虐げられ王女と忠誠の騎士〜運命を結ぶ婚約の物語〜

後日談:ミレイアの見る日常

ミレイアは、辺境伯領の城の庭でルミナリエを見守っていた。
朝の澄んだ空気の中で、ルミナリエは庭に新しい花を植える計画を立てている。彼女の瞳には希望が満ちていて、かつて王宮にいた頃の孤独や悲しみは微塵も感じられない。

「ミレイア、どう思いますか？」
ルミナリエが振り返り、小さなスケッチを見せてくる。そこには色とりどりの花々が描かれていた。

「とても素敵だと思います。特にこの花壇のデザインは、きっと庭全体に調和を与えるでしょう。」
ミレイアは微笑みながら答えた。

「そうですか？ それなら、この案で進めましょう。」
ルミナリエは嬉しそうに頷き、再び図面に視線を戻す。その横顔はどこか柔らかく、穏やかだ。

ミレイアはその様子を見つめながら、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
「ルミナリエ様、本当に幸せそう……。」

かつて王宮で孤独に耐えながらも、自分を支えてくれた彼女。その彼女が今、こうして未来に目を輝かせている。それを見られることが、ミレイアにとって何よりの喜びだった。

視線を感じて振り返ると、少し離れた場所にヴィクターの姿があった。
彼は庭の入口に立ち、静かにルミナリエを見守っている。その目には深い愛情がありありと浮かび、その場で語らなくても彼の気持ちが伝わってくる。

ミレイアはそっと微笑んだ。
「ヴィクター殿……本当に、ルミナリエ様のことを大切に思っていらっしゃるのですね。」

ヴィクターは彼女の言葉に気付いたのか、少し目を細めて微笑み返した。そして、ゆっくりとルミナリエの元へ歩み寄る。

「ルミナリエ様、そろそろ休憩をされてはいかがですか？」
その声にルミナリエが顔を上げた。

「あら、ヴィクター殿。大丈夫です、もう少しで完成しますから。」
そう言いながらも、ルミナリエの頬には微かに赤みが差している。彼が心配して声をかけてくれることが、嬉しくて仕方ないのだろう。

「無理は禁物ですよ。」
ヴィクターは微笑みながら、彼女の隣に腰を下ろした。そして、そっと彼女の手を取る。その動作は自然でありながら、どこか優しさに満ちている。

「少し休んでから続きをなさってください。」
彼の低い声には、彼女を大切に思う気持ちが滲んでいる。

ルミナリエは少し困ったように笑いながらも、彼の手を握り返した。
「分かりました、少しだけ休憩しますね。」

その光景を見ていたミレイアの胸に、安堵の感情が広がった。
「ルミナリエ様があの方と出会えて、本当に良かった……。」

ヴィクターの行動や表情の端々に現れる、溢れんばかりの愛情。かつて孤独を抱えていたルミナリエが、今ではこんなにも愛され、大切にされている。それを実感するたび、ミレイアは幸福感に包まれる。

「ミレイア。」
ふと、ルミナリエが彼女に声をかける。
「この庭が完成したら、あなたにも真っ先に見てほしいわ。」

「もちろんです、ルミナリエ様。」
ミレイアは笑顔で答えた。
「その日が来るのを、心から楽しみにしています。」

その日の夕方、ミレイアは部屋に戻ると、窓から庭を眺めた。
そこでは、ルミナリエとヴィクターが肩を並べて話している。二人の間には言葉では表せないほどの絆が感じられた。

ミレイアはそっと目を閉じ、深く息を吐いた。
「ルミナリエ様がこれほど幸せそうなら、私にはもう何も心配はいらない。」

彼女の顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。今後も二人のそばで支え続けることが、自分にできる精一杯の恩返しだと、ミレイアは心の中で誓った。