虐げられ王女と忠誠の騎士〜運命を結ぶ婚約の物語〜

後日談:新しい辺境伯

辺境伯領の中心にある城郭。その広場には朝から多くの領民が集まっていた。今日は新しい領主が到着する日。辺境を治めるという大役を担う人物はどんな人なのか――その期待と不安が入り混じり、広場に緊張感が漂っていた。

「リオネル伯爵って、英雄なんだろう？隣国との戦争で大きな功績を上げたって聞いたけど。」
鍛冶屋の男が隣にいる農夫に声をかけた。

「ああ、聞いたことがある。だが、そんな立派な人が俺たちの領主になってくれるなんて、信じられないな。」
農夫は興奮気味に答えた。

「それだけじゃないさ。」
近くで耳を立てていた商人が口を挟んだ。
「リオネル伯爵の奥方になるのは、元王女様だって話だ。」

その言葉に、一同が驚きの声を上げた。
「元王女様？そんな高貴な方が、ここに……？」

「いやいや、王宮からこんな辺境に来るなんて、本当の話か？」
別の男が首を傾げる。

しかし、その議論も馬蹄の音が近づくにつれて自然と静まっていった。城の門が開かれ、見事に飾られた馬車が広場に入ってくる。馬車の先導には、立派な軍装を身に纏った騎士たちが並んでおり、その堂々たる姿に領民たちは思わず息を呑んだ。

馬車が中央で止まり、まずは騎士の一人が降り立った。その男は、背が高く精悍な顔立ちで、鋭い眼光が特徴的だった。広場を見渡す彼の姿は威厳に満ちており、一目でこの地を守る強い意志を感じさせた。

「これが、リオネル伯爵……。」
広場にいた誰もが、その存在感に圧倒される。

続いて馬車から降り立ったのは、薄い青いドレスを纏った女性だった。彼女が現れると、広場が一瞬静まり返った。その美しさは圧倒的だった。彼女の「光の瞳」は、角度によって色が変わるように輝き、領民たちにとって初めて見る神秘的なものであった。

「女神様だ……。」
誰かが小さく呟いた。

「まさか、本当に元王女様が……。」
「こんな美しい方が、私たちの領主に？」
人々は次々と感嘆の声を漏らした。

ルミナリエはその声に気付いているのか、優雅に微笑みながら広場の人々に向かって一礼した。その仕草には気品がありながらも、どこか親しみやすさが感じられる。彼女が恐れることなく自ら領民に歩み寄る姿に、人々の間に少しずつ安心感が広がっていった。

「皆様。」
ヴィクターが低く響く声で語りかける。
「私は新たにこの地を治めることになったヴィクター・リオネルです。そしてこちらは、私の妻であり、この地の新しいお守りでもあるルミナリエです。」

その言葉に、ルミナリエが柔らかく微笑みながら頭を下げた。
「どうか、よろしくお願いいたします。」

その言葉に、人々は一斉に頭を下げた。彼女の存在がどれだけ尊いものか、彼らには十分すぎるほど伝わったのだ。

「すごい……。このお二人なら、この地はきっと守られる。」
農夫が胸を熱くしながら呟いた。

「俺たちも、この領地を盛り上げるために頑張らなきゃな。」
鍛冶屋が拳を握りしめた。

新しい領主とその妻を迎えた広場には、希望の光が満ちていた。彼らのもたらす未来に胸を高鳴らせながら、人々は初めての挨拶に歓声を送った。