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ぼっちと幼女と邪神
幼女と邪神とかき氷
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玄関を開けた瞬間、刺すような冷気が頬を撫でた。
「じゃぶい!!」
先に飛び出したシロが、勢いそのままに悲鳴を上げる。
吐いた息が白く膨らみ、すぐに風に溶けていった。
外は一面の銀世界だった。
昨日まで土の色が覗いていた庭は、今やきれいに輪郭を失っている。
低い茂みも石畳も、全部まとめて白い毛布の下だ。
俺も思わず肩をすくめる。冬と変わらないな、これ。
「ほい」
シロと、後ろで小さく震えているミドリに温度最適化の魔法をかける。
ふわりと魔力が広がり、2人の周りの空気が柔らかく変質した。
「あったかい……」
ミドリが小さく俺の袖を握ったまま、ほっとしたように目を細める。
「妾にもかけてくれんかのう?」
「ほいよ」
「助かったのじゃ!」
クレバスにも同じ魔法をかけてやると、途端に元気を取り戻したらしく、シロと並んで雪の上へ駆け出していった。
ふかふかの雪を踏みしめるたび、ぎゅっぎゅっと小さな足跡が残る。
そのクレバスが、懐から何かを取り出した。
「なんだあの赤いの」
小瓶のようだ。ガラスの内側に、どろりとした赤いものが張り付いている。
遠目からでも甘い予感しかしない色をしていた。
……イチゴジャムじゃないよな?
そう思っているあいだに、クレバスはさっさと瓶の蓋を開け、しゃがみ込んで雪をひとつまみ手に取る。
白い雪の上に赤い中身をとぷとぷとかけ――ためらいもなく口に放り込んだ。
「うまい! うまい!」
両頬を膨らませながら、幸せそうに雪を噛みしめている。
それを見ていたシロも、目をきらきらさせて瓶の口元へ顔を寄せた。
「あまい!」
「じゃろう!?」
2人して夢中で雪をすくっては、赤い液体をたっぷり染み込ませて食べている。
あれは間違いなくイチゴジャムだ。
しかも見覚えのある色ととろみ――
こないだ農園でこっそり収穫したイチゴを、大きめの果肉を残して煮詰めた自家製ジャムだ。
「おにいちゃ……ぼくも……」
足元から小さな引き声がする。
見下ろすと、ミドリが雪とクレバスを交互に見ながら、遠慮がちに袖をつまんでいた。
「ちょっと待っててくれ」
甘いものなら、まだ手はある。
頭の中で、今ある材料をざっと思い浮かべる。
……砂糖系は、ちょうど切らしてたな。
じゃあ、作ればいいか。
前にクレバスがぽろっと言っていた。「神力は何にでもなる」と。
それを物質創造に回せるなら、イメージしているものを作り出すくらいどうとでもなるだろう。
神力を練り上げる。魔力の殻の内側からにじみ出してくる重たい感覚を、意識してひとつにまとめる。
「【創造】」
掌に意識を集中させると、何もなかった空間に重みが生まれる。
次の瞬間、手の中には、見慣れない容器に入った紅色の液体が収まっていた。
指先ですくい取り、舌先にちょんと乗せる。
濃い甘味と、ほんのりした香りが広がった。
――うん、かき氷シロップだ。
別空間から木の器を取り出し、庭の端の、汚れの混じっていないところから雪をすくって盛る。
同時に、魔力で雪の中の不純物をそぎ落とした。
この世界の雪はもともときれいだが、子供に食わせるなら念には念をだ。
「ほれ、ミドリ」
紅色のシロップをたっぷりとかけた器を差し出す。
「わぁい……」
ミドリの顔が、ふわっとほころんだ。
小さな手で器を抱え込み、スプーンで雪をすくって口に運ぶ。冷たさにきゅっと肩をすくめながらも、目は完全に笑っている。
俺も自分の分を用意して、ひと口すくってみる。
雪が舌の上でふわりと溶けて、あとから甘味が追いかけてきた。
普通のかき氷だな。悪くない。
「クレバス」
シロップの味を確かめ終えたところで、雪山の一角に声をかける。
振り向いたクレバスは、既に口の周りを赤く染めていた。
「なっ、なんじゃ!? キッチンの棚の中にあったジャムなんぞ知らんぞ!?」
知ってるやつの言い草だった。
例のイチゴジャムを棚の奥に隠したのは、シロとミドリに甘味を作る用だったからだが……まあいい。
今さら説教しても、もう半分くらいは胃袋の中だろう。
「なぜ、ジャムをクレバスが持っているのかは知らん。知らんが……」
わざとらしく前置きをしてみせる。
「知らんが何なのじゃ……?」
「このシロップと合わせて食べてみないか? 美味いと思うんだ」
ジャムの甘さと果肉、シロップの軽い甘味。
雪で割れば、ちょうどいいバランスになるはずだ。
「名案じゃのう! こっそり持ってきた甲斐があったのじゃ!」
「おい」
しまった、という顔をしたあと、慌てて口を押さえるクレバス。
まあ、今回は不問にしてやろう。ジャムの使い道としては間違ってない。
雪の表面を撫でるようにすくい取り、木の器にふんわりと盛る。
その上から紅色のシロップをとろりとかけ、仕上げに果肉ごとジャムを乗せる。
白、赤、濃い赤。色だけは妙に豪華だ。
「にーに……」
横から、ぐいっと袖口が引かれた。
見下ろせば、シロが器をじーっと見上げている。口の端に、さっき食べたジャムの名残がついていた。
物欲しそうな目だ。完全にロックオンされている。
「はいはい」
まずはシロの分を作って手渡す。
肩車しているミドリが、上からとんとんと俺の頭を叩いてきた。自分の番を主張しているのだろう。
「ちゃんと全員分作るから待ってろって」
頭を軽く振って応えながら、もう一つ器を取り出した。
雪はまだまだいくらでも降ってくる。甘い朝の雪遊びは、もう少し続きそうだ。
「じゃぶい!!」
先に飛び出したシロが、勢いそのままに悲鳴を上げる。
吐いた息が白く膨らみ、すぐに風に溶けていった。
外は一面の銀世界だった。
昨日まで土の色が覗いていた庭は、今やきれいに輪郭を失っている。
低い茂みも石畳も、全部まとめて白い毛布の下だ。
俺も思わず肩をすくめる。冬と変わらないな、これ。
「ほい」
シロと、後ろで小さく震えているミドリに温度最適化の魔法をかける。
ふわりと魔力が広がり、2人の周りの空気が柔らかく変質した。
「あったかい……」
ミドリが小さく俺の袖を握ったまま、ほっとしたように目を細める。
「妾にもかけてくれんかのう?」
「ほいよ」
「助かったのじゃ!」
クレバスにも同じ魔法をかけてやると、途端に元気を取り戻したらしく、シロと並んで雪の上へ駆け出していった。
ふかふかの雪を踏みしめるたび、ぎゅっぎゅっと小さな足跡が残る。
そのクレバスが、懐から何かを取り出した。
「なんだあの赤いの」
小瓶のようだ。ガラスの内側に、どろりとした赤いものが張り付いている。
遠目からでも甘い予感しかしない色をしていた。
……イチゴジャムじゃないよな?
そう思っているあいだに、クレバスはさっさと瓶の蓋を開け、しゃがみ込んで雪をひとつまみ手に取る。
白い雪の上に赤い中身をとぷとぷとかけ――ためらいもなく口に放り込んだ。
「うまい! うまい!」
両頬を膨らませながら、幸せそうに雪を噛みしめている。
それを見ていたシロも、目をきらきらさせて瓶の口元へ顔を寄せた。
「あまい!」
「じゃろう!?」
2人して夢中で雪をすくっては、赤い液体をたっぷり染み込ませて食べている。
あれは間違いなくイチゴジャムだ。
しかも見覚えのある色ととろみ――
こないだ農園でこっそり収穫したイチゴを、大きめの果肉を残して煮詰めた自家製ジャムだ。
「おにいちゃ……ぼくも……」
足元から小さな引き声がする。
見下ろすと、ミドリが雪とクレバスを交互に見ながら、遠慮がちに袖をつまんでいた。
「ちょっと待っててくれ」
甘いものなら、まだ手はある。
頭の中で、今ある材料をざっと思い浮かべる。
……砂糖系は、ちょうど切らしてたな。
じゃあ、作ればいいか。
前にクレバスがぽろっと言っていた。「神力は何にでもなる」と。
それを物質創造に回せるなら、イメージしているものを作り出すくらいどうとでもなるだろう。
神力を練り上げる。魔力の殻の内側からにじみ出してくる重たい感覚を、意識してひとつにまとめる。
「【創造】」
掌に意識を集中させると、何もなかった空間に重みが生まれる。
次の瞬間、手の中には、見慣れない容器に入った紅色の液体が収まっていた。
指先ですくい取り、舌先にちょんと乗せる。
濃い甘味と、ほんのりした香りが広がった。
――うん、かき氷シロップだ。
別空間から木の器を取り出し、庭の端の、汚れの混じっていないところから雪をすくって盛る。
同時に、魔力で雪の中の不純物をそぎ落とした。
この世界の雪はもともときれいだが、子供に食わせるなら念には念をだ。
「ほれ、ミドリ」
紅色のシロップをたっぷりとかけた器を差し出す。
「わぁい……」
ミドリの顔が、ふわっとほころんだ。
小さな手で器を抱え込み、スプーンで雪をすくって口に運ぶ。冷たさにきゅっと肩をすくめながらも、目は完全に笑っている。
俺も自分の分を用意して、ひと口すくってみる。
雪が舌の上でふわりと溶けて、あとから甘味が追いかけてきた。
普通のかき氷だな。悪くない。
「クレバス」
シロップの味を確かめ終えたところで、雪山の一角に声をかける。
振り向いたクレバスは、既に口の周りを赤く染めていた。
「なっ、なんじゃ!? キッチンの棚の中にあったジャムなんぞ知らんぞ!?」
知ってるやつの言い草だった。
例のイチゴジャムを棚の奥に隠したのは、シロとミドリに甘味を作る用だったからだが……まあいい。
今さら説教しても、もう半分くらいは胃袋の中だろう。
「なぜ、ジャムをクレバスが持っているのかは知らん。知らんが……」
わざとらしく前置きをしてみせる。
「知らんが何なのじゃ……?」
「このシロップと合わせて食べてみないか? 美味いと思うんだ」
ジャムの甘さと果肉、シロップの軽い甘味。
雪で割れば、ちょうどいいバランスになるはずだ。
「名案じゃのう! こっそり持ってきた甲斐があったのじゃ!」
「おい」
しまった、という顔をしたあと、慌てて口を押さえるクレバス。
まあ、今回は不問にしてやろう。ジャムの使い道としては間違ってない。
雪の表面を撫でるようにすくい取り、木の器にふんわりと盛る。
その上から紅色のシロップをとろりとかけ、仕上げに果肉ごとジャムを乗せる。
白、赤、濃い赤。色だけは妙に豪華だ。
「にーに……」
横から、ぐいっと袖口が引かれた。
見下ろせば、シロが器をじーっと見上げている。口の端に、さっき食べたジャムの名残がついていた。
物欲しそうな目だ。完全にロックオンされている。
「はいはい」
まずはシロの分を作って手渡す。
肩車しているミドリが、上からとんとんと俺の頭を叩いてきた。自分の番を主張しているのだろう。
「ちゃんと全員分作るから待ってろって」
頭を軽く振って応えながら、もう一つ器を取り出した。
雪はまだまだいくらでも降ってくる。甘い朝の雪遊びは、もう少し続きそうだ。
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