全てを知った時、あなたはいったい誰を選びますか？

9

「なんだか余裕綽々しゃくしゃくでムカつく」
「えっと、どうして？」
「まるで私を相手にしてないみたいだから」

　この子はかまってちゃんか……。

　ふとそんなふうに考えてしまったが、多分プライド的に無視される事が許せないのだろう。
　じゃないと相手をしてもらえずに拗ねる白雪さんなど想像が出来ないからな。

「ごめん、そういうわけじゃないから安心して」
「安心って……別に相手をしてもらえないから拗ねてるわけじゃないし。さっき泣いてたくせに本当になんなのよ」

　どうしよう、白雪さんが怒ってそっぽを向いてしまった。
　普段大人っぽい彼女にしては意外な反応だが、怒らせてしまったとなると少々面倒だ。
　さて、どうするか……。

「――ふふ」

　白雪さんへの対処に頭を悩ませていると、安心院さんが右手を口に当てながら優しく微笑んだ。
　落ち着いていて大人びているからか、それとも上品な顔付きに、左目の下にある泣きぼくろで大人っぽく見えるからかはわからないが、ただの笑顔が随分と絵になる子だと思った。

　こんな子が一ヶ月後に自殺をするなんて……やっぱり信じられない。
　いったい彼女に何があったというのか……。

「あっ、えっと、ごめんね？　別に進藤君の事を笑ったわけじゃないよ？」

　どうやら俺がしかめっ面をしていたせいで安心院さんに勘違いさせてしまったようだ。
　別に笑われたから怒ったというわけではないので、すぐに訂正しておく。

「いや、考え事をしてただけなんだ。安心院さんはどうして笑ったの？」
「あっ、そうなんだね。私はね、こういうすずを見るのはなんだか新鮮だなって思ったの。いつも私意外とは素っ気ない感じで話してるのに、いつの間に進藤君と仲良くなったのかな？」

　うん、この子はいったいどういう勘違いをしているんだ。
　白雪さんの俺に接する態度は十分素っ気なかったと思うし、ましてや仲よさげに見える要素なんて何一つとしてなかった。
　当然これには白雪さんも抗議をする。

「ちょっと、心優！　なんで私と進藤君が仲良く見えるの！　全然そんなんじゃないからね！」
「そう？　でもすず、かまって欲しそうにしている時の顔をしていたよ？」
「～～～～～っ！　なんでそうなるのよ！　心優のばか！　もう知らない！」

　安心院さんの言葉を受けて白雪さんは顔を真っ赤にしながら怒って自分の席に戻ってしまった。
　冷静で落ち着いてる印象しかなかったのに、凄く意外な反応だ。
　普段の冷静沈着な彼女も白雪さんなんだろうけど、先程見せた一面もあるという事なのだろうか。
　そしてその一面は親しい関係である安心院さんにしか見せてはいない、という事な気がする。

「あっ……すず怒って戻っちゃったね」

　怒らせたのは自分のくせに笑顔で俺に言ってくるのはどうなのだろうか？
　とはいえ、これも仲がいい二人のスキンシップなのだろう。
　外野である俺がとやかく言う事ではない。

　それよりも気になるのはクラスメイトたちの視線だ。
　安心院さんは言わずもがな、実は白雪さんも学校内で凄く人気が高い。
　まるで名前を表現するかのように雪を連想させる白くて綺麗な肌や、誰もが見とれてしまうほど美しい銀色に輝く髪。
　そして素っ気なくしていても逆にそれが絵になるような大人びて整った顔付き。
　あまりにも美しい彼女の事を名前や見た目から『雪女』と表す生徒もいるくらいだ。

　白雪さんはそれだけでなく、安心院さんには優しい表情をするというギャップも持ち合わせている。
　そんな子が学校内で人気が出ないはずがなかった。
　だからその白雪さんと、白雪さんに魅力で勝るとも劣らない安心院さんの両名と話していた俺は、今現在クラスメイトたちから睨まれているのだろう。
　多分俺がクラスメイトたちの立場だったとしても羨ましがっている。

　……まぁ当時の俺は白雪さんが凄く怖くて苦手だったんだけどな。
　なんせ事あるごとに睨まれていたのだから、俺が苦手意識を持つのは当然な事だ。

　………………睨まれていた理由は俺がよく安心院さんの事を見つめていたり、クラスで馬鹿な事をしていたのが原因ではあるから、自業自得といえば自業自得なのかもしれないが……。

「――君たち、何してるの？　早く席に着かないと」

　安心院さんと一緒に白雪さんの事を見つめていると、担任教師である若い女の先生が来てしまった。
　それと同時にチャイムの音が学校内に響き渡る。
　どうやら俺たちは思っていたよりも話し込んでしまっていたようだ。

　俺たち二人は先生にこれ以上怒られないよう慌てて自分の席に戻る。
　その際に安心院さんが『怒られちゃったね』とかわいらしく微笑んでくれたため、俺は自分の胸が高鳴っている事を意識せずにはいられないのだった。