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探偵博士 ネイサン・アドラー
しおりを挟む私の名は、ネイサン・アドラー。業界では大抵、「探偵博士アドラー」で通っている。私は、ロンドンにある芸術保護局の資金援助を受けて設立された、芸術犯罪(アート・クライム)捜査会社に所属している。多くの者は我々のことを「ペンキ屋(へぼ絵描き)」と呼ぶ。
芸術保護局が資金援助に乗り出した理由としては、アート・クライムがそもそも芸術以外の表現形式と切り離して考えては捜査できない性質のものであり、それゆえこの会社を後援する値打ちがあるとでも考えた為だと思われる。しかも、あのニコラス・セロタまでが、我々雑魚どもを高く評価していた。彼は、我々の集めた膨大な証拠品の数々や比較研究を、昨年のヴェネツィア・ビエンナーレで展示しても良いくらいだ、と言っていたほどだ。ちなみに、その比較研究によって導き出された結論は、マーク・タンシーの「イノセント・アイテスト」に描かれた牛と、パウルス・ポッテルが1647年に描いた「若い雄牛」(偶然にも、私が生まれるちょうど300年前の作品だ)やモネが1890年代に描いた農村風景に登場する牛との間には、何の違いも見出せないというものだった。最も、伝統を重んじる芸術批評家達は、こうした我々の解釈を「たわごと」と見なし、むしろ彼らの関心はダミアン・ハーストの「箱詰めの羊」に格式張った思想を見いだすことに向かってしまったが、、、。
ともかく芸術とは、汚い戦いの場だ。私の仕事は、その土俵からこぼれたヘドロの中で食えるものを探すことだ。
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