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第35話 影響の外側
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夕方、屋敷に戻ると、ロイが台所で湯を沸かしていた。
火の具合を見ながら、鍋の中を覗き、少しだけ魔力を流す。
温度を整えるだけの、簡単な魔法だ。
「お疲れさまです」
「ええ」
セシリアは外套を外し、椅子に腰を下ろした。
しばらく、湯の沸く音だけが続く。
その沈黙を破ったのは、ロイの方だった。
「……外は」
一度言葉を切り、続ける。
「飢饉なんですか?」
セシリアは、一瞬だけ考えてから答えた。
「そうね。
精霊の機嫌を損ねた、らしいわ」
ロイは、少し驚いた顔をした。
「……らしい、ですか」
「詳しい理由は分からないけれど」
セシリアは、淡々と言う。
「精霊に頼りきった土地ほど、
影響が大きいみたい」
ロイは、湯を器に注ぎながら、静かに頷いた。
「だから……」
言葉を選びながら続ける。
「この村には、あまり影響がないんですね」
「ええ」
「精霊がいない前提で、
ずっとやってきましたから」
湯気の立つ器を、二つ並べる。
「精霊がいなくなった、ではなく、
最初から、いなかった」
ロイは、その言葉を噛みしめるように黙り込んだ。
昼間のマルクの様子が、ふと頭をよぎる。
値段。
道。
動かせない荷。
外は、少しずつ、焦り始めている。
「……不思議ですね」
ロイが、ぽつりと言った。
「ここは、いつも通りなのに」
「そうね」
セシリアは器を手に取る。
「焦っている人ほど、
余計なものが見えなくなるのかもしれないわ」
ロイは、少し考えてから言った。
「ここは、
見える範囲でやることをやってるだけ、ですから」
「ええ」
それで十分だと、セシリアは思う。
窓の外では、村の灯りがぽつぽつとともり始めていた。
畑も、水路も、今日と同じ場所にある。
変わっていない。
それが、今は何より強かった。
火の具合を見ながら、鍋の中を覗き、少しだけ魔力を流す。
温度を整えるだけの、簡単な魔法だ。
「お疲れさまです」
「ええ」
セシリアは外套を外し、椅子に腰を下ろした。
しばらく、湯の沸く音だけが続く。
その沈黙を破ったのは、ロイの方だった。
「……外は」
一度言葉を切り、続ける。
「飢饉なんですか?」
セシリアは、一瞬だけ考えてから答えた。
「そうね。
精霊の機嫌を損ねた、らしいわ」
ロイは、少し驚いた顔をした。
「……らしい、ですか」
「詳しい理由は分からないけれど」
セシリアは、淡々と言う。
「精霊に頼りきった土地ほど、
影響が大きいみたい」
ロイは、湯を器に注ぎながら、静かに頷いた。
「だから……」
言葉を選びながら続ける。
「この村には、あまり影響がないんですね」
「ええ」
「精霊がいない前提で、
ずっとやってきましたから」
湯気の立つ器を、二つ並べる。
「精霊がいなくなった、ではなく、
最初から、いなかった」
ロイは、その言葉を噛みしめるように黙り込んだ。
昼間のマルクの様子が、ふと頭をよぎる。
値段。
道。
動かせない荷。
外は、少しずつ、焦り始めている。
「……不思議ですね」
ロイが、ぽつりと言った。
「ここは、いつも通りなのに」
「そうね」
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「焦っている人ほど、
余計なものが見えなくなるのかもしれないわ」
ロイは、少し考えてから言った。
「ここは、
見える範囲でやることをやってるだけ、ですから」
「ええ」
それで十分だと、セシリアは思う。
窓の外では、村の灯りがぽつぽつとともり始めていた。
畑も、水路も、今日と同じ場所にある。
変わっていない。
それが、今は何より強かった。
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