誰も知らない勇者の話

麻美

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プロローグ

誰も知らない噂話

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「聞いたか? 勇者様の話」


「ああ、凱旋もなされないんだってな」


「魔道士様もまだ寝込んでいるみたい」


「一度お目にかかってお礼を言いたいのに……」


「誰だってそうだろうよ。みんな彼らに救われたんだ」


「魔王軍の溜め込んだ財も、全て国に明け渡したみたい」


「ご自分の取り分は?」


「なしだ。国の復興に当ててくれということらしいぜ」


「そうか、勇者様の故郷も……」


「ああ、一番酷い地域だったよな」


「ご家族もみんな亡くなられてしまったのでしょう?」


「家族を弔う分だけでも受け取られればよかったのに……」


「それも自分の財産でやるそうだ」


「御一行の方々も1銭も受け取られてないようよ」


「なんという方々なんだ……」


「そんな方々に私達は救われたのね……」









「とりあえず国民の方は大丈夫そうだ、上手く噂が仕事してる。」

剣を研ぎながら茶髪の男が呟いた。
その男の胸には、国から与えられた勲章がついている。

「それはなによりです。とりあえずこれで国民の方の心配はありませんね。」

黒髪の男が眼鏡をかけ直しながら答えた。
そばに置いた弓は埃かぶっている。

1拍おいて、その埃が風に浮いた。
窓から金髪の女が部屋に入ってくる。

「それはなりよりです、だなんてよく言うわね。それを企んだのはあなただし、噂を流したのは私じゃない。」

羽織ものを脱ぐと出てくる国の酒場の制服。

「大変だったのよ、噂好きのグループに入り込むの。」

「ご苦労だったな、お前達。」

彼らは国王の部下、魔道士、弓士である。
勇者一行とよばれるものである。

「おめでたい国民たちだ。勇者なんていないというのに、な。」
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