ヒリキなぼくと

きなり

文字の大きさ
3 / 22
ヒリキなぼくとプラモと小田切先生

アレについて

しおりを挟む
 うちの母親は、昔からぼくにそんなに関心がなかったような気がする。たぶんぼくにそれほど関心がない。そう思うようになったのは、いつごろかな。

 幼稚園の時は、きれいな格好でお買い物に行くのが楽しかった。あ、でも、ぼくの好きな場所にはあんまり行かなかったかな。公園に行くと服が汚れるからダメ。あ、プールも日焼けするからダメって言われた。とにかく母親は、自分が嫌なことは、ぼくにさせなかった。もうすべて自分中心。それでも父親はほとんどいないから、母親に頼ることしかできなかった。

 洗たく、掃除はする、かな。ご飯は時々。まあそのくらい。

 母親が話をきちんと聞いてくれた記憶はほとんどない。ぼくが何をしているのか、好きなこととか聞いてきたことがないから。その推理は当たっている、はずだ。

 母親は専業主婦。家にいて、ブランドものの服を身につけ、化粧もばっちり。自分のことばかりにかまけている。「きれいなお母さんね」的なことはよく言われる。

 何がだ。夕食は、レトルトや冷凍食品が多いし、高そうなケーキを買ってきても、自分で食べてしまう確率が高い。ひどくない? 有名スポーツブランドの服は買ってくれるけど、あれは母親の見栄だと踏んでいる。

     ◇   ◇

 小学2年の冬、ぼくは母親を「ママ」と呼ぶことを止めた。心の中で『アレ』と呼んでいる。ここ最近は、ずっとアレと呼んでいる。

 そう呼ぶようになったのは、ぼくがインフルエンザでひどい目にあったことだった。

 頭の中が白くなって、熱でもうろうとなった。そんな時でさえ、友だちとランチがあるからと、母親は出て行った。

 口が渇いた。苦しくて、苦しくて、置いていったスポーツドリンクを飲みながら、一人で寝ていた。気持ち悪くて、吐く寸前。トイレにも行けなかった。

 母親が帰ってきた。もう嬉しくて、帰ってきた母親に思わずすがりついた途端、吐いてしまった。その時の母親の言葉がずっと忘れられない。「よりによって、なぜこの服に吐くの!」そう怒って、すぐに洗面所に行ってしまった。

 なぜって、母親を見て、安心したから。吐きたくなかったけど、急におげっとなった。反論する気力はもうなくなっていた。

 咳も止まらなかった。眠っているのか、起きているのかもわからない。もう死んでもいいやと思った。ぼくが死んでも、きっと母親は気にもしないで、

 そのままひと晩ほうっておかれ、よけいに熱はひどくなった。たぶん40度以上あったような気がする。

 朝、母親が様子を見に来た。ものすごくあわてていたような気がする。もうぼおっとしていて、何が何だかわからなかったから、たぶんだ。

 病院に行くと、肺炎と診断され、即入院。我ながら、よく生きてたと思う。「なぜもっと早くこなかったのか」と医者に責められ、青くなってた。

 その2年後、『全国無料共通模試』でいい成績をとった途端、母親は手のひらを返し、干渉するようになった。

 今まで気にもしていなかったのに、「勉強が大事」と言い始め、娯楽はすべて禁止。いまさら何だって思った。ほったらかしだったのに、生活すべてに口を出す。不思議なくらい変わった。塾の親子面談にも、いい親ぶって、ひとしきりぼくの自慢をして帰る。塾からは、「志望校は、今の段階では大丈夫」としか言われないせいかもしれない。

 最初は、母親に関心を持たれている、期待されるってことがどこか嬉しかった。けれど、わかっていた。ぼくを見てない。風邪をひいていることさえ気がつかない人なんだから。成績だけ見ている。

 そんなんで、ぼく自身のことなんてわかりっこないじゃない? 自慢できるから、あれこれ言うだけなんだ。

「ママ」は、優しくて、話を聞いてくれて、世話をやいてくれる人だ。「母親」は、自分を産んだだけの人。優しい「ママ」はどこにもいない。熱で苦しむ自分より、ブランド服を大切にする母親。自分の主張が通らないと、どなる母親。勝手に決められた中学受験。なぜだろうと、何度も何度も考えた。

 ずっと考えて、結論を出した。母親はぼくのことを好きじゃないし、自分のことしか考えてないのだと。母親に期待することを一切あきらめた。

 父親は、5年前から単身赴任で岡山にいる。

 小さい時も、遊んでくれた記憶はあまりない。東京に帰ってくるのは、2、3か月に一回がいいところ。忘れたころに帰ってくる。何を話していいかわからない。どんな人かもよくわからない。何で一緒に住まないのかもよくわからない。謎だ。

 正直、いなさすぎて、どんな人なのか知らない。父親のことが好きなのか、嫌いなのかさえ。どういう感情を持てばいいのかな。家族のはずなのに…。時々、家族で岡山に住んでもよかったんじゃないかと思う。何で行かないのかな。イミフだ。

 大人になるまでの我慢。そう念じながら、ぼくは今日も学校と塾に行く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】

猫都299
児童書・童話
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。 「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」 秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。 ※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記) ※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記) ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベル、ツギクルに投稿しています。 ※【応募版】を2025年11月4日からNolaノベルに投稿しています。現在修正中です。元の小説は各話の文字数がバラバラだったので、【応募版】は各話3500~4500文字程になるよう調節しました。67話(番外編を含む)→23話(番外編を含まない)になりました。

合言葉はサンタクロース~小さな街の小さな奇跡

辻堂安古市
絵本
一人の少女が募金箱に入れた小さな善意が、次々と人から人へと繋がっていきます。 仕事仲間、家族、孤独な老人、そして子供たち。手渡された優しさは街中に広がり、いつしか一つの合言葉が生まれました。 雪の降る寒い街で、人々の心に温かな奇跡が降り積もっていく、優しさの連鎖の物語です。

処理中です...