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幼女と邪神とユキ
ぼっちと邪神と準備
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今日はユキの歓迎会をしようと思う。
季節的には夏だ。なら外で――バーベキューが一番それっぽい。
家の外に出るだけで、草の匂いが濃くなる。土の湿り気と、葉の青臭さが混ざった匂い。風の通り方も、屋内とはまるで違う。
ユキの表皮には熱を冷気に変換する結界を張ってある。日向に出ても歩き回れるし、日差しの刺激で動けなくなる心配もない。
デメリットとして炎系の魔法が一切効かなくなってしまったが、種族的には炎は弱点だ。むしろ安全側だろう。
「よし、肉の準備をしよう」
「がたっ……」
「おねーちゃ……すわってて……」
肉という単語に反応して、シロが椅子から跳ね上がった。
その髪を編んで遊んでいたミドリが、両手で肩を押さえて強制的に座らせる。シロは立ちたいのに座らされて、口をむっと尖らせたまま固まった。
歓迎会の主役はユキだが、うちの空気はいつも通りだな……。
俺は寝ているクレバスを担いで倉庫に向かう。
担いでも起きないのがいつものこと――と思いきや、肩に乗った重みの奥で、魔力の流れは妙に整っている。寝ているふりだ。
廊下を抜けて倉庫前に立つと、冷えた空気がじんわり肌に触れた。保管の魔法陣が常時働いているせいか、空気そのものが止まっている。
倉庫に入って、クレバスを床に下ろす。
「……なんじゃ、妾は寝ていたいのじゃが」
寝ていたいと言いながら、目だけはしっかり開いている。
「ユキの歓迎会をする準備を手伝ってくれ」
「うむ……分かったのじゃ。手伝おう」
妙に素直だ。
いつもなら、最初に何かしら要求してくるはずだが……逆に怪しい。
「バーベキューをしようと思っているから、この袋の中に使えそうな食材を詰めてくれ」
「分かったのじゃ」
クレバスに袋を渡す。空間拡張と時間停止の魔法陣を刻んだ袋だ。口を開けても中は暗く、底が見えない。手を突っ込んだまま動かしても、中身がずれない感触がある。
この倉庫の半分……大きさ的には一万キロの立方体ぐらい。用途別に倉庫は七つほどあるが、全部同じ規模だ。
外から見たら小さなコンテナ程度なのが、自分でやっておいても時々おかしく感じる。
倉庫の壁面には空間拡張、時間停止、状態保存、抗菌、迎撃――そういう類の魔法陣が、目に見えない糸みたいに張り巡らされている。
保存されている素材の“鮮度”が、ここだけ別の理屈で固定されている。
クレバスが棚の列の間を行ったり来たりして、やけに真剣に探している。
何を、そんな必死に――。
「あったのじゃ! あっ……しまったのじゃ……声に出してもうた……」
背中がびくっと跳ねた。しまった顔。
隠し事の顔だな。
「何を見つけたんだ?」
「バレてしまったのなら言うしかないのう……こいつじゃ」
クレバスが、塊肉を掲げる。
暗い倉庫の光の下でも、脂の白が細く走っているのが分かる。サシが細かく、肉質はやたら良さそうだ。触れなくても柔らかそうな気配がある。
「何の肉だ……?」
俺が首を傾げた瞬間、クレバスがわざとらしく肩を落とした。
「何故、狩ったお主が首を傾げてるのじゃ??」
「ここ食糧倉庫だからな……? ブロックになってる肉を見て何の肉だって分かる方がおかしいと思うんだが……」
見た目で判別できるのは、よほど特徴があるやつだけだ。
基本は肉にしか見えない。
「鑑定魔法を使えばよかろう。自分の知識にあるものならば詳細が見えるはずなのじゃ」
……そういえばそんな魔法あったな。
長いこと使っていないから、すっかり頭の棚から落ちてた。
魔力を目に流して、肉を鑑定する。
表面の情報じゃなく、魔力の層に刻まれた由来が浮かぶ。
「珍しい肉、千年に一度しか現れないとても珍しい魔物の肉……としか書いてないぞ」
鑑定結果が雑すぎる。
「食材としか認識しておらんのか……この肉はフリシモドラゴンじゃ。妾が世界を創るときに、食べる目的で創った魔物の一種じゃの」
「なるほど、霜降りドラゴンか」
名前の勢いがすごい。
少しずつ思い出す。外殻に覆われていて、可燃性のガスを撒き散らしながら襲ってくる――そんなやつだった気がする。
「誰にも食われんように外殻の硬さを、この世のものじゃ傷すらつけられないように硬く設定したはずなのじゃが……お主の素材倉庫に、砕かれたこいつの殻があってのう……?」
「確かに砕けるまで殴った記憶があるな。そいつのおかげで拳が強くなった」
硬いものを殴り続けたせいで、拳が強化された。
当時は、殴っても殴っても壊れなくて、意地だけで続けたんだったか。
滅多に現れないから貴重な素材だと思って、ここ最近は傷をつけないように狩ってたな。そういえば。
「こいつの肉は絶品のはずじゃ! まだ食ったことないがのう……」
言い方が悔しそうで、変に笑いそうになる。
「じゃあ食うか。袋に入れておいてくれ」
「うむ!」
即答で袋を開け、肉を大事そうに沈めた。袋の口が一瞬だけ膨らんで、何事もなかったみたいに閉じる。
クレバスが素直に手伝いを引き受けた理由が、だいぶ見えてきた。
俺がチョイスした方の肉も同じ袋に入れる。
歓迎会の主役はユキ。だが、肉の前では全員が主役みたいな顔をするのがうちだ。
食べるために創られたドラゴンか。
なんとも言えないが――ちゃんと食べてやるのが一番か。
「これだけあれば十分だろう」
「足りんじゃろ……?」
「百二十キロあるぞ。どんだけ食うんだ?」
シロでさえ食って一キロ……もっと食っている気がする。
――いや、あの体に何でそんなに入るんだ? 普通なら百五十グラムでも多いぐらいの年齢だろ。
考え始めると分からなくなる。
歓迎会の準備は、まだこれからだ。
季節的には夏だ。なら外で――バーベキューが一番それっぽい。
家の外に出るだけで、草の匂いが濃くなる。土の湿り気と、葉の青臭さが混ざった匂い。風の通り方も、屋内とはまるで違う。
ユキの表皮には熱を冷気に変換する結界を張ってある。日向に出ても歩き回れるし、日差しの刺激で動けなくなる心配もない。
デメリットとして炎系の魔法が一切効かなくなってしまったが、種族的には炎は弱点だ。むしろ安全側だろう。
「よし、肉の準備をしよう」
「がたっ……」
「おねーちゃ……すわってて……」
肉という単語に反応して、シロが椅子から跳ね上がった。
その髪を編んで遊んでいたミドリが、両手で肩を押さえて強制的に座らせる。シロは立ちたいのに座らされて、口をむっと尖らせたまま固まった。
歓迎会の主役はユキだが、うちの空気はいつも通りだな……。
俺は寝ているクレバスを担いで倉庫に向かう。
担いでも起きないのがいつものこと――と思いきや、肩に乗った重みの奥で、魔力の流れは妙に整っている。寝ているふりだ。
廊下を抜けて倉庫前に立つと、冷えた空気がじんわり肌に触れた。保管の魔法陣が常時働いているせいか、空気そのものが止まっている。
倉庫に入って、クレバスを床に下ろす。
「……なんじゃ、妾は寝ていたいのじゃが」
寝ていたいと言いながら、目だけはしっかり開いている。
「ユキの歓迎会をする準備を手伝ってくれ」
「うむ……分かったのじゃ。手伝おう」
妙に素直だ。
いつもなら、最初に何かしら要求してくるはずだが……逆に怪しい。
「バーベキューをしようと思っているから、この袋の中に使えそうな食材を詰めてくれ」
「分かったのじゃ」
クレバスに袋を渡す。空間拡張と時間停止の魔法陣を刻んだ袋だ。口を開けても中は暗く、底が見えない。手を突っ込んだまま動かしても、中身がずれない感触がある。
この倉庫の半分……大きさ的には一万キロの立方体ぐらい。用途別に倉庫は七つほどあるが、全部同じ規模だ。
外から見たら小さなコンテナ程度なのが、自分でやっておいても時々おかしく感じる。
倉庫の壁面には空間拡張、時間停止、状態保存、抗菌、迎撃――そういう類の魔法陣が、目に見えない糸みたいに張り巡らされている。
保存されている素材の“鮮度”が、ここだけ別の理屈で固定されている。
クレバスが棚の列の間を行ったり来たりして、やけに真剣に探している。
何を、そんな必死に――。
「あったのじゃ! あっ……しまったのじゃ……声に出してもうた……」
背中がびくっと跳ねた。しまった顔。
隠し事の顔だな。
「何を見つけたんだ?」
「バレてしまったのなら言うしかないのう……こいつじゃ」
クレバスが、塊肉を掲げる。
暗い倉庫の光の下でも、脂の白が細く走っているのが分かる。サシが細かく、肉質はやたら良さそうだ。触れなくても柔らかそうな気配がある。
「何の肉だ……?」
俺が首を傾げた瞬間、クレバスがわざとらしく肩を落とした。
「何故、狩ったお主が首を傾げてるのじゃ??」
「ここ食糧倉庫だからな……? ブロックになってる肉を見て何の肉だって分かる方がおかしいと思うんだが……」
見た目で判別できるのは、よほど特徴があるやつだけだ。
基本は肉にしか見えない。
「鑑定魔法を使えばよかろう。自分の知識にあるものならば詳細が見えるはずなのじゃ」
……そういえばそんな魔法あったな。
長いこと使っていないから、すっかり頭の棚から落ちてた。
魔力を目に流して、肉を鑑定する。
表面の情報じゃなく、魔力の層に刻まれた由来が浮かぶ。
「珍しい肉、千年に一度しか現れないとても珍しい魔物の肉……としか書いてないぞ」
鑑定結果が雑すぎる。
「食材としか認識しておらんのか……この肉はフリシモドラゴンじゃ。妾が世界を創るときに、食べる目的で創った魔物の一種じゃの」
「なるほど、霜降りドラゴンか」
名前の勢いがすごい。
少しずつ思い出す。外殻に覆われていて、可燃性のガスを撒き散らしながら襲ってくる――そんなやつだった気がする。
「誰にも食われんように外殻の硬さを、この世のものじゃ傷すらつけられないように硬く設定したはずなのじゃが……お主の素材倉庫に、砕かれたこいつの殻があってのう……?」
「確かに砕けるまで殴った記憶があるな。そいつのおかげで拳が強くなった」
硬いものを殴り続けたせいで、拳が強化された。
当時は、殴っても殴っても壊れなくて、意地だけで続けたんだったか。
滅多に現れないから貴重な素材だと思って、ここ最近は傷をつけないように狩ってたな。そういえば。
「こいつの肉は絶品のはずじゃ! まだ食ったことないがのう……」
言い方が悔しそうで、変に笑いそうになる。
「じゃあ食うか。袋に入れておいてくれ」
「うむ!」
即答で袋を開け、肉を大事そうに沈めた。袋の口が一瞬だけ膨らんで、何事もなかったみたいに閉じる。
クレバスが素直に手伝いを引き受けた理由が、だいぶ見えてきた。
俺がチョイスした方の肉も同じ袋に入れる。
歓迎会の主役はユキ。だが、肉の前では全員が主役みたいな顔をするのがうちだ。
食べるために創られたドラゴンか。
なんとも言えないが――ちゃんと食べてやるのが一番か。
「これだけあれば十分だろう」
「足りんじゃろ……?」
「百二十キロあるぞ。どんだけ食うんだ?」
シロでさえ食って一キロ……もっと食っている気がする。
――いや、あの体に何でそんなに入るんだ? 普通なら百五十グラムでも多いぐらいの年齢だろ。
考え始めると分からなくなる。
歓迎会の準備は、まだこれからだ。
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