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夏だ! 海だ! 怪談だ!!
第58話 怪奇レポート015.完売御礼泣かない子供
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瀬田さんや宮松くんがいなくなっても怪異は待ってくれない。
電話は鳴るしファックスも届く。
……って、ファックス!?
「小津骨さん、うちっていつからファックス導入したんですか?」
「ファックス? そんなものもともと無いわよ」
そんなこと言われても、私の目の前の電話機は紙を吐き出している。
しかも、一秒に一枚のハイペースで。
隣の席の結城ちゃんと一緒にそれが止まるまでじっと見守って、吐き出された紙を裏返してみた。
A4サイズの紙にでかでかと記された「完」の文字。
インクの光沢感はあるけれど、癖の強い手書きのような丸文字だ。
一枚目で完結してしまった。
困惑しながら二枚目をめくる。
「売」
三枚目は「御」四枚目、「礼」
「完売御礼……?」
残りの紙も次々とめくっていくと、ひとつの文章が現れた。
【完売御礼泣かない子供】
「なにこれ……」
「これってアレっスよね。コンビニの窓とかに貼ってある――」
外から見たら宣伝文句とかになってるようなやつか。
でも、なんでこんな文章が?
「香塚先輩、調べたらこんなのが出てきたんですけど」
結城ちゃんが見せてくれたスマホの画面には【子育て支援の一環として泣かない子供体験会を実施しました/キッカイ町役場・子育て支援課】という記事が。
どうやら十年ほど前の記事のようだ。
「泣かない子供体験会?」
「どういうことですかね」
小津骨さんまでやってきて、スマホの小さな画面を三人で覗き込む形になった。
【小さなお子様をお持ちのご家庭では、子供の泣き声が原因でゆっくりと休息を取れない。虐待を疑われ、児童相談所に通報されたなどの経験をお持ちの方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
キッカイ町役場・子育て支援課ではそのような悩みをお持ちの八家族様にご協力いただき、泣かない子供体験会を実施しました。
手順は簡単。お子様の頭部に専用の装置を装着していただき、電源を入れるだけです。
たったこれだけで泣き声が響き渡っていた体験会場が時計の秒針の音を聞くことができるほど静かに!(写真は体験会開始から五分が経過してからのもの)
ご参加くださった八家族様全員に効果を実感していただくことができました。
また、体験会終了後のアンケートでは、九家族様が継続的にこの装置を使用していきたいとご回答されました!
キッカイ町役場では地元企業との連携を行い、この装置の量産体制を整えて一大産業として行きたいと考えております】
そこまで読んだ私は絶句した。
結城ちゃんも小津骨さんも、顔を引きつらせている。
「なんか気持ち悪いっスね」
気持ち悪い。
真藤くんのその一言に、私たちは揃って首を縦に振った。
「子供は泣くのが仕事だって言われるくらいなのに」
「泣かない子供なんて絶対おかしいです」
「おかしいわ」
そう呟いた小津骨さんは難しい顔で考え込んでいた。
「この頃ってちょうど私も子育て支援課にいたのよ。でも、こんな機械なんて知らないし体験会だってやった覚えがないわ」
「小津骨さん、子育て支援課にいたんですか!? それじゃあ、ここに写ってる職員さんに見覚えは?」
「ないわね」
いくら十年前で写真の解像度が低いとはいっても、同僚のことを見間違えたりはしないはずだ。
それに、あまりに自然に書かれていたから見落としていたけれど参加者八組中九組が継続的に装置を利用したいと答えている? どういうことだろう。
「ダメっス~。調べても何も出てこないっス~」
パソコンに向かって作業していると思ったら、真藤くんは真藤くんでこの機械について調べていたようだ。
「ゆーきちゃん、なんて調べたっスか? その記事すら出てこないっス」
「えっ? 『泣かない子供』って検索したら一番上に出てきたんだけど……」
言いながら結城ちゃんが見せた画面ではトップにキッカイ町役場の広報記事のリンクが表示されている。
それに対して真藤くんのパソコンの方では同名の書籍や育児関連のページがずらりと並んでいた。
「こーづかさんはどうっスか?」
「んーと……」
『泣かない子供』と入力して検索してみる。
表示されたのは真藤くんと同じ画面だ。
そこに『キッカイ町』『子育て支援課』というキーワードを追加してみても、結城ちゃんが見ていた記事は出てこない。
試しに別のブラウザを起動して同じように検索してみたけれど、やはり子育て支援課の記事は見つからなかった。
小津骨さんの方の端末を使っても結果は同じようだ。
これはどういうことだろう?
「あっ、さっきの記事が見れなくなりました!」
結城ちゃんが、顔を見合わせていた私と真藤くんを呼ぶ。
どれどれと様子を見に行くと、スマホの画面には「お探しのページは見つかりませんでした」と表示されていた。
「この短時間に、十年前の記事がピンポイントで削除されることなんてあるんでしょうか?」
「普通に考えたらありえないわよね」
「うーん、でも、結城ちゃんがこの記事に辿り着いたのって例のファックスが届いたからじゃないですか。そのタイミングで十年前の記事に誰かがアクセスしたなら、その“誰か”は伏木分室の職員の可能性が高いって判断できるんじゃないですかね。
あとは確認が取れたらページを削除するだけですし……」
「さすが香塚先輩! 名推理です!」
そんなに褒められるとさすがに照れちゃうな。
でも――。
「この電話がどうやってファックスを受信して紙に印刷したかが謎なんですよねぇ」
私の席に設置された何の変哲もない固定電話は、その日一件の後、二度とファックスを吐き出すことがなかった。
【怪奇レポート015.完売御礼泣かない子供
概要:「完売御礼泣かない子供」という文章が一文字ずつ印刷されたファックスが当分室宛てに届いた。
不審に思った職員が当該の文章について検索を行ったところ、キッカイ町役場・子育て支援課が過去に開催した「泣かない子供体験会」の記事が発見された。
ところが、当時子育て支援課に所属していた職員複数人に尋ねたところ、全員が「そのような催しを行った記憶はない」と返答した。
また、イベントの様子を撮影したとされる写真に写る人物が当時の子育て支援課に在籍する職員ではないことも全員の証言が一致した。
対応:一度ページを移動した後、再度表示しようとしたところ、当該ページは削除されており閲覧することができなくなっていた。
写真を含む、記事内の一部はスクリーンショットを撮影していたため残っているが、その内容から記事を制作した人物を特定するための手掛かりは得られなかった。
ファックスの送り主と記事の作成者は同一人物である可能性が高く、何らかの意図をもって行動していると思われる。
今後はその動向に注意しつつ、危険と判断した際には警察等に協力を依頼することも検討することとする。】
電話は鳴るしファックスも届く。
……って、ファックス!?
「小津骨さん、うちっていつからファックス導入したんですか?」
「ファックス? そんなものもともと無いわよ」
そんなこと言われても、私の目の前の電話機は紙を吐き出している。
しかも、一秒に一枚のハイペースで。
隣の席の結城ちゃんと一緒にそれが止まるまでじっと見守って、吐き出された紙を裏返してみた。
A4サイズの紙にでかでかと記された「完」の文字。
インクの光沢感はあるけれど、癖の強い手書きのような丸文字だ。
一枚目で完結してしまった。
困惑しながら二枚目をめくる。
「売」
三枚目は「御」四枚目、「礼」
「完売御礼……?」
残りの紙も次々とめくっていくと、ひとつの文章が現れた。
【完売御礼泣かない子供】
「なにこれ……」
「これってアレっスよね。コンビニの窓とかに貼ってある――」
外から見たら宣伝文句とかになってるようなやつか。
でも、なんでこんな文章が?
「香塚先輩、調べたらこんなのが出てきたんですけど」
結城ちゃんが見せてくれたスマホの画面には【子育て支援の一環として泣かない子供体験会を実施しました/キッカイ町役場・子育て支援課】という記事が。
どうやら十年ほど前の記事のようだ。
「泣かない子供体験会?」
「どういうことですかね」
小津骨さんまでやってきて、スマホの小さな画面を三人で覗き込む形になった。
【小さなお子様をお持ちのご家庭では、子供の泣き声が原因でゆっくりと休息を取れない。虐待を疑われ、児童相談所に通報されたなどの経験をお持ちの方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
キッカイ町役場・子育て支援課ではそのような悩みをお持ちの八家族様にご協力いただき、泣かない子供体験会を実施しました。
手順は簡単。お子様の頭部に専用の装置を装着していただき、電源を入れるだけです。
たったこれだけで泣き声が響き渡っていた体験会場が時計の秒針の音を聞くことができるほど静かに!(写真は体験会開始から五分が経過してからのもの)
ご参加くださった八家族様全員に効果を実感していただくことができました。
また、体験会終了後のアンケートでは、九家族様が継続的にこの装置を使用していきたいとご回答されました!
キッカイ町役場では地元企業との連携を行い、この装置の量産体制を整えて一大産業として行きたいと考えております】
そこまで読んだ私は絶句した。
結城ちゃんも小津骨さんも、顔を引きつらせている。
「なんか気持ち悪いっスね」
気持ち悪い。
真藤くんのその一言に、私たちは揃って首を縦に振った。
「子供は泣くのが仕事だって言われるくらいなのに」
「泣かない子供なんて絶対おかしいです」
「おかしいわ」
そう呟いた小津骨さんは難しい顔で考え込んでいた。
「この頃ってちょうど私も子育て支援課にいたのよ。でも、こんな機械なんて知らないし体験会だってやった覚えがないわ」
「小津骨さん、子育て支援課にいたんですか!? それじゃあ、ここに写ってる職員さんに見覚えは?」
「ないわね」
いくら十年前で写真の解像度が低いとはいっても、同僚のことを見間違えたりはしないはずだ。
それに、あまりに自然に書かれていたから見落としていたけれど参加者八組中九組が継続的に装置を利用したいと答えている? どういうことだろう。
「ダメっス~。調べても何も出てこないっス~」
パソコンに向かって作業していると思ったら、真藤くんは真藤くんでこの機械について調べていたようだ。
「ゆーきちゃん、なんて調べたっスか? その記事すら出てこないっス」
「えっ? 『泣かない子供』って検索したら一番上に出てきたんだけど……」
言いながら結城ちゃんが見せた画面ではトップにキッカイ町役場の広報記事のリンクが表示されている。
それに対して真藤くんのパソコンの方では同名の書籍や育児関連のページがずらりと並んでいた。
「こーづかさんはどうっスか?」
「んーと……」
『泣かない子供』と入力して検索してみる。
表示されたのは真藤くんと同じ画面だ。
そこに『キッカイ町』『子育て支援課』というキーワードを追加してみても、結城ちゃんが見ていた記事は出てこない。
試しに別のブラウザを起動して同じように検索してみたけれど、やはり子育て支援課の記事は見つからなかった。
小津骨さんの方の端末を使っても結果は同じようだ。
これはどういうことだろう?
「あっ、さっきの記事が見れなくなりました!」
結城ちゃんが、顔を見合わせていた私と真藤くんを呼ぶ。
どれどれと様子を見に行くと、スマホの画面には「お探しのページは見つかりませんでした」と表示されていた。
「この短時間に、十年前の記事がピンポイントで削除されることなんてあるんでしょうか?」
「普通に考えたらありえないわよね」
「うーん、でも、結城ちゃんがこの記事に辿り着いたのって例のファックスが届いたからじゃないですか。そのタイミングで十年前の記事に誰かがアクセスしたなら、その“誰か”は伏木分室の職員の可能性が高いって判断できるんじゃないですかね。
あとは確認が取れたらページを削除するだけですし……」
「さすが香塚先輩! 名推理です!」
そんなに褒められるとさすがに照れちゃうな。
でも――。
「この電話がどうやってファックスを受信して紙に印刷したかが謎なんですよねぇ」
私の席に設置された何の変哲もない固定電話は、その日一件の後、二度とファックスを吐き出すことがなかった。
【怪奇レポート015.完売御礼泣かない子供
概要:「完売御礼泣かない子供」という文章が一文字ずつ印刷されたファックスが当分室宛てに届いた。
不審に思った職員が当該の文章について検索を行ったところ、キッカイ町役場・子育て支援課が過去に開催した「泣かない子供体験会」の記事が発見された。
ところが、当時子育て支援課に所属していた職員複数人に尋ねたところ、全員が「そのような催しを行った記憶はない」と返答した。
また、イベントの様子を撮影したとされる写真に写る人物が当時の子育て支援課に在籍する職員ではないことも全員の証言が一致した。
対応:一度ページを移動した後、再度表示しようとしたところ、当該ページは削除されており閲覧することができなくなっていた。
写真を含む、記事内の一部はスクリーンショットを撮影していたため残っているが、その内容から記事を制作した人物を特定するための手掛かりは得られなかった。
ファックスの送り主と記事の作成者は同一人物である可能性が高く、何らかの意図をもって行動していると思われる。
今後はその動向に注意しつつ、危険と判断した際には警察等に協力を依頼することも検討することとする。】
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