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祭囃子と森の動物たち
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僕は子供の頃、不思議なお祭りに参加したことがある。
ずん、と胎に響く力強い和太鼓を叩くのは、身の丈三メートルはありそうな巨大なクマ。
その音に負けじと声を張り上げて盆唄を歌うのは二頭のシカ。
それに合わせて盆踊りを踊るのはイノシシやサルやキツネやリス。
祭り会場をぐるりと取り囲む屋台はタヌキのスーパーボール掬いやタカの川魚屋 (?)などちょっと懐かしい素朴なもの。
お祭り会場には人間は僕しかおらず、あとの顔ぶれは動物だった。
それも、よく見る四足歩行の姿ではなく人間と同じように二本の足で立ち、浴衣を着てめかしこんだいわゆる獣人のような者たちだ。
普段は弱肉強食の世界で暮らしているはずの彼らも、その時だけはすべて忘れて祭りを楽しんでいるようだった。
……という話をするとだいたいの場合夢の話か好きだった絵本の話だろうと勘違いされる。
現実に起こったことだと力説すればおかしな人間を見るような眼差しを向けられて終わりだ。
ところが、今回ばかりは相手の様子が違っていた。
「本当ですか!?」
ひとつ下の後輩、お団子頭の祢子は獲物を見つけたネコのように大きな目をキラキラ輝かせて僕の昔話に食いついてきた。
「本当……だと僕は思ってるけど」
祭り会場にいたのは僕一人なので、それが事実だと証明する手立てがない。
印象に残っているのは、祭り会場で偶然であった子猫の女の子と一緒に花火を見たことと、彼女がスーパーボール掬いで取ったという青いスーパーボールを友達の証としてもらったことだ。
そのスーパーボールなら実家の机の引き出しにまだ残っているような気がする。
「その子とはお祭りの後も会ったりしたんですか?」
「半年くらいして引っ越しちゃったからお祭りに行ったのも一回きりだし、猫の女の子のことも親とかいろんな人に聞いたはずだけど誰も知らないって言われたんだよな」
「ふーん。名前とかは? 聞かなかったんですか!?」
普段は素っ気ない祢子が今日はやけに僕を質問責めにしてくる。
僕はかすかな記憶をたぐり寄せながらひとつひとつ答えていき、その問答は十分ほど続いた。
「へぇ……。結構覚えているものなんですねぇ」
「え?」
「あ、いえ。こっちの話です。
ところで、お祭りでは何か食べたりしなかったんですか?」
祢子に問い掛けられて、そういえば何も食べた記憶がないと気が付いた。
お祭りの醍醐味といえば屋台での買い食いなのに。
「……そうだ! 動物たちのお祭りだから僕が食べれるものがなかったんだ」
立ち並ぶ屋台に並んでいたのは古ぼけたバケツの中で泳ぐ川魚やドングリや虫などおおよそ食欲が湧くものではなかった。
「なるほどー。ニンゲンって何でも食べるイメージでしたが誤算ですね」
「祢子??」
「あ、こっちの話ですので!」
なんだかよくわからないまま、発しかけた言葉を止められる。
そういえば祢子の頭のお団子が猫耳に見えてきたような……――。
「あの頃はワタシも子供でしたので、まだ未熟だったようです。これがばっちゃにバレたら怒られちゃいますし、ちょっと失礼しますね」
そう言うと、祢子の顔がぐっとこちらに近づいてくる。
祢子の目はまっすぐ僕を見据えていて、僕も視線を外すことができない。
心臓がバクバクしている。
「祢子っ……!?」
こんなこと、前にもあったような……――。
コツン、と僕と祢子の額が触れ合って、一瞬目の前が暗くなった。
「……よし」
祢子は何かに納得したようにひとつ頷く。
僕の元から離れてくるりと後ろを向いた祢子は、壁に掛かっている時計を見あげて小さく声を上げた。
「大変です! 早く行かないとお昼休みが終わっちゃいます!」
「行く……、って?」
「カフェですよ! 最近できたばっかりのお店を見つけたから一緒に行こうって約束してたじゃないですか!」
そんな約束してたっけ?
それよりも今、もっと別な話をしていたような……。
「まさか、先輩の奢りって話になったからとぼけようとしてるんじゃないですよね!?」
「え? 僕の奢り??」
「たまには連れてってやるぞーって言ったの先輩じゃないですか。ほら! 早く財布持って!!」
祢子にぐいぐいと背中を押されて歩き出す。
僕は納得できないまま、強引な後輩に連れられてカフェへ向かうのだった。
ずん、と胎に響く力強い和太鼓を叩くのは、身の丈三メートルはありそうな巨大なクマ。
その音に負けじと声を張り上げて盆唄を歌うのは二頭のシカ。
それに合わせて盆踊りを踊るのはイノシシやサルやキツネやリス。
祭り会場をぐるりと取り囲む屋台はタヌキのスーパーボール掬いやタカの川魚屋 (?)などちょっと懐かしい素朴なもの。
お祭り会場には人間は僕しかおらず、あとの顔ぶれは動物だった。
それも、よく見る四足歩行の姿ではなく人間と同じように二本の足で立ち、浴衣を着てめかしこんだいわゆる獣人のような者たちだ。
普段は弱肉強食の世界で暮らしているはずの彼らも、その時だけはすべて忘れて祭りを楽しんでいるようだった。
……という話をするとだいたいの場合夢の話か好きだった絵本の話だろうと勘違いされる。
現実に起こったことだと力説すればおかしな人間を見るような眼差しを向けられて終わりだ。
ところが、今回ばかりは相手の様子が違っていた。
「本当ですか!?」
ひとつ下の後輩、お団子頭の祢子は獲物を見つけたネコのように大きな目をキラキラ輝かせて僕の昔話に食いついてきた。
「本当……だと僕は思ってるけど」
祭り会場にいたのは僕一人なので、それが事実だと証明する手立てがない。
印象に残っているのは、祭り会場で偶然であった子猫の女の子と一緒に花火を見たことと、彼女がスーパーボール掬いで取ったという青いスーパーボールを友達の証としてもらったことだ。
そのスーパーボールなら実家の机の引き出しにまだ残っているような気がする。
「その子とはお祭りの後も会ったりしたんですか?」
「半年くらいして引っ越しちゃったからお祭りに行ったのも一回きりだし、猫の女の子のことも親とかいろんな人に聞いたはずだけど誰も知らないって言われたんだよな」
「ふーん。名前とかは? 聞かなかったんですか!?」
普段は素っ気ない祢子が今日はやけに僕を質問責めにしてくる。
僕はかすかな記憶をたぐり寄せながらひとつひとつ答えていき、その問答は十分ほど続いた。
「へぇ……。結構覚えているものなんですねぇ」
「え?」
「あ、いえ。こっちの話です。
ところで、お祭りでは何か食べたりしなかったんですか?」
祢子に問い掛けられて、そういえば何も食べた記憶がないと気が付いた。
お祭りの醍醐味といえば屋台での買い食いなのに。
「……そうだ! 動物たちのお祭りだから僕が食べれるものがなかったんだ」
立ち並ぶ屋台に並んでいたのは古ぼけたバケツの中で泳ぐ川魚やドングリや虫などおおよそ食欲が湧くものではなかった。
「なるほどー。ニンゲンって何でも食べるイメージでしたが誤算ですね」
「祢子??」
「あ、こっちの話ですので!」
なんだかよくわからないまま、発しかけた言葉を止められる。
そういえば祢子の頭のお団子が猫耳に見えてきたような……――。
「あの頃はワタシも子供でしたので、まだ未熟だったようです。これがばっちゃにバレたら怒られちゃいますし、ちょっと失礼しますね」
そう言うと、祢子の顔がぐっとこちらに近づいてくる。
祢子の目はまっすぐ僕を見据えていて、僕も視線を外すことができない。
心臓がバクバクしている。
「祢子っ……!?」
こんなこと、前にもあったような……――。
コツン、と僕と祢子の額が触れ合って、一瞬目の前が暗くなった。
「……よし」
祢子は何かに納得したようにひとつ頷く。
僕の元から離れてくるりと後ろを向いた祢子は、壁に掛かっている時計を見あげて小さく声を上げた。
「大変です! 早く行かないとお昼休みが終わっちゃいます!」
「行く……、って?」
「カフェですよ! 最近できたばっかりのお店を見つけたから一緒に行こうって約束してたじゃないですか!」
そんな約束してたっけ?
それよりも今、もっと別な話をしていたような……。
「まさか、先輩の奢りって話になったからとぼけようとしてるんじゃないですよね!?」
「え? 僕の奢り??」
「たまには連れてってやるぞーって言ったの先輩じゃないですか。ほら! 早く財布持って!!」
祢子にぐいぐいと背中を押されて歩き出す。
僕は納得できないまま、強引な後輩に連れられてカフェへ向かうのだった。
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