傘を差すのが下手だから。

Kaito

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#14 過去

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#14 過去

深結は心に決めたことがあった

過去と向き合って受け入れる。

紗奈と出逢って、颯太に恋をしてわかった。

人って温かい。自分もそうなりたい。

そう思ったのだ。


「おはよう颯太!」

「おはよう深結」

こうして挨拶を交わすだけで口角が上がってしまう

「へへっ~」

「どうしたの?そんなにこにこして」

「幸せだな~って」

「なら良かった」

颯太とお付き合いをしてからというもの、深結はかなり明るくなった。二人は手を繋いで学校に向かって歩く

「ねえー颯太、今度デートしよ」

「良いよ、どこ行こっか?」

「颯太のお家に行きたい」

深結は勇気を出して言った

「良いよ、おいで」




「ねえ紗奈聞いて!今度颯太のお家に遊びに行くんだ!」

「良かったじゃん!」


「紗奈.....今日のお昼、ちょっとお話聞いてほしいな」

「うん、まかせて!」

紗奈にはお世話になりっぱなしだ、感謝してもしきれない。


「おはよー」

「おはよー」

学校では颯太と付き合っていることが周りにバレないように普通の友達として接する。

深結は席に着くとスマホを開いてホームルームが始まるまで待つ


「それじゃあホームルーム始めるぞ」

チャイムよりも少しだけ早く先生が教室に入って来てそう言った

深結はスマホをしまって前を向く。


ホームルームを終え、授業も終えあっという間にお昼の時間になった。深結と紗奈はいつも通り一緒にお昼を食べる

「その..朝言ったことなんだけど....」

「ゆっくりで良いからね」

優しい紗奈の声に心を落ち着かせる

「...お父さんに会いに行ってみようかなって.....」

紗奈はかなり驚いた様子だった。それもそうだ、深結のお父さんはいわゆるDV男で、深結を解離性遁走に追い込んだ張本人でもある

「どうして?」

「今までずっと距離を置いてきた。でもね私決めたの、過去を受け入れるって。だから..」

「そっか、頑張れ深結!私も応援する!!」

「ありがとう.....でも自信ないんだ、私ってこんなんだから」

深結は手首の傷を見つめる

「今の深結ならその傷とも向き合えると思うよ」

「ありがとう」

「でも無理しちゃダメだよ。泣きたくなったら泣くの」

「うん」

「でも深結はすごいよ、前に進んでる」

「ううん、紗奈がいてくれたからだよ、独りじゃなんにもできなかった」


お昼ごはんを食べて、それぞれの教室に戻る

眠気に負けそうになりながら午後の授業を終え帰り支度をする

「深結、今日は予定あるんだっけ?」

「うん、病院行かないといけなくて」

深結が精神病院に通院していることは颯太にも伝えてある

「病院まで一緒に行こうか?」

「ううん、平気」

「そっか、じゃあいってらっしゃい」

颯太は笑顔で送り出してくれた。




「せーんせい!」

「こんばんは、深結ちゃん」
 
いつも通り、診察室に案内されて席に座る

「先生、私決めたんです」

自分から話を始める

「お父さんに会いに行きます」

「....」

先生は言葉に迷っているようだった

「お父さんに会うのは、正直怖いです」

「じゃあ..」

先生の声を遮るように続ける

「でもお父さんと会えば、自分の過去を受け入れてあげられる気がするんです」

ハッキリと自信に満ちた声だった。

「じゃあ、応援するよ!」

「先生大好きっ!」

深結は先生の言葉が嬉しくて抱きついた

「も~深結ちゃんったら~」


「私ね、彼氏できたんだ」

抱きついたまま上目遣いで言った

「えーっ!彼氏!写真!写真見せて!!」

「あっっ!写真撮ってくるの忘れたぁぁぁ!」

先生は笑った

「もー、どうして笑うんですかー」

「なんか、幸せそうだなって」

「すっごく幸せです。毎日が楽しくて、生きてて良かったって思ってます」

「そっかそっか...良かった..」

先生は涙ぐんでいた

「もー先生泣かないでよ、私が悪い子みたいじゃん」

深結は少し笑いながら言った

「深結ちゃんはすごいよ」

「そんなことないです、私は独りじゃ何にもできなかった」

「でも深結ちゃんが頑張ってきたおかげで今の深結ちゃんがいるんだから、やっぱりすごいよ。私も見習わないとね」




そんなこんなで話を終えて帰路に着く

なんとなくいつもと違う道を歩いて帰ってみることにした。

途中、河川敷を歩いていると、土手に座る制服姿の女の子がいた

なんとなく視線を向けるとその子は嗚咽していた

「大丈夫?」

深結は放っておけなくて声をかけた

「誰?...」

「急にごめんね、泣いてたみたいだったから心配で」

深結は女の子の隣に座った

「なにがあったの?良かったらお姉ちゃんにきかせて」

「私ね..なんにもできないの。みんなはできるのに」

周りが当たり前にできる事を自分はできない。その経験は深結にもあった

「わかるよ、その気持ち。辛いよね」

「えっ..」

女の子が俯いた顔を少し上げた

「わかってくれるんですか?」

「うん!私もね、なんかこう..生きづらいなーってことがあって、でもね自分が思ってる以上に周りには優しい人がいたの。その子は私の気持ちを否定も肯定もせずにただ共感してくれた、それが嬉しくて自分そうなれたらなって思って...つい話しかけちゃった!」

深結はてへっと笑って女の子の方を見た

「ありがとうございます、元気出ました」

「なら良かった」

女の子はその場を去って行った。



「ただいま」

「おかえり、夕飯できてるよ」

「うん、すぐ行くー」

深結は手を洗ってから部屋に戻って制服から部屋着に着替えてリビングに戻った

「いただきます」
「いただきます」

両手を合わせる

「お母さん、お父さんはどこにいるの?」

深結が話を切り出すとお母さんの箸が止まった

「私決めたの、お父さんに会いに行く」

「どうして?」

「お父さんに会えば..自分の過去を受け入れてあげられる気がするの」

「わかったわ、教えてあげる」





「一人で行ける?」

「うん!もう私高校生だよ!」

「そうだよね、いってらっしゃい」


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