禍の島と時の羅針盤

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この世界には『かの島』と呼ばれる伝説の島がある。
吟遊詩人はうたう。

『かの島』には、あまたの宝ありき。
いわく、不老不死の秘薬ありき。
いわく、どんな望みもかなえる像ありき。
いわく、死者をよみがえらせる書ありき。
いわく、あまたの奇跡ありき。
しかし、『かの島』恐るべきわざわいが眠る。
故に『かの島』、『の島』とも呼ばれたり。

 時はこれから始まる物語の5年程前にさかのぼる。
 多くの者にとっては夢物語の様な話だが、彼女にとっては違った。彼女の名前はルリィ・スパーク、ブロンドの美しい髪に幼いながらも力強いまなざしを持っている少女だ。

「ルリィ、お前も知っての通り、私はエドワード・スパークの血を引いている」
ルリィの父は静かに話を始めた。
「お前には幼いころから冒険のいろはを教えてきた。時には厳しすぎると自分でも感じていた。だが、それも今日の日の為だったんだ。私とサラは行かなくてはならない。『かの島』の禍いの力は日増しに強くなってきている」
「どうして、パパとママが行かないといけないの?どうして、禍いの力なんてわかるの?私、ずっとパパとママと一緒がいいよ」

 ルリィの目からは涙が溢れだしていた。彼女は幼いころから『禍の島』について両親から聞かされていた。
そして、この別れが決して短くないことを、彼女はよく理解できていた。
「ルリィ、全てはこの『時の羅針盤』が教えてくれるだろう。わかるね…禍いを抑えられるのは私たち5大英雄の血を継ぐ者のみ。しかし、どうしてもお前が私たちの後を追うというのなら、きちんと冒険者の資格を取ってからにしてくれ。お前を死なせたくないんだ」

 父の決心が揺るがないことは幼いルリィにもわかっていた。
 ルリィを抱きしめる母も目に涙をためながら、ささやいた。
「ルリィ、あなたにはまだまだ私たちが必要なことはわかっているわ。でも、もう時間がないの。あなたのことはアトラのお父さんとお母さんにお願いしておいたわ。あなたとアトラは兄妹みたいに育ったんだもの。大丈夫、あなたにこの『時の羅針盤』を託します。時が来ればこの羅針盤があなたを必ず導いてくれるわ。とても大事なものだから、こうしてずっと身に着けておくのよ」

そういうと母は、羅針盤をルリィの首にかけた。

「パパ、ママ、約束は守るからできるだけ早く帰ってきてね。」

こうして、ルリィの両親は旅立った。

両親との別れは辛いものだったがルリィには親友のアトラがいてくれた。

「アトラ、私ただ待ってるだけなんてできないわ。もし、パパとママの帰りが遅かったら、迎えに行こうと思うの」

 ルリィのまっすぐな言葉に答えたのは、清潔感のある短く青い髪が特徴的で好奇心の強そうな青い瞳の少年だった。
「その時は俺も一緒にいくからな。
それにしても、お前がおじさんたちの言いつけを守らずに、すぐにうちを飛び出していこうとしたときは驚いたぜ。お前はほんっとにバカなんだから。
おじさん達なら絶対大丈夫、あのエドワード・スパークの子孫なんだぜ!今の俺たちはいつかおじさんたちを助けられるように強くならないとな」
アトラはどんな時もルリィの傍らにいて励ましてくれる。
この時から5年後、ルリィとアトラの物語は時の羅針盤を中心に廻り始めるのだった。
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