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第28話 家の名で届いたもの
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それは、数日後に届いた。
雪解けが進み、道の状態がようやく人を通すようになった頃、屋敷に一通の書状が運び込まれる。封蝋に刻まれていたのは、見慣れた紋章だった。
「……ローディン家、ですね」
ロイが、静かに言う。
「ええ」
セシリアは頷いた。
家の名で来た。
だが、それだけで中身が決まるわけではない。
書状は、丁寧な形式で整えられていた。
感情に訴える言葉はない。
謝罪も、懇願も、書かれていない。
あるのは、状況説明と数字だけだった。
不作の地域。
春を迎えても回復の兆しが見えない領地。
不足している作物の種類と量。
求められる期限。
そして、対価。
「……取引ですね」
ロイが、書面を追いながら言う。
「ええ」
セシリアも同意する。
家族だから助けろ、とは書いていない。
だが、家の名で出されている以上、無関係でもない。
量は、決して小さくなかった。
しかし、無理を強いる数字でもない。
こちらの収穫量を、かなり正確に見積もっている。
「様子は、調べてますね」
「そうでしょう」
行商人の口は軽い。
噂は、もう広がっている。
「出せなくは、ありません」
ロイは正直に言った。
「ただし、出せば余裕は減ります」
セシリアは書面を閉じ、卓に置いた。
春は始まったばかりだ。
冷え込みが戻る可能性もある。
不作が連鎖することも、十分あり得る。
「……独りでは決めません」
セシリアは、そう言った。
「村の人たちの話を聞きましょう」
「はい」
ロイは、迷いなく頷く。
屋敷を出ると、畑ではすでに春の支度が進んでいた。
土を返し、去年のやり方を確認し、今年の畝を決めている。
ここで暮らす人たちは、
数字の意味を、肌で知っている。
「家の名で来た以上」
セシリアは、歩きながら言う。
「感情ではなく、領地として応えます」
助けるか、助けないか。
どこまでなら助けられるのか。
答えは、屋敷の中にはない。
セシリアは、春の土の匂いの中へ歩み出した。
雪解けが進み、道の状態がようやく人を通すようになった頃、屋敷に一通の書状が運び込まれる。封蝋に刻まれていたのは、見慣れた紋章だった。
「……ローディン家、ですね」
ロイが、静かに言う。
「ええ」
セシリアは頷いた。
家の名で来た。
だが、それだけで中身が決まるわけではない。
書状は、丁寧な形式で整えられていた。
感情に訴える言葉はない。
謝罪も、懇願も、書かれていない。
あるのは、状況説明と数字だけだった。
不作の地域。
春を迎えても回復の兆しが見えない領地。
不足している作物の種類と量。
求められる期限。
そして、対価。
「……取引ですね」
ロイが、書面を追いながら言う。
「ええ」
セシリアも同意する。
家族だから助けろ、とは書いていない。
だが、家の名で出されている以上、無関係でもない。
量は、決して小さくなかった。
しかし、無理を強いる数字でもない。
こちらの収穫量を、かなり正確に見積もっている。
「様子は、調べてますね」
「そうでしょう」
行商人の口は軽い。
噂は、もう広がっている。
「出せなくは、ありません」
ロイは正直に言った。
「ただし、出せば余裕は減ります」
セシリアは書面を閉じ、卓に置いた。
春は始まったばかりだ。
冷え込みが戻る可能性もある。
不作が連鎖することも、十分あり得る。
「……独りでは決めません」
セシリアは、そう言った。
「村の人たちの話を聞きましょう」
「はい」
ロイは、迷いなく頷く。
屋敷を出ると、畑ではすでに春の支度が進んでいた。
土を返し、去年のやり方を確認し、今年の畝を決めている。
ここで暮らす人たちは、
数字の意味を、肌で知っている。
「家の名で来た以上」
セシリアは、歩きながら言う。
「感情ではなく、領地として応えます」
助けるか、助けないか。
どこまでなら助けられるのか。
答えは、屋敷の中にはない。
セシリアは、春の土の匂いの中へ歩み出した。
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