禍の島と時の羅針盤

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2章

5話 伝説の力

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翌朝、目覚めたレクスはサーシャを優しく起こした。
「サーシャ、昨夜は眠れたかい?」
「もう、朝なんですの? お兄様。このベッド固くてあまり眠れませんでしたわ」
そうぼやくサーシャに
「サーシャ、朝食を食べながら、今後どうしていくか相談しないといけないね」
「朝食って、部屋に運ばれてこないんですの?」
サーシャは無邪気に尋ねた。
「こういった宿屋では朝食は1階の食堂で出るらしい。さあ、いこうか」
「ちょっと待ってください、お兄様。わたくし髪もセットしていないし、それに服だって替えがないんですのよ」
せかすレクスにサーシャが不満そうな顔をした。
「サーシャ忘れたのかい、今の私たちの立場を? 父上はこうしている間にも...」
自分の無力さにうなだれているレクスにサーシャは立ち上がると
「そんな風に落ち込んでいる方が時間の無駄ですわ。わかりました。食事をして悪いやつを倒しに行きましょう!」
妹の強気な言葉に励まされ、レクスは一緒に1階に降りて行った。
食堂は多くの人でにぎわっていた。
場違いな2人に好奇の目が集まったが、2人は気にすることなく空いているテーブルに向かうと、レクサはサーシャに座るようすすめた。
すると、いかにもガラの悪そうな男が話しかけてきた。
「おい、にーちゃん達。そんなに深くフードを被って、朝帰りとは悪い子だなー」
「すまない、私たちにもやむを得ない事情があるんだ」
レクサは素っ気なく答えた。
「大人をバカにするんじゃねー」
レクサの態度にむかついたのか、男はコブシを振り上げた。
が、その手を何者かが掴んでこう言った。
「大人気ないぞ。この国の大人はいつからそんなに乱暴になったのかねぇ」
その声に驚くレクス。
「ラルフ殿、戻られていたのですか!?」
「ラルフだって!?」
ガラの悪い男は、ラルフの名を聞くやいなや慌てて逃げ出していく。
「レクス様、とりあえずは無事でなによりです。サーシャ様もご自分を制して、成長されましたね」
「あんなゴロツキ、もう少しでわたくし蹴り飛ばしてやるところでしたわ」
勢いづくサーシャにラルフはため息をついた。
「ここはひと目が多いです。騒ぎになる前に出ましょう。それに、紹介しないといけない方たちがいます」
そう言うとラルフは、昨日、昼食を食べた家へと2人を案内するのだった。

「おかえり、ラルフ。後ろの2人が例の王子様とお姫様なの?」
待ちかまえていたルリィが声をかけると、レクスとサーシャはけげんな顔をしてルリィを眺めた。
「ごめんなさい、自己紹介もしないで。私ったら失礼だったわね。
私はルリィといいます。隣にいるのはアトラです。私たち、危ないところをラルフさんに助けられて。
それで、この羅針盤の力が必要って言われて...」
そう言ってルリィが羅針盤を見せるとレクスは驚いて言った。
「まさか! それは時の羅針盤!? あなたは何者なんですか?」
問いかけるレクスになぜかアトラが自慢げに言った。
「ルリィはあのエドワード・スパークの子孫なんだぜ!」
それを聞くとレクスは急に態度を改めて言った。
「スパークの血を引く方とお会いできるとは光栄です。5大英雄の中でももっとも偉大な方だったと王家に記録が残っています」
「いや、私はまだまだ未熟だし。でも、できる限りの事はしたいと思っています」
慌てて謙遜するルリィにアトラが重ねて言う。
「本当に俺たちはまだ駆け出し冒険者なんだ。ラルフは俺たちの力が必要って言ってくれたけど、正直何ができるのかまだわかってないんだ」
自信無げなアトラにラルフが言う。
「じゃあ、少しだけ伝説の力っていうのを試してみようか。レクス王子、秩序の指輪はお持ちですか?」
レクスがうなずくと、ラルフは指輪をルリィに手渡すように言った。
そして、いきなりテーブルを音もなくふたつに切った。
「ルリィ嬢ちゃん、元に戻れって強く念じながら、”リ・ループ”って言ってみてくれないか?」
戸惑いながらルリィが唱える。
「リ・ループ」
すると、割れたはずのテーブルが元の状態に戻った。
「なに、これ!?」
驚くルリィとアトラにラルフが言った。
「これが秩序の指輪と時の羅針盤が揃った時の力だ。俺も実際に見るまでは半信半疑だったけどな」
 目を丸くしている2人に向かって、ラルフは声を強めた。
「この力があれば俺はかなりむちゃな戦い方もできる。そして、オルガ王を必ずお助けしてみせる!」
「ラルフ、私も戦うぞ!」
レクスも決意を秘めた目をして応じた。
男2人が盛り上がっていると、不意にサーシャがのんびりした様子で
「ところでお兄様、朝ごはんはまだかしら?」
空気の読めないサーシャの一言で一同は顔を見合わせて笑うのだった。
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