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1章
1話 冒険者試験
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「おーいルリィ、起きろルリィ」
ルリィはまだ半分寝ぼけた頭でアトラの声を聞いたが、すぐに起き上がると、
「いよいよね、アトラ。お父さんたちが旅に出てから5年もたっちゃったけど、いよいよ私たち冒険者になれるのね!」
「そうだな、冒険者になる試験が開催されるまでだいぶ待たされたもんな!」
アトラが答えている間にルリィは素早く支度を始めた。
「えっと、今回の試験に合格すれば私たちも冒険者の資格が得られるのね!最低限必要なものは準備したわ」
「戦闘用の短剣に食料は俺が持ったぜ」
これでよし、と二人は目で合図すると家を出た。
2人の家は大陸の南東に位置するジミー村という小さな村にあった。
ジミー村は主に農業で生計を立てている村だ。ルリィとアトラは農業の手伝いをしながら冒険者になるため、今日まで努力を続けてきたのだった。
「ねぇアトラ、筆記試験を二日前に終わらせたばかりなのに、もう実技試験って早すぎない?」
集合場所に向かいながらルリィはぼやいた。
「そうだな、だけど何日も待たされるより、スムーズでいいんじゃないか?そんなことより、ルリィのおかげで苦手だった筆記試験に合格できて感謝してるぜ」
「うん、その代わりに私は実技の訓練を手伝ってもらったし、お互い様よ」
「ほら、あれが試験会場に連れて行ってくれる馬車だぜ」
広場には決して豪華とは言えぬ馬車と、その側におそらく冒険者組合の者らしき人が立っていた。
「あのー、私ルリィって言います。こっちはアトラ。試験会場への馬車で間違いないでしょうか?」
少し緊張しながらルリィが口を開くと、男が答えた。
「うん、君たちが今年の受験者だね。だけどジミー村からの受験者は確か三人って聞いていたけれど…」
「それは、俺だ!」
どうやら、そのタイミングを待っていたかのように声が上がった。ルリィたちが声の方角を見ると、目の前の丘の上で何者かが勢いよくジャンプした。
その人物はこのあたりの村人には珍しい上質な衣服を身につけていた。
皮のブーツに光沢のある生地でできた黒いズボンと緑のシャツ、そして目の覚めるような青いマントを纏っていた。
その男はゆっくり歩いて近づいてきた。
おそらく、かっこつけるためだけに高い場所で待ち構えていたのだろう。
アトラはその男を見ると呆れたように
「なんだお前か」とつぶやいた。
「お前とはなんだ、お前とは。ダルク様と呼べ!」
ダルクはジミー村の村長の子で、ルリィ達ともまぁまぁ仲のいい少年だ。だが、プライドが高く、アトラとは喧嘩友達だ。
「なんだ、バカか」
暴言を吐くアトラに殴り掛かりながら
「殴るぞ!」とダルクが叫ぶと
「もう殴ってるじゃないか!」とアトラがわざと痛そうなふりをして返す。
「はいはい、三人揃ったことだし、さっさと馬車に乗った乗った」
一連のやり取りを半ば呆れながら、組合の男が遮った。
馬車は数時間ほど走ると、大きな洞窟の前で止まった。そこが試験会場の入り口になっている。
「じゃ、頑張れよ」
ルリィ達は組合員に見送られると、試験会場に歩みを進めた。会場といっても4本の木の柱に形ばかりの幕をはった囲いで、そこには20名程の冒険者志望者達が集まっていた。
そして、その中央には恰幅の良い男性が椅子に座っていた。
「おい、ルリィ」
アトラがルリィに話しかけようとすると、中央に座っていた男性が突然立ち上がり、アトラをじろりと見るなり話始めた。
「私はコステル、冒険者組合の会長をしている者だ。今年も冒険者志願者が集まってくれたことを嬉しく思っている。
君たちにはこのコリスの洞窟を抜けてもらい、山頂を目指してもらう。山頂にある大鷲の巣に冒険者組合があらかじめ置いておいたコインが5枚ある。そこから1枚持ち帰れた者を、冒険者試験合格とする!」
そう説明すると、コステル会長は一段と声を張り上げて言った。
「試験開始!」
「今年の合格者は5名か、一番乗りはこのダルク様だな」
そう叫んで走り出すダルクに続いて、冒険者志願者達も次々に走り出した。
「行くぞ、ルリィ」
「うん」
二人も皆に続いて洞窟に入った。
「暗いなぁ」
アトラがつぶやくと、すかさずルリィがランタンをかざす。
「足場に気をつけろ、どんな罠があるかわからない」
アトラはふりかえってルリィを気づかった。
「うん」
ルリィはアトラのうしろにぴったりとついて、洞窟の中を進んだ。しばらくすると、前方から男の悲鳴が聞こえてきた。
「うわー、助けてくれー」
ルリィがランタンをかざすと、前方に無数のコウモリに襲われている数名の冒険者志願者達がいた。
「アトラ、見て。ここにはアシカコウモリの巣があるんだわ。小さいころお父さんから教えられたの、アシカコウモリは音に敏感で、テリトリーに入る者を集団で襲うって言ってた!」
ルリィは小声でアトラに告げた
「なら、音をたてないように巣を迂回していこう。気づかれなければ大丈夫だ」
二人は慎重に進み、なんとかアシカコウモリのテリトリーから出ることができた!
「よし、ここまで来れば大丈夫だろう」
「アシカコウモリ達のせいで冒険者志願者達は足止めされているみたいね、ダルクは大丈夫かしら」
二人は歩みを進め、ついに洞窟を抜けた。抜けた先にはコステルの言っていたとおり小高い山がそびえていた。
「あの山の山頂が目的地か。急ごう!」
二人は急いで山を駆け上る。
しばらく行くとごつごつした岩の上にある大鷲の巣が目に入った。
「ルリィ、あそこだ。コインをとるぞ!」
「待って、アトラ。何かおかしい、巣にはいつも大鷲のメスがいるはず…」
急ぎ足で、巣に近づいたアトラの目に飛び込んできたのは、無残な大鷲の死骸と4つのコインだった。
「え!?」
「アトラ危ない!」
ルリィはとっさにアトラを突き飛ばした。その直後見たこともない奇妙な鳥がアトラに襲いかかり、巨大な爪が体をかすめた。
右の翼は黒い色。左の翼は白い色。
そして、顔はまるで髑髏のような恐ろしい化け物だ。
「なんだあの化け物は。聞いたこともないぞ。おいルリィ、ルリィどうした?」
固まったまま化け物をじっと見つめているルリィが、震える声で言った。
「あの鳥、知ってる。『禍の島』にしか生息しない魔獣。人面怪鳥ラクゥサ」
ルリィはまだ半分寝ぼけた頭でアトラの声を聞いたが、すぐに起き上がると、
「いよいよね、アトラ。お父さんたちが旅に出てから5年もたっちゃったけど、いよいよ私たち冒険者になれるのね!」
「そうだな、冒険者になる試験が開催されるまでだいぶ待たされたもんな!」
アトラが答えている間にルリィは素早く支度を始めた。
「えっと、今回の試験に合格すれば私たちも冒険者の資格が得られるのね!最低限必要なものは準備したわ」
「戦闘用の短剣に食料は俺が持ったぜ」
これでよし、と二人は目で合図すると家を出た。
2人の家は大陸の南東に位置するジミー村という小さな村にあった。
ジミー村は主に農業で生計を立てている村だ。ルリィとアトラは農業の手伝いをしながら冒険者になるため、今日まで努力を続けてきたのだった。
「ねぇアトラ、筆記試験を二日前に終わらせたばかりなのに、もう実技試験って早すぎない?」
集合場所に向かいながらルリィはぼやいた。
「そうだな、だけど何日も待たされるより、スムーズでいいんじゃないか?そんなことより、ルリィのおかげで苦手だった筆記試験に合格できて感謝してるぜ」
「うん、その代わりに私は実技の訓練を手伝ってもらったし、お互い様よ」
「ほら、あれが試験会場に連れて行ってくれる馬車だぜ」
広場には決して豪華とは言えぬ馬車と、その側におそらく冒険者組合の者らしき人が立っていた。
「あのー、私ルリィって言います。こっちはアトラ。試験会場への馬車で間違いないでしょうか?」
少し緊張しながらルリィが口を開くと、男が答えた。
「うん、君たちが今年の受験者だね。だけどジミー村からの受験者は確か三人って聞いていたけれど…」
「それは、俺だ!」
どうやら、そのタイミングを待っていたかのように声が上がった。ルリィたちが声の方角を見ると、目の前の丘の上で何者かが勢いよくジャンプした。
その人物はこのあたりの村人には珍しい上質な衣服を身につけていた。
皮のブーツに光沢のある生地でできた黒いズボンと緑のシャツ、そして目の覚めるような青いマントを纏っていた。
その男はゆっくり歩いて近づいてきた。
おそらく、かっこつけるためだけに高い場所で待ち構えていたのだろう。
アトラはその男を見ると呆れたように
「なんだお前か」とつぶやいた。
「お前とはなんだ、お前とは。ダルク様と呼べ!」
ダルクはジミー村の村長の子で、ルリィ達ともまぁまぁ仲のいい少年だ。だが、プライドが高く、アトラとは喧嘩友達だ。
「なんだ、バカか」
暴言を吐くアトラに殴り掛かりながら
「殴るぞ!」とダルクが叫ぶと
「もう殴ってるじゃないか!」とアトラがわざと痛そうなふりをして返す。
「はいはい、三人揃ったことだし、さっさと馬車に乗った乗った」
一連のやり取りを半ば呆れながら、組合の男が遮った。
馬車は数時間ほど走ると、大きな洞窟の前で止まった。そこが試験会場の入り口になっている。
「じゃ、頑張れよ」
ルリィ達は組合員に見送られると、試験会場に歩みを進めた。会場といっても4本の木の柱に形ばかりの幕をはった囲いで、そこには20名程の冒険者志望者達が集まっていた。
そして、その中央には恰幅の良い男性が椅子に座っていた。
「おい、ルリィ」
アトラがルリィに話しかけようとすると、中央に座っていた男性が突然立ち上がり、アトラをじろりと見るなり話始めた。
「私はコステル、冒険者組合の会長をしている者だ。今年も冒険者志願者が集まってくれたことを嬉しく思っている。
君たちにはこのコリスの洞窟を抜けてもらい、山頂を目指してもらう。山頂にある大鷲の巣に冒険者組合があらかじめ置いておいたコインが5枚ある。そこから1枚持ち帰れた者を、冒険者試験合格とする!」
そう説明すると、コステル会長は一段と声を張り上げて言った。
「試験開始!」
「今年の合格者は5名か、一番乗りはこのダルク様だな」
そう叫んで走り出すダルクに続いて、冒険者志願者達も次々に走り出した。
「行くぞ、ルリィ」
「うん」
二人も皆に続いて洞窟に入った。
「暗いなぁ」
アトラがつぶやくと、すかさずルリィがランタンをかざす。
「足場に気をつけろ、どんな罠があるかわからない」
アトラはふりかえってルリィを気づかった。
「うん」
ルリィはアトラのうしろにぴったりとついて、洞窟の中を進んだ。しばらくすると、前方から男の悲鳴が聞こえてきた。
「うわー、助けてくれー」
ルリィがランタンをかざすと、前方に無数のコウモリに襲われている数名の冒険者志願者達がいた。
「アトラ、見て。ここにはアシカコウモリの巣があるんだわ。小さいころお父さんから教えられたの、アシカコウモリは音に敏感で、テリトリーに入る者を集団で襲うって言ってた!」
ルリィは小声でアトラに告げた
「なら、音をたてないように巣を迂回していこう。気づかれなければ大丈夫だ」
二人は慎重に進み、なんとかアシカコウモリのテリトリーから出ることができた!
「よし、ここまで来れば大丈夫だろう」
「アシカコウモリ達のせいで冒険者志願者達は足止めされているみたいね、ダルクは大丈夫かしら」
二人は歩みを進め、ついに洞窟を抜けた。抜けた先にはコステルの言っていたとおり小高い山がそびえていた。
「あの山の山頂が目的地か。急ごう!」
二人は急いで山を駆け上る。
しばらく行くとごつごつした岩の上にある大鷲の巣が目に入った。
「ルリィ、あそこだ。コインをとるぞ!」
「待って、アトラ。何かおかしい、巣にはいつも大鷲のメスがいるはず…」
急ぎ足で、巣に近づいたアトラの目に飛び込んできたのは、無残な大鷲の死骸と4つのコインだった。
「え!?」
「アトラ危ない!」
ルリィはとっさにアトラを突き飛ばした。その直後見たこともない奇妙な鳥がアトラに襲いかかり、巨大な爪が体をかすめた。
右の翼は黒い色。左の翼は白い色。
そして、顔はまるで髑髏のような恐ろしい化け物だ。
「なんだあの化け物は。聞いたこともないぞ。おいルリィ、ルリィどうした?」
固まったまま化け物をじっと見つめているルリィが、震える声で言った。
「あの鳥、知ってる。『禍の島』にしか生息しない魔獣。人面怪鳥ラクゥサ」
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