不要とされた私が、拾われた先で人生を立て直すまで

藤原遊

文字の大きさ
26 / 38

第26話 他家として

しおりを挟む
「では、用件をお話しいたします」

セシリアの言葉を受け、使者はようやく本題に入った。

「今年、各地で不作が続いております。
特に、精霊の加護が強いとされてきた地域ほど影響が大きく、
冬の終わりを前に、備蓄が底をついた家も出てきました」

淡々とした報告だった。
同情を誘うでもなく、誇張もない。

「ローディン家にも、幾つか相談が寄せられております」

そこで、わずかに言葉を切る。

「家として、すべてを断れる状況ではありません」

つまり、家の立場の話だ。

「……そこで」

使者は、慎重に言葉を選ぶ。

「家族として、
セシリア様にお力添えを願えないかと」

その言葉を聞いても、セシリアの表情は変わらなかった。
驚きも、怒りもない。ただ、静かに相手を見る。

「家族として、ですか」

「はい」

「助け合うのは、家の務めでもあります」

その理屈自体は、否定しない。
だからこそ、セシリアは小さく首を傾げた。

「不思議ですね」

声音は、柔らかい。

「もし家族として助けを求めるのであれば、
冬の社交に呼ばれるべきではありませんでしたか」

使者の目が、わずかに見開かれる。

「援助を願うなら、
家族の行事や場に席を用意するのが、普通でしょう」

責める調子ではない。
ただ、順序を並べているだけだ。

「ですが、私は不要とされました」

その事実を、感情を乗せずに口にする。

「ですから――」

セシリアは、そこで小さく笑った。

「ここは、家族の住む場所ではありません。
私の領地です」

笑みは、穏やかだった。

「今の私は、
ローディン家の一員としてではなく、
一つの領地を預かる他家の貴族として、ここにいます」

部屋の空気が、静かに切り替わる。

「家族としての助力は、お受けできません」

言葉は、はっきりしていた。

「ですが」

続けて、きちんと道を示す。

「他家の貴族としての要請であれば、話は別です。
条件、量、時期、対価。
それらを正式に整えた上で、お持ちください」

「その上で、この領地として出せるかどうかを判断します」

使者は、しばらく黙っていた。
やがて深く息を吸い、姿勢を正す。

「……承知いたしました」

「家族としてではなく、
正式な要請として整え、改めて伺います」

「ええ」

セシリアは頷いた。

「それが、正しい形です」

使者が部屋を出ると、張り詰めていた空気が、ゆっくりとほどけた。

ロイが一歩、近づく。

「……家族として、ですか」

「ええ」

セシリアは短く答えた。

「でも、もう違います」

ロイはそれ以上、何も言わなかった。
言葉にしなくても、理解は共有されている。

セシリアは窓の外を見る。
雪解け水が、屋根の端から静かに落ちていた。

冬は、終わる。
そして――
自分がどこに立っているのかも、もう揺れていない。

ここは、彼女の領地だ。
家族の延長ではなく、
一つの家として立つ場所。

セシリアは、静かに背筋を伸ばした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

処理中です...