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「進藤彰だけど、何か変かな?」
「変っていうか……凄く落ち着いてる。いつもだったら私が睨んだら慌てたようにそっぽを向くのに……。それに、お調子者の進藤君がペットが死んで泣いたとか信じられない」
「す、すず! それは進藤君に失礼だよ!」

 俺が何か言うよりも前に安心院さんが白雪さんに注意をした。
 そのせいで俺は出端を挫かれ何も言えなくなってしまう。

 ……とはいえ、少々合点がいった。
 もう五年も前の事だからあまり覚えていないが、確かに昔は悪友と一緒に馬鹿な事ばかりやっていた気がする。
 多分若気の至りだったのだろう。
 今となって馬鹿な事をやっていたと思うのは、歳を取って精神が成長したからだ。
 つまり、高校時代の俺と今の俺では精神年齢が違うため別人に見えてしまうという事か。

 これはいささか困った事態だ。
 周りに怪しまれないようにするには昔のようなお調子者に戻らないといけないのに、今の俺ではあの頃のように馬鹿な事は出来ない。
 下手にお調子者を演じようとすればとんでもない過ちを犯してしまうだろう。
 これ以上クラスから浮いてしまえば、俺が過去に戻った目的はまず間違いなく果たせなくなる。
 となれば、精神年齢的に成長したと思わせるようにしたほうがいい。

「大切な家族を失ってふと思ったんだよ。俺はこのままじゃ駄目なんじゃないかってね。だから今までとは違う自分になろうと思うんだ」

 なんだ、この自分に酔っている奴は。
 辻褄を合わせるならこう言うしかなかったのだが、こんな台詞をもし友人が言っていたら俺は少し距離を取ってしまいそうだ。
 当然クラスメイトたちも『うわぁ……』と言いたげな表情で俺の事を見ている。
 この歳にもなって高校生に引かれるとは中々心にくるものだ。

 しかし――。

「ふーん……まぁ、そういう理由ならいいと思う」

 意外にも、白雪さんには受けがよかった。
 そしてその後ろにいる安心院さんもコクコクと同意してくれている。
 安心院さんはなんでも受け入れてくれそうな性格をしているからそこまで驚かないけど、白雪さんの反応には正直驚いてしまう。
 俺の持つ彼女のイメージなら冷たい目をして吐き捨てるように悪口を言ってきそうなのに。

 ……いや、さすがにこれは言い過ぎか。
 勝手にイメージを悪くしてしまっているが、安心院さんと話をする時の白雪さんの表情はいつも優しげだった。
 男が安心院さんに近寄るのが嫌なだけであって、冷たい性格というわけではないのだろう。

「――何? ジッと見つめられると正直キモいんだけど」

 前言撤回。
 やはりこの子は冷たい性格をしているようだ。
 これが照れ隠しとかならまだかわいげがあるというものだが……。

「ごめんごめん、ちょっと考え事をしていた」

 不思議と白雪さんにはキモいと言われてもムカつかなかったため、俺は笑顔で流す事にする。
 多分彼女がこういう性格だって知っていたのと、やはり相手は年下だから取り合うのもかわいそうだと思ったからだろう。

 ……昨晩の少女にムカついたのはあの子が無礼すぎたからだ。
 常識が備わっている子なら俺も怒ったりはしなかった。

「むっ……」

 俺が昨晩の事を思い出していると、なぜか目の前にいる白雪さんがムスッと拗ねたような表情をする。

 意外とこの子は顔に出るんだな。
 案外そういうところは子供っぽくてかわいいかもしれない。

 俺がそんなふうに考えながら見つめていると、不満げに白雪さんが口を開いた。
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