヶ月前に入会した。以上、、』
おんちゃん、いくらなんでもそれはヒントじゃないよ、、、。しかし三ヶ月前に入会した男性さえ特定できればこちらの勝ちだ。付近の布団で男性の名前と思われるのは次の四つが上がった。
蝶二、雀右衛門、三之助、マモル。
するとキーン、とモスキート音のような金属音が、耳をつん裂くように鳴った。どうやらスピーカーからこの音が出ているらしい。
『食事時間です。食堂に集まってください』
なんだ、そのことか。
ノロノロと歩きながら食堂へ向かった。食堂も寝床と同じような作りでどこかの旅館の宴会会場のような、畳が敷き詰められた部屋であった。だがそこには椅子などなく正座だと思われる。お盆と小さな食事台が乗せられているで分かれていた。
他の人たちも続々と集まってくるが、みんなこちらを振り向かない。新入生には慣れているのだろうか。そこでハルミは一つ発見をした。信者の中には二つのタイプがあった。
ザ☆清められて信者です!な清々とした顔をしている人。
重労働の後のように死にながら生者を演じているような足取りの重い人。
取り敢えず前者に混じって食堂に入った。
「ウサリ、お前はこっちだ」
誰かから名前を呼ばれた。見たこともない男だった。
そこに駆け足で行くと、自分のネームプレートと、お盆が置いてあった。
周囲の人はさっきでいう後者。正気の無い人間たち。今日は初日なので当たり障りのないようにちょこんと座った。誰も私語などしておらず、食事も運ばれてこない。
「当主のご入場―!拍手―!」
すると一斉に盛大な拍手が始まった。当主蜜柑船が嬉しそうに入ってくる。
「本日も皆様お勤めご苦労様でした。まだ1日は残っていますが頑張ってください。そして今日、新しく我らと共に玉蟲の家に入ってくれた人がいます!宇沙梨と言います。仲良くしてやってくださいね」
小さく頭を下げたが誰も気づいていないようだ。
そして食事が運ばれてきた。精進料理かーと思ったら。料理を運んでいた人間は素通りして食事台が置かれている信者の方へと持っていった。
対して平らなお盆だけのこちらスペースには白い液体が入った瓶と、野菜一切れのみがあるだけだった。それも手掴みで渡される。
「それでは命あるものに感謝をして、食事開始!」
これで食事か。そう言いたくなったが我慢をして瓶を口につける。どうやらこの瓶は女性信者にしか配られていないようだ。
男性信者には透明な液体である。
一口つけてみる。
一瞬でわかった。
男性の温かいカルピスであった。
「残してはダメですよー、こぼしてもダメですよー」
まるでハルミのことを糾弾するように蜜柑船は声を荒げる。
必死になって飲むが、それでも最後にこぼしてしまった。
するとそれを発見した男性信者がハルミの元へと駆け寄ってきて野菜を奪った。
「舐めて綺麗にしろ」
そう一言言い残して。
仕方無く下で地面を擦るが相変わらず不味かった。
いじめじゃん、これ、、、。
「食事終わりー!作業に戻ってよーし!」
ギリギリで舐め終わったハルミは次は自分で何をすればいいかわからず、その場に座り込んでいると、蜜柑船が近寄ってくる。
「ウサリ、さっきはよくも私の精液を溢したね。どうしてかな?」
その目は怒りが滲んでいた。
「、、、あまりの美味しさで、つい」
すると蜜柑船は「このものを折檻しろ」と冷たい声を周りの部下に伝えどこかへさっていく。
「あんまり口答えすると、お前は折檻部屋から出られなくなるからな」
後ろ手に手錠をされ足枷も瞬時に嵌められてしまった。
そりゃそうだ。
人数五人に対して1人が敵いっこないよ。
折檻部屋に連れていかれるのか。そう思うと少しだけ恐怖心が泡だった。
道中、暗い廊下で今自分がどこにいるのか全くわからなかったが、何も考えないようにした。
突然一向が止まった。するとそこは小さな犬が出入りするような木の扉が存在した。松明でギリギリ見える。まさか、ここに、、、。
「ここを抜けると折檻部屋に入ることができる。ただし、この通路上で止まればお前はそれも折檻の対象となるからな。さあいけ」
真逆この状態で?だが拒否権はないようで這いつくばって進むしかなかった。
通路は入り口は入りにくかったし、肩は痛いし、膝も痛いし、、、。だが距離は思っていたほどで、直進で十五メートルほどであった。そこを抜けると座敷牢のようなところに到着する。そしてそこにはスーツ姿の1人の男がいた。
「新入りさんて聞いたよ。僕は痛くしないからね」
手に持っていた鍵でハルミの足枷を外してくれたがその座敷牢にあった足を金属で止める壁と一体となった拘束具に嵌め込まれる。手も同様にされたのだった。
「珍しいね、こんなに抵抗しない人。慣れてるのかな」
なんだかんだで襲われやすい体質だからかな。
「成程、おしゃべりは嫌い、か。じゃあ始めよう」
はい、これで強姦罪成立、アンド売春斡旋、その他諸々―。
これだけで十分収穫はあった。
「ふう、、、。今日は楽しめたよ。ありがとうね」
結局ハルミは行為中一言も話さなかった。いや、話せなかった。本当はこんなところ早く出てオンカに報告したいのだが、脱出ルートがわからない。多分この座敷牢は外に繋がっているのだろう。だが門番が外にいるらしくスーツ姿の男性は「どうも」と声をかけて足音を遠ざけていった。
「ウサリ、折檻部屋にはもうこないと誓うね」
スピーカーからは蜜柑船の下卑た声が聞こえてきた。
「、、、、、はい、誓います」
「警察の方々、今日はようこそおいで申し上げました。態々ご足労いただきありがとうございます。私現玉蟲家当主玉蟲雨ノ情と申します」
優凪から案内された普段は会議室や集合時に使うと言われた大広間に通された。やはり和風な作りになっていて木造建築。庭も広く、体育館3個分は敷地はあるのではないだろうか。大広間は深草色の畳で机がひとつ。そこにアイトとアオミチが当主と対面する形で座り、2人の後ろに玉蟲の家に使える者がずらっと並ぶ。
その後継はまさに壮観。ピンと張られた糸のように静か、自然に緊張も高まってくる。
「それで、殺された4人についてですが、後でちゃんと死亡届は出してください。そしてこの事件の犯人が見つかる迄は貴方達は重要参考人なのでそのことも忘れずに。よろしいですね?」
キャリアⅠ種を持っているだけの青路は正々堂々と言い渡した。何も恐れることなく。
「わかりました。それで、お渡すものはこちらでよろしかったですね?」
禿げた頭の党首は写真を6枚すごすごと渡す。
矢張り自分が手塩にかけた後継者の亡くした悲しみは簡単に癒えないようだ。
「拝見します」
全員可偉と同じく見た感じでは刺殺だった。ただ、凶器はどこにも見当たらない。
「、、、、凶器は現場に落ちていなかったのですかね?」
「はい。ただ、私達も伊達に陰陽師を名乗っているのではありません。この現場の雰囲気はとても邪悪なもの、、、。呪いを感じさせるものでした。そしてその邪悪な雰囲気は伊盧李家の式神でした。きっと、伊盧李家が呪殺したに違いない、そう考えておる所存でございます」
完全にファンタジーの世界なのであまりついていけなくなっているアイト。だがそれでもふと疑問が湧いたのだった。
「じゃあ玉蟲家も伊盧李家を呪おうなんて考えないんですか?」
これには流石に空気がざわついた。
優凪は我慢ならないといった表情でアイトの肩を後ろから鷲掴みにする。
「あんた呪うなんて簡単に言ったらあかんやろ!人を呪わば穴二つ、そもそも陰陽道なんてのはそんな外道に使われるためのものじゃない!」
「じゃあなんで伊盧李家は呪っているんだ?伊盧李家はリスクを冒してまで呪っているのか?」
すると優凪はさっきの剣幕はどこへいったかと思わせる落ち着きを見せ、首を振った。
「もともと伊盧李家にはああいう性質があったんや、、、、。灰色のね、、。私達は祈祷や天文学、時には物の怪退治を専門にしよるけど、あいつらは違う。呪いを売りに名前を売ってる外道集団。さっき言ったように呪うことは命の危険も伴う。というか、人1人殺すまで呪ったら、呪った本人も死んでまうで、、、。多分、伊盧李の方も何人か死んではるんや。でも、あいつらは腹黒やから、無数に産んできたただの依代にこちらを呪わせて死体を捨てる。そんなことをやっとるに決まっとるんや」
それに対し優凪の後ろにいた陰陽師達も頷いている。
「では何か伊盧李家と玉蟲家は衝突しているのか?リスクがあってもそれに見返りがなきゃ誰もリスクなんぞ背負わん。それに関してお前は説明できるのか?」
青路はメガネの奥底に据える瞳で優凪を見つめる。
すると優凪は力無く首を振った。
「、、、、、取り敢えずこの写真は頂戴します。また何かあったら教えてください。それと、あのことについてなのですが、、、」
当主の顔は困惑を浮かべ息を吐いた。
「全く、困ったものです、、、。これでまた玉蟲の名が傷つくことになれば、どうすれば
いのか、、、。そちらの件は、警察の方々が動いてくれる、ということでいいんですね?」
ここでやっとアイトが口を開ける。
「ただ、中での犯罪行為が実証出来るまでは動けないのが確かなんです。それか、名誉毀損で訴える、という方法もありますが、そちらだと確実に立件できます。今、内部に2人、、、いや1人潜入捜査をしているのですがその人次第です」
後ろの陰陽師達もざわつき始める。しかしそれは警察に対する非難とは違い、首謀者に対する怒りのため息であった。
「本当に申し訳ございません。解決できるよう尽力いたします」
深く深く頭を下げ、帰って行った。
「あのことに関してなんですけど、勝手に玉蟲家が動いたりとかあったりするかな?」
アイトが門に一礼して横目で同僚を見る。
冷徹な同僚は「死体を勝手に焼いたんだぜ?やる可能性は大いにあるだろーよ」と舌打ちする。
「全く、勘弁して欲しいぜ。勝手に動くか?普通、、、」
それはハルミに対しても言ってくれ、、、。公安部からの情報によるとかなり酷い、、、ただ、酷いという言葉でしか表せれないほど環境が酷いらしい。
「南郷さん、大丈夫かな?玉蟲家がなんとか名誉毀損とかで訴えてくれればすぐに助けに行くことができるのに、、、」
俯きながらハルミが苦しみ悶える姿を想像し胸が痛む。嘗ての最強三羽烏のうち1人だ、警視庁もこの事実を知ったら黙っていられなくなるはずだ。それを確かめるために青路に話を振ったが、、。
「、、、、お前は疑問形でしか話せないのか?兎に角警視庁に戻るぞ」
深いため息と共に流されてしまった。
公安からの情報、とは言ったが、正確には公安部内の昔の同僚からの大出血サービス、と言った方が正確だった。情報提供者の姉が危なっかしいからどうにかしてくれというものだった。
あれから約三日が経った。大体のことは把握できるようになっていた。
先ず、課金信者に対しての優遇は破格。食事、ベッド、することなすこと全てが無課金ユーザーの比べ物にならないくらい上。確かに俗世間から離れてこんな優雅な暮らしが実現できれば悩みは消えていくだろうと頷けた。
一方前述したように無課金は扱いが酷かった。食事、煎餅布団、することなすこと、、、、。もう少し具体的にいうと、無課金ユーザーは強制労働が課される。それも一日十時間。具体的に何をするかというと、人それぞれなのだが、服を作ったり、糸を蚕から作ったり、機織り、食材等等。今ではロボットが全てしているようなことまでやらされるので、1日が終了した後の疲れは半端じゃない。これでは潜入捜査どころではない。ぐったりしたまま布団に入り死んだように眠る。それに何か違反したら直ぐに折檻と称した売春行為をさせられる。最も、男子の方もそうらしく、どちらにしろ無課金は辛いのだ。
こうなると、公安の仲間という人は、課金に入っているんじゃないかと思ってしまう。課金ユーザーは折檻などないし、常にお祈りをしていればいいだけ。こういう状況の悪さも、はるみを焦らせる原因となっていた。
しかしここまできて簡単に諦めることができないのははるみ自身一番わかっている。円架が一般人に情報を漏らしたことも問題ではあるし、それプラス自分にただただ被害が及ぶだけでましてやそれがマスコミなんかにリークされたら人生オワコン、墓場へまっしぐらだ。
なんとか、この状況を打開できる何かを、探せ、探せ、探せ、探せ。
そう自分に言い聞かせながら、ハルミに割り当てられた雑務、シャボン溶液の詰め替え作業をしながらぐるぐる考えていた。
一応、怪しい人は何人か見つけた。公安ではないか、と怪しい人。
先ず1人、同じシャボン溶液担当の葉子(ハコ)。年齢はハルミより下で、感覚的にはオンちゃんと同じ年齢じゃないかと思っている。ただ、年齢に関しては勘。とりわけ美人ということでもなく、いわば普通の容姿。どこにでもいるパッとしない人だ。何が怪しいという決め手になったかというと、無課金ユーザーの中では発言権があり、食事中も睡眠中も休憩中も、誰かしらと喋っている姿を見かけたのだ。それも特定の人間。公安もそれほど暇ではないから何人もの捜査員をここに入れるわけがない。だが、情報収集もしなければならない。そのためコミュニケーション能力が必要となってくるのだが、ハコにはそれがあるように思えた。どんな話をしているのかはわからなかったが、雰囲気的には明るい話ではなさそうだ。それにこの施設に入った人たちは俗世に愛想を尽かしてここにきている。喋りたがろうとする人間は先ずいない、そんな中で積極的にいろんな人と話しているのだから、ますます怪しかった。
次に、食事中隣の瑠璃蔵(ルリゾウ)。無精髭が生えており、ゴツゴツとした体つきで、この人なら単独でここから出ることもできるんじゃないかと思わせることができた。それくらいがっしりとした体つきで、かつ、蜜柑船に対しての尊敬心が強かった。宗教に魅惑されそれに狂い踊らされている、とは思えず、まるで狐が媚を売るかのような尊敬の眼差し。それをわざわざ幹部に知らせ、みんなが寝静まった後もお祈りをしている姿を色んな人に見られているのだから熱心沙という点では誰よりも評価をもらっている。こんなに目立つ行動がおんちゃんの仲間がするのか、と疑わざるを得ないのだが、昔オンちゃんが仕事でもらあしていた愚痴、『熱心すぎて引かれて、潜入失敗したドアホがおんねんなぁ』が思い出された。
特に関わりのない、緞唾雨 (ダンツウ)。
作業場所も違うし食事するスペースも違うから、全く関わりがないと言っても過言ではない、というかそれが事実。しかし何故怪しむ対象になったかというと、折檻室に送り込まれる頻度がダントツで一位なのだ。マゾか!と誰かが陰口を言っていた覚えがある。だがそう言いたくなるのもわかる、何せ1日一回は必ず折檻室行きなのだ。こんな頻度で行っているのならば、体も壊しそうだし折檻室から出れる頻度や時間も長くなりそうだ。しかし、体は壊しているらしく、折檻室から出た後は必ず布団で寝ているのだ。だが折檻の時間が伸びないことから怪しいと睨んでいる。
次に課金ユーザーの方だ。
チト。男性。坊主。細目。もうすでに悟りを開いているかのような言動で、ご飯の挨拶、廊下ですれ違った時など、ハルミの耳にはしっかりとその声は聞こえていた。
そして一番スパイだと思った決定打が扉。
彼は蜜柑船の開かずの扉の前で、一回だが開けているところを見たことあるのだ。既に解除法を知っている、それだけでかなり疑うことができる。しかし無課金と課金の接点は本当に無く、一緒の空間に入れるのは食事と用足しのみ。そこでいきなり「公安の方ですか?」と言っても全力拒否される。
さて、どうしたものか。そう悩んでいると休憩時間がはじまった。休憩といっても二時間に一回、10分の自由時間が与えられるだけ。できればこの時に色々探ってみたいのだが、迂闊に動いてあちらから警戒されたりするとそれは困る。だからいつも宙ぶらりんの状態で止まっていた。
しかし今日は奇跡が起きた。ハコについに、話しかけられたのだった。
「ねえ新入りさん、お隣いい?」
近くで見るとやっぱり美人だ。容姿から職業を推測すると記者とかやってそうだ。
「いいですよ。ハコさん、ですよね。いつも色んな人と話されていて、私のところに来てくれないかなーと思ってました」
「あら嬉しい!私も貴女のウルフカット、羨ましくって、、、、。ウサリちゃんよね?同じ玉蟲としてよろしくね」
右手が自然に出され怪しまれないようにと自分も手を出した。そのては少し荒れていた。
「みなさんといつもどんな話をしているんですか?」
素直に気になったことをぶつけてみる。
「まあ色々よ。私が話しかけることによって嫌な顔をする人だっているんだし、逆に涙ぐみながら話してくれる人だっているわ。俗世が辛かったとか、ここの方が地獄だとか様々。だけど玉蟲の悪口を言う人はみーんな蜜柑船様に告げ口をして、折檻部屋送りにしてやったわ」
そういってにっと口角を上げる。
もしや蜜柑船の手先?敵なのか?
「へえ、まあ蜜柑船様の悪口を言ったらただじゃおきませんよね。嗚呼、裏切り者を見つけるためにみんなに話しかけているんですか?」
「あら当たり!でも珍しいわ。ここにくる人たちみんな精神弱っているからこんなこと言ったら黙ってしまうものだけどこんなこと言われたの初めて。ここの労働は辛くないの?」
「はい。ニートで追い出された身ですから。生きがいが見つかってよかったです」
できればこれ以上関わりたくなかったが、ここにいる人たちの情報も欲しいのが本音だった。
「私はここにくる前までは記者をしていたんだけど、なかなか思うように仕事ができなくてね。それで新しい記事を求めてここに来たんだけど、会社より個々の方が居心地いいみたい。貴女はどう思う?こことニート時代の場所。どちらが居心地いい?」
これはここの場所がいい、と言うの一択だろ、、、。キラキラした目を見せながらハコは首を傾げてくる。
「それは、ここですよ。ここはやることありますし。私は好きですよ」
そういうとハコは頷いて元の場所に戻ろうとした。
すると突然こちらを振り向き異常者のような目でそっと耳元に口を近づけてきた。
「あ-あ・あ・あ-あ-あ・あ・あ-あ・あ-あ-あ・あ・」
申し訳無いが元警察官を舐めないでもらいたい。
ため息を吐きながら「りょーかい」とハコに目線を送った。
多分ハコはあの暗号で仲間にできるか、話ができるやつか判断しているのだろう。そうじゃなきゃあんなことはしないだろう。そろそろ休憩も終わる。やっと刻が動き出した。
ハルミの作戦はこうだった。先ず、公安警察の人を探す。次に玉蟲家のお金が払えなくなった人を探す。最後に開かずの扉を探す。
できれば犯罪行為があってほしい。それを立件し通報さえできれば解放される。
正直秘密を全部手に入れられたとしても帰れる保証がどこにもない。あの大きな鍵のかかった門と巨大な壁。あれを抜けられるほどハルミの身体能力は高くはなかった。
最悪アイトみたいに体を売ればなんとかなるのか?
未だ迷ってしまいましたーの言い訳が使えるうちにいろんな部屋を調べることにした。破戸はどこかにいってしまった。
何と言っても最初は開かずの扉。廊下には他に人がいないことを確認すると、鍵の方を触ってみる。
成程、典型的な鍵タイプであった。これは鍵がないと絶対に入れない。壊すことも視野に見てみたがそれもどうやら無理そうだ。
そう言えば破戸は誰が鍵を持っているか言っていなかった。富津に考えて蜜柑船が持っているのだろうが、一応他の人が持っていることも考慮しておく。
次に修行の場をそっと覗く。
さっきと変わらない面々がずっと両手を合わせ目を瞑っている。これからこれをしないといけないのかと思うとゲンナリした。
最後に大人しく寝床についた。そこは剣道場のような硬い床で、雑魚寝のせんべい布団が永遠に敷かれていて、頭上には名前のプレートがあった。宇沙梨を探すと扉側に見つけられた。
「ここで夕飯までに待て、と、、、一体何しておけばいいんだ」
隣を見ると、またそれも布団の上にネームプレートが置いてあった。
もしやこれは入会した順で扉に近くなっているのかな?
『流石に仲間の情報は教えれないから、ヒントだけ出す。彼は三ヶ月前に入会した。以上、、』
おんちゃん、いくらなんでもそれはヒントじゃないよ、、、。しかし三ヶ月前に入会した男性さえ特定できればこちらの勝ちだ。付近の布団で男性の名前と思われるのは次の四つが上がった。
蝶二、雀右衛門、三之助、マモル。
するとキーン、とモスキート音のような金属音が、耳をつん裂くように鳴った。どうやらスピーカーからこの音が出ているらしい。
『食事時間です。食堂に集まってください』
なんだ、そのことか。
ノロノロと歩きながら食堂へ向かった。食堂も寝床と同じような作りでどこかの旅館の宴会会場のような、畳が敷き詰められた部屋であった。だがそこには椅子などなく正座だと思われる。お盆と小さな食事台が乗せられているで分かれていた。
他の人たちも続々と集まってくるが、みんなこちらを振り向かない。新入生には慣れているのだろうか。そこでハルミは一つ発見をした。信者の中には二つのタイプがあった。
ザ☆清められて信者です!な清々とした顔をしている人。
重労働の後のように死にながら生者を演じているような足取りの重い人。
取り敢えず前者に混じって食堂に入った。
「ウサリ、お前はこっちだ」
誰かから名前を呼ばれた。見たこともない男だった。
そこに駆け足で行くと、自分のネームプレートと、お盆が置いてあった。
周囲の人はさっきでいう後者。正気の無い人間たち。今日は初日なので当たり障りのないようにちょこんと座った。誰も私語などしておらず、食事も運ばれてこない。
「当主のご入場―!拍手―!」
すると一斉に盛大な拍手が始まった。当主蜜柑船が嬉しそうに入ってくる。
「本日も皆様お勤めご苦労様でした。まだ1日は残っていますが頑張ってください。そして今日、新しく我らと共に玉蟲の家に入ってくれた人がいます!宇沙梨と言います。仲良くしてやってくださいね」
小さく頭を下げたが誰も気づいていないようだ。
そして食事が運ばれてきた。精進料理かーと思ったら。料理を運んでいた人間は素通りして食事台が置かれている信者の方へと持っていった。
対して平らなお盆だけのこちらスペースには白い液体が入った瓶と、野菜一切れのみがあるだけだった。それも手掴みで渡される。
「それでは命あるものに感謝をして、食事開始!」
これで食事か。そう言いたくなったが我慢をして瓶を口につける。どうやらこの瓶は女性信者にしか配られていないようだ。
男性信者には透明な液体である。
一口つけてみる。
一瞬でわかった。
男性の温かいカルピスであった。
「残してはダメですよー、こぼしてもダメですよー」
まるでハルミのことを糾弾するように蜜柑船は声を荒げる。
必死になって飲むが、それでも最後にこぼしてしまった。
するとそれを発見した男性信者がハルミの元へと駆け寄ってきて野菜を奪った。
「舐めて綺麗にしろ」
そう一言言い残して。
仕方無く下で地面を擦るが相変わらず不味かった。
いじめじゃん、これ、、、。
「食事終わりー!作業に戻ってよーし!」
ギリギリで舐め終わったハルミは次は自分で何をすればいいかわからず、その場に座り込んでいると、蜜柑船が近寄ってくる。
「ウサリ、さっきはよくも私の精液を溢したね。どうしてかな?」
その目は怒りが滲んでいた。
「、、、あまりの美味しさで、つい」
すると蜜柑船は「このものを折檻しろ」と冷たい声を周りの部下に伝えどこかへさっていく。
「あんまり口答えすると、お前は折檻部屋から出られなくなるからな」
後ろ手に手錠をされ足枷も瞬時に嵌められてしまった。
そりゃそうだ。
人数五人に対して1人が敵いっこないよ。
折檻部屋に連れていかれるのか。そう思うと少しだけ恐怖心が泡だった。
道中、暗い廊下で今自分がどこにいるのか全くわからなかったが、何も考えないようにした。
突然一向が止まった。するとそこは小さな犬が出入りするような木の扉が存在した。松明でギリギリ見える。まさか、ここに、、、。
「ここを抜けると折檻部屋に入ることができる。ただし、この通路上で止まればお前はそれも折檻の対象となるからな。さあいけ」
真逆この状態で?だが拒否権はないようで這いつくばって進むしかなかった。
通路は入り口は入りにくかったし、肩は痛いし、膝も痛いし、、、。だが距離は思っていたほどで、直進で十五メートルほどであった。そこを抜けると座敷牢のようなところに到着する。そしてそこにはスーツ姿の1人の男がいた。
「新入りさんて聞いたよ。僕は痛くしないからね」
手に持っていた鍵でハルミの足枷を外してくれたがその座敷牢にあった足を金属で止める壁と一体となった拘束具に嵌め込まれる。手も同様にされたのだった。
「珍しいね、こんなに抵抗しない人。慣れてるのかな」
なんだかんだで襲われやすい体質だからかな。
「成程、おしゃべりは嫌い、か。じゃあ始めよう」
はい、これで強姦罪成立、アンド売春斡旋、その他諸々―。
これだけで十分収穫はあった。
「ふう、、、。今日は楽しめたよ。ありがとうね」
結局ハルミは行為中一言も話さなかった。いや、話せなかった。本当はこんなところ早く出てオンカに報告したいのだが、脱出ルートがわからない。多分この座敷牢は外に繋がっているのだろう。だが門番が外にいるらしくスーツ姿の男性は「どうも」と声をかけて足音を遠ざけていった。
「ウサリ、折檻部屋にはもうこないと誓うね」
スピーカーからは蜜柑船の下卑た声が聞こえてきた。
「、、、、、はい、誓います」
「警察の方々、今日はようこそおいで申し上げました。態々ご足労いただきありがとうございます。私現玉蟲家当主玉蟲雨ノ情と申します」
優凪から案内された普段は会議室や集合時に使うと言われた大広間に通された。やはり和風な作りになっていて木造建築。庭も広く、体育館3個分は敷地はあるのではないだろうか。大広間は深草色の畳で机がひとつ。そこにアイトとアオミチが当主と対面する形で座り、2人の後ろに玉蟲の家に使える者がずらっと並ぶ。
その後継はまさに壮観。ピンと張られた糸のように静か、自然に緊張も高まってくる。
「それで、殺された4人についてですが、後でちゃんと死亡届は出してください。そしてこの事件の犯人が見つかる迄は貴方達は重要参考人なのでそのことも忘れずに。よろしいですね?」
キャリアⅠ種を持っているだけの青路は正々堂々と言い渡した。何も恐れることなく。
「わかりました。それで、お渡すものはこちらでよろしかったですね?」
禿げた頭の党首は写真を6枚すごすごと渡す。
矢張り自分が手塩にかけた後継者の亡くした悲しみは簡単に癒えないようだ。
「拝見します」
全員可偉と同じく見た感じでは刺殺だった。ただ、凶器はどこにも見当たらない。
「、、、、凶器は現場に落ちていなかったのですかね?」
「はい。ただ、私達も伊達に陰陽師を名乗っているのではありません。この現場の雰囲気はとても邪悪なもの、、、。呪いを感じさせるものでした。そしてその邪悪な雰囲気は伊盧李家の式神でした。きっと、伊盧李家が呪殺したに違いない、そう考えておる所存でございます」
完全にファンタジーの世界なのであまりついていけなくなっているアイト。だがそれでもふと疑問が湧いたのだった。
「じゃあ玉蟲家も伊盧李家を呪おうなんて考えないんですか?」
これには流石に空気がざわついた。
優凪は我慢ならないといった表情でアイトの肩を後ろから鷲掴みにする。
「あんた呪うなんて簡単に言ったらあかんやろ!人を呪わば穴二つ、そもそも陰陽道なんてのはそんな外道に使われるためのものじゃない!」
「じゃあなんで伊盧李家は呪っているんだ?伊盧李家はリスクを冒してまで呪っているのか?」
すると優凪はさっきの剣幕はどこへいったかと思わせる落ち着きを見せ、首を振った。
「もともと伊盧李家にはああいう性質があったんや、、、、。灰色のね、、。私達は祈祷や天文学、時には物の怪退治を専門にしよるけど、あいつらは違う。呪いを売りに名前を売ってる外道集団。さっき言ったように呪うことは命の危険も伴う。というか、人1人殺すまで呪ったら、呪った本人も死んでまうで、、、。多分、伊盧李の方も何人か死んではるんや。でも、あいつらは腹黒やから、無数に産んできたただの依代にこちらを呪わせて死体を捨てる。そんなことをやっとるに決まっとるんや」
それに対し優凪の後ろにいた陰陽師達も頷いている。
「では何か伊盧李家と玉蟲家は衝突しているのか?リスクがあってもそれに見返りがなきゃ誰もリスクなんぞ背負わん。それに関してお前は説明できるのか?」
青路はメガネの奥底に据える瞳で優凪を見つめる。
すると優凪は力無く首を振った。
「、、、、、取り敢えずこの写真は頂戴します。また何かあったら教えてください。それと、あのことについてなのですが、、、」
当主の顔は困惑を浮かべ息を吐いた。
「全く、困ったものです、、、。これでまた玉蟲の名が傷つくことになれば、どうすれば
いのか、、、。そちらの件は、警察の方々が動いてくれる、ということでいいんですね?」
ここでやっとアイトが口を開ける。
「ただ、中での犯罪行為が実証出来るまでは動けないのが確かなんです。それか、名誉毀損で訴える、という方法もありますが、そちらだと確実に立件できます。今、内部に2人、、、いや1人潜入捜査をしているのですがその人次第です」
後ろの陰陽師達もざわつき始める。しかしそれは警察に対する非難とは違い、首謀者に対する怒りのため息であった。
「本当に申し訳ございません。解決できるよう尽力いたします」
深く深く頭を下げ、帰って行った。
「あのことに関してなんですけど、勝手に玉蟲家が動いたりとかあったりするかな?」
アイトが門に一礼して横目で同僚を見る。
冷徹な同僚は「死体を勝手に焼いたんだぜ?やる可能性は大いにあるだろーよ」と舌打ちする。
「全く、勘弁して欲しいぜ。勝手に動くか?普通、、、」
それはハルミに対しても言ってくれ、、、。公安部からの情報によるとかなり酷い、、、ただ、酷いという言葉でしか表せれないほど環境が酷いらしい。
「南郷さん、大丈夫かな?玉蟲家がなんとか名誉毀損とかで訴えてくれればすぐに助けに行くことができるのに、、、」
俯きながらハルミが苦しみ悶える姿を想像し胸が痛む。嘗ての最強三羽烏のうち1人だ、警視庁もこの事実を知ったら黙っていられなくなるはずだ。それを確かめるために青路に話を振ったが、、。
「、、、、お前は疑問形でしか話せないのか?兎に角警視庁に戻るぞ」
深いため息と共に流されてしまった。
公安からの情報、とは言ったが、正確には公安部内の昔の同僚からの大出血サービス、と言った方が正確だった。情報提供者の姉が危なっかしいからどうにかしてくれというものだった。
あれから約三日が経った。大体のことは把握できるようになっていた。
先ず、課金信者に対しての優遇は破格。食事、ベッド、することなすこと全てが無課金ユーザーの比べ物にならないくらい上。確かに俗世間から離れてこんな優雅な暮らしが実現できれば悩みは消えていくだろうと頷けた。
一方前述したように無課金は扱いが酷かった。食事、煎餅布団、することなすこと、、、、。もう少し具体的にいうと、無課金ユーザーは強制労働が課される。それも一日十時間。具体的に何をするかというと、人それぞれなのだが、服を作ったり、糸を蚕から作ったり、機織り、食材等等。今ではロボットが全てしているようなことまでやらされるので、1日が終了した後の疲れは半端じゃない。これでは潜入捜査どころではない。ぐったりしたまま布団に入り死んだように眠る。それに何か違反したら直ぐに折檻と称した売春行為をさせられる。最も、男子の方もそうらしく、どちらにしろ無課金は辛いのだ。
こうなると、公安の仲間という人は、課金に入っているんじゃないかと思ってしまう。課金ユーザーは折檻などないし、常にお祈りをしていればいいだけ。こういう状況の悪さも、はるみを焦らせる原因となっていた。
しかしここまできて簡単に諦めることができないのははるみ自身一番わかっている。円架が一般人に情報を漏らしたことも問題ではあるし、それプラス自分にただただ被害が及ぶだけでましてやそれがマスコミなんかにリークされたら人生オワコン、墓場へまっしぐらだ。
なんとか、この状況を打開できる何かを、探せ、探せ、探せ、探せ。
そう自分に言い聞かせながら、ハルミに割り当てられた雑務、シャボン溶液の詰め替え作業をしながらぐるぐる考えていた。
一応、怪しい人は何人か見つけた。公安ではないか、と怪しい人。
先ず1人、同じシャボン溶液担当の葉子(ハコ)。年齢はハルミより下で、感覚的にはオンちゃんと同じ年齢じゃないかと思っている。ただ、年齢に関しては勘。とりわけ美人ということでもなく、いわば普通の容姿。どこにでもいるパッとしない人だ。何が怪しいという決め手になったかというと、無課金ユーザーの中では発言権があり、食事中も睡眠中も休憩中も、誰かしらと喋っている姿を見かけたのだ。それも特定の人間。公安もそれほど暇ではないから何人もの捜査員をここに入れるわけがない。だが、情報収集もしなければならない。そのためコミュニケーション能力が必要となってくるのだが、ハコにはそれがあるように思えた。どんな話をしているのかはわからなかったが、雰囲気的には明るい話ではなさそうだ。それにこの施設に入った人たちは俗世に愛想を尽かしてここにきている。喋りたがろうとする人間は先ずいない、そんな中で積極的にいろんな人と話しているのだから、ますます怪しかった。
次に、食事中隣の瑠璃蔵(ルリゾウ)。無精髭が生えており、ゴツゴツとした体つきで、この人なら単独でここから出ることもできるんじゃないかと思わせることができた。それくらいがっしりとした体つきで、かつ、蜜柑船に対しての尊敬心が強かった。宗教に魅惑されそれに狂い踊らされている、とは思えず、まるで狐が媚を売るかのような尊敬の眼差し。それをわざわざ幹部に知らせ、みんなが寝静まった後もお祈りをしている姿を色んな人に見られているのだから熱心沙という点では誰よりも評価をもらっている。こんなに目立つ行動がおんちゃんの仲間がするのか、と疑わざるを得ないのだが、昔オンちゃんが仕事でもらあしていた愚痴、『熱心すぎて引かれて、潜入失敗したドアホがおんねんなぁ』が思い出された。
特に関わりのない、緞唾雨 (ダンツウ)。
作業場所も違うし食事するスペースも違うから、全く関わりがないと言っても過言ではない、というかそれが事実。しかし何故怪しむ対象になったかというと、折檻室に送り込まれる頻度がダントツで一位なのだ。マゾか!と誰かが陰口を言っていた覚えがある。だがそう言いたくなるのもわかる、何せ1日一回は必ず折檻室行きなのだ。こんな頻度で行っているのならば、体も壊しそうだし折檻室から出れる頻度や時間も長くなりそうだ。しかし、体は壊しているらしく、折檻室から出た後は必ず布団で寝ているのだ。だが折檻の時間が伸びないことから怪しいと睨んでいる。
次に課金ユーザーの方だ。
チト。男性。坊主。細目。もうすでに悟りを開いているかのような言動で、ご飯の挨拶、廊下ですれ違った時など、ハルミの耳にはしっかりとその声は聞こえていた。
そして一番スパイだと思った決定打が扉。
彼は蜜柑船の開かずの扉の前で、一回だが開けているところを見たことあるのだ。既に解除法を知っている、それだけでかなり疑うことができる。しかし無課金と課金の接点は本当に無く、一緒の空間に入れるのは食事と用足しのみ。そこでいきなり「公安の方ですか?」と言っても全力拒否される。
さて、どうしたものか。そう悩んでいると休憩時間がはじまった。休憩といっても二時間に一回、10分の自由時間が与えられるだけ。できればこの時に色々探ってみたいのだが、迂闊に動いてあちらから警戒されたりするとそれは困る。だからいつも宙ぶらりんの状態で止まっていた。
しかし今日は奇跡が起きた。ハコについに、話しかけられたのだった。
「ねえ新入りさん、お隣いい?」
近くで見るとやっぱり美人だ。容姿から職業を推測すると記者とかやってそうだ。
「いいですよ。ハコさん、ですよね。いつも色んな人と話されていて、私のところに来てくれないかなーと思ってました」
「あら嬉しい!私も貴女のウルフカット、羨ましくって、、、、。ウサリちゃんよね?同じ玉蟲としてよろしくね」
右手が自然に出され怪しまれないようにと自分も手を出した。そのては少し荒れていた。
「みなさんといつもどんな話をしているんですか?」
素直に気になったことをぶつけてみる。
「まあ色々よ。私が話しかけることによって嫌な顔をする人だっているんだし、逆に涙ぐみながら話してくれる人だっているわ。俗世が辛かったとか、ここの方が地獄だとか様々。だけど玉蟲の悪口を言う人はみーんな蜜柑船様に告げ口をして、折檻部屋送りにしてやったわ」
そういってにっと口角を上げる。
もしや蜜柑船の手先?敵なのか?
「へえ、まあ蜜柑船様の悪口を言ったらただじゃおきませんよね。嗚呼、裏切り者を見つけるためにみんなに話しかけているんですか?」
「あら当たり!でも珍しいわ。ここにくる人たちみんな精神弱っているからこんなこと言ったら黙ってしまうものだけどこんなこと言われたの初めて。ここの労働は辛くないの?」
「はい。ニートで追い出された身ですから。生きがいが見つかってよかったです」
できればこれ以上関わりたくなかったが、ここにいる人たちの情報も欲しいのが本音だった。
「私はここにくる前までは記者をしていたんだけど、なかなか思うように仕事ができなくてね。それで新しい記事を求めてここに来たんだけど、会社より個々の方が居心地いいみたい。貴女はどう思う?こことニート時代の場所。どちらが居心地いい?」
これはここの場所がいい、と言うの一択だろ、、、。キラキラした目を見せながらハコは首を傾げてくる。
「それは、ここですよ。ここはやることありますし。私は好きですよ」
そういうとハコは頷いて元の場所に戻ろうとした。
すると突然こちらを振り向き異常者のような目でそっと耳元に口を近づけてきた。
「あ-あ・あ・あ-あ-あ・あ・あ-あ・あ-あ-あ・あ・」
申し訳無いが元警察官を舐めないでもらいたい。
ため息を吐きながら「りょーかい」とハコに目線を送った。
多分ハコはあの暗号で仲間にできるか、話ができるやつか判断しているのだろう。そうじゃなきゃあんなことはしないだろう。そろそろ休憩も終わる。やっと刻が動き出した。
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