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ぼっちと幼女と邪神
幼女と邪神と買い物③
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「いらっしゃい! そこらへんの席に……って、なんだ。ルナじゃないか」
「ああ、ルシア! 昨日ぶりだね!」
前回来た大衆食堂。
香ばしい肉の匂いと、スープの湯気、それに人々のざわめきが入り混じった、いかにも街の腹を支えている食堂だ。
カウンターの奥から顔を出したのは、見覚えのある店主――ルシア。
前に来たときも、ルナと軽口を叩き合っていた気がする。やっぱり顔なじみなんだろうな。
「……ルナ。あんたいつの間にそんなに子供を……? そこの男とのかい…?」
カウンター越しにルシアの視線が、肩車されているシロと、腕の中のミドリ、そして俺へと順番に刺さってくる。
言葉の意味を理解した瞬間、頭の中に「やめてくれ」という札を掲げたくなった。
「何を言っておるのじゃ! シロとミドリは妾とシュウの子じゃ!」
それもそれで間違ってるからな?
女同士の会話に口を挟むとろくなことにならない――転生前に痛いほど学んだ教訓だ。
今は黙っておく。あとで、静かなところで訂正しよう。
「しろ、へった……」
ルナの頭の上で、シロがしょぼんと肩を落とした。
さっきから腹の虫が騒いでいたし、もう限界が近いのかもしれない。
「ああああ! ごめんよ! ルシア、この子たちに昼食を頼むよ!」
「金はルナが払ってくれるそうだ」
「タダメシじゃのう!」
クレバスが、するりと俺たちより一歩早く席に滑り込み、堂々と肘をついて言い放つ。
世界を管理していた元神とは思えない、小市民じみたセリフだ。
「私もそれなりに稼いでいるからね! さあ、シロちゃん! 好きなだけ食べていいからね!」
「わーい!」
シロはすぐさまルナの膝の上に移動し、出された椅子には目もくれず、テーブルの上をじっと見つめる。
料理が運ばれてくる方向に、期待と空腹が混じった視線を送り続けているのが分かる。
「おにいちゃ……ぼくも……」
「いいぞ。好きなだけ食え」
「わぁい……!」
ミドリは俺の膝の上に腰を下ろすと、小さく両手を握りしめた。
あまり表情を動かさないタイプだが、声と仕草にわずかな高揚が滲んでいる。
……やっぱり、ルナに全部払わせるのは気が引けるな。
このメンツだと、どう考えても予想以上の量を食う。後でこっそり金を渡しておくべきだろう。
シロとミドリは大人と同じかそれ以上の量を平然と平らげるし、クレバスに至ってはその三倍はいく。
クレバスが「動けん……」と言い出したら、その時はまた高い高いコースだな。街中ではやらないが。
「お待ち! こっちが嬢ちゃん達で、他は大人達だね」
「妾は嬢ちゃん扱いじゃったのか……」
「あら、ごめんなさいね! あまりにも可愛らしかったから……」
「ふっ…ふふん! 妾の魅力は隠しきれんからのう! ……これはこれで頂こう!」
ルシアは笑顔で弁解し、クレバスは一瞬むっとしかけてから、すぐに胸を張って得意げな顔になった。
ちょろい。
こういうさじ加減ができるから、この店はいつも客で賑わっているのかもしれない。
テーブルの上には、こんもりと盛られた肉や野菜、スープやパンが並べられていく。
腹も減ってきたし、そろそろ俺も食べ――
……あれ?
俺の皿に乗っていたはずの肉は、五切れ。
今、視界にあるのは三切れ。
何があった?
視線をテーブルの上で滑らせる。
クレバスは自分の分をものすごい速度で処理している最中だ。
シロはルナの皿にフォークを伸ばし、自分の皿と往復しながら、幸せそうにもぐもぐしている。
ルナは、自分の分を食われていることに気付いた上で、それをあえて許し、むしろ嬉しそうに眺めている。……もうダメかもしれん、この人。
ミドリの皿は、ほとんど減っていない。
が、当人の口元はもぐもぐと忙しそうだ。
「なあ、ミドリ。俺の肉がないんだけど知らないか?」
「……ひひゃはい」
口いっぱいに肉を詰め込んだまま、ミドリがそっぽを向いた。
シラを切るつもりなのは分かるが、咀嚼音でバレバレだ。
「5切れあったんだよなぁ……食べてないのに3切れしかないなぁ……」
「おいし、かった……」
「やっぱ食ってたか」
軽く指でほっぺたをつついて、ぷにっと感触を確かめる。
ミドリは、少しだけ口角を上げると、俺の指にほおずりしてきた。……猫か。
「ぼく……たべた」
今度はちゃんと飲み込んでから、指を一本立てて白状した。
「残り1切れは?」
「くれねぇ……」
「妾を売るでない!」
視線を横に流すと、クレバスの皿の上には、さっきまで俺の皿にいた肉とよく似た一切れが、すでに消えかけていた。
ミドリは許す。クレバスは許さん。
そういえば前に、俺から漏れ出ている神気をクレバスが吸収している――とか言っていたな。
ここ最近の訓練で、神力の操作にも慣れてきたところだ。
意識を内側に向ける。
魔力の海のさらに奥、そこに溜まっている、重く濃い何か――神気。
それを指先でかき混ぜるような感覚で引き出し、クレバスとの間に繋がっている魂の道へと、ぐっと押し流す。
「……っ!?! しゅっ、シュウ……だめじゃ……っ」
クレバスの肩がびくんと跳ね、全身がピクピクと震え出した。
予想していたのとは全く違う反応だ。慌てて神気を送るのを止める。
「……ふぅ……すまん、ちょいと厠じゃ」
「トイレはあっちだよー」
「恩にきる」
クレバスは頬を赤く染めたまま、きっと俺を睨みつけてから、足早にトイレの方へと去っていった。
何がどうなったのか、正直よく分からない。
俺が肉の残りをかき集めて口に運んでいる間、シロとミドリはひたすら幸せそうにもぐもぐと食べ続け、
クレバスが何事もなかったかのような顔で戻ってくる頃には、食事の時間はすっかり終わりに近づいていた。
「ああ、ルシア! 昨日ぶりだね!」
前回来た大衆食堂。
香ばしい肉の匂いと、スープの湯気、それに人々のざわめきが入り混じった、いかにも街の腹を支えている食堂だ。
カウンターの奥から顔を出したのは、見覚えのある店主――ルシア。
前に来たときも、ルナと軽口を叩き合っていた気がする。やっぱり顔なじみなんだろうな。
「……ルナ。あんたいつの間にそんなに子供を……? そこの男とのかい…?」
カウンター越しにルシアの視線が、肩車されているシロと、腕の中のミドリ、そして俺へと順番に刺さってくる。
言葉の意味を理解した瞬間、頭の中に「やめてくれ」という札を掲げたくなった。
「何を言っておるのじゃ! シロとミドリは妾とシュウの子じゃ!」
それもそれで間違ってるからな?
女同士の会話に口を挟むとろくなことにならない――転生前に痛いほど学んだ教訓だ。
今は黙っておく。あとで、静かなところで訂正しよう。
「しろ、へった……」
ルナの頭の上で、シロがしょぼんと肩を落とした。
さっきから腹の虫が騒いでいたし、もう限界が近いのかもしれない。
「ああああ! ごめんよ! ルシア、この子たちに昼食を頼むよ!」
「金はルナが払ってくれるそうだ」
「タダメシじゃのう!」
クレバスが、するりと俺たちより一歩早く席に滑り込み、堂々と肘をついて言い放つ。
世界を管理していた元神とは思えない、小市民じみたセリフだ。
「私もそれなりに稼いでいるからね! さあ、シロちゃん! 好きなだけ食べていいからね!」
「わーい!」
シロはすぐさまルナの膝の上に移動し、出された椅子には目もくれず、テーブルの上をじっと見つめる。
料理が運ばれてくる方向に、期待と空腹が混じった視線を送り続けているのが分かる。
「おにいちゃ……ぼくも……」
「いいぞ。好きなだけ食え」
「わぁい……!」
ミドリは俺の膝の上に腰を下ろすと、小さく両手を握りしめた。
あまり表情を動かさないタイプだが、声と仕草にわずかな高揚が滲んでいる。
……やっぱり、ルナに全部払わせるのは気が引けるな。
このメンツだと、どう考えても予想以上の量を食う。後でこっそり金を渡しておくべきだろう。
シロとミドリは大人と同じかそれ以上の量を平然と平らげるし、クレバスに至ってはその三倍はいく。
クレバスが「動けん……」と言い出したら、その時はまた高い高いコースだな。街中ではやらないが。
「お待ち! こっちが嬢ちゃん達で、他は大人達だね」
「妾は嬢ちゃん扱いじゃったのか……」
「あら、ごめんなさいね! あまりにも可愛らしかったから……」
「ふっ…ふふん! 妾の魅力は隠しきれんからのう! ……これはこれで頂こう!」
ルシアは笑顔で弁解し、クレバスは一瞬むっとしかけてから、すぐに胸を張って得意げな顔になった。
ちょろい。
こういうさじ加減ができるから、この店はいつも客で賑わっているのかもしれない。
テーブルの上には、こんもりと盛られた肉や野菜、スープやパンが並べられていく。
腹も減ってきたし、そろそろ俺も食べ――
……あれ?
俺の皿に乗っていたはずの肉は、五切れ。
今、視界にあるのは三切れ。
何があった?
視線をテーブルの上で滑らせる。
クレバスは自分の分をものすごい速度で処理している最中だ。
シロはルナの皿にフォークを伸ばし、自分の皿と往復しながら、幸せそうにもぐもぐしている。
ルナは、自分の分を食われていることに気付いた上で、それをあえて許し、むしろ嬉しそうに眺めている。……もうダメかもしれん、この人。
ミドリの皿は、ほとんど減っていない。
が、当人の口元はもぐもぐと忙しそうだ。
「なあ、ミドリ。俺の肉がないんだけど知らないか?」
「……ひひゃはい」
口いっぱいに肉を詰め込んだまま、ミドリがそっぽを向いた。
シラを切るつもりなのは分かるが、咀嚼音でバレバレだ。
「5切れあったんだよなぁ……食べてないのに3切れしかないなぁ……」
「おいし、かった……」
「やっぱ食ってたか」
軽く指でほっぺたをつついて、ぷにっと感触を確かめる。
ミドリは、少しだけ口角を上げると、俺の指にほおずりしてきた。……猫か。
「ぼく……たべた」
今度はちゃんと飲み込んでから、指を一本立てて白状した。
「残り1切れは?」
「くれねぇ……」
「妾を売るでない!」
視線を横に流すと、クレバスの皿の上には、さっきまで俺の皿にいた肉とよく似た一切れが、すでに消えかけていた。
ミドリは許す。クレバスは許さん。
そういえば前に、俺から漏れ出ている神気をクレバスが吸収している――とか言っていたな。
ここ最近の訓練で、神力の操作にも慣れてきたところだ。
意識を内側に向ける。
魔力の海のさらに奥、そこに溜まっている、重く濃い何か――神気。
それを指先でかき混ぜるような感覚で引き出し、クレバスとの間に繋がっている魂の道へと、ぐっと押し流す。
「……っ!?! しゅっ、シュウ……だめじゃ……っ」
クレバスの肩がびくんと跳ね、全身がピクピクと震え出した。
予想していたのとは全く違う反応だ。慌てて神気を送るのを止める。
「……ふぅ……すまん、ちょいと厠じゃ」
「トイレはあっちだよー」
「恩にきる」
クレバスは頬を赤く染めたまま、きっと俺を睨みつけてから、足早にトイレの方へと去っていった。
何がどうなったのか、正直よく分からない。
俺が肉の残りをかき集めて口に運んでいる間、シロとミドリはひたすら幸せそうにもぐもぐと食べ続け、
クレバスが何事もなかったかのような顔で戻ってくる頃には、食事の時間はすっかり終わりに近づいていた。
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