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第四章 辺境の戦乱
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戦はすでに三日目に入っていた。
城壁の外では、魔物の群れが波のように押し寄せては討たれ、また押し寄せる。
斬り伏せても斬り伏せても尽きることなく、地は血と灰で染まっていた。
城内では、リシェル様が結界を維持し続けている。
青白い光は今も都市を包んでいたが、その光は日を追うごとに揺らぎを増していた。
「――リシェル」
辺境伯閣下が娘に声をかけ、彼女から首飾りを受け取ろうとする。
代わりに結界を支え、リシェル様に一刻の休息を与えるためだ。
だが、その閣下の顔にも疲労が色濃い。
彼もまた、限界に近いのだ。
「斥候から報告です!」
駆け込んだ兵の声に、軍議の場が緊張に包まれる。
「今夜……親玉が姿を現すとの見込み!」
空気が張り詰めた。
三日の間、都市に魔法を降らせ続けた魔物の主。
それがついに、自ら姿を現すというのだ。
――今夜。
すなわち、決戦の刻。
だが、辺境伯もリシェル様も、このままでは持たない。
親玉と相対する前に、命を削り尽くしてしまう。
「ならば――俺が代わります」
自分でも驚くほど、声は静かだった。
軍議の場にいた兵たちが、一斉にこちらを振り返る。
誰もが理解したのだ。
傍系の務め。
直系の身代わりとなり、命を懸けて結界を維持する役目。
「カイ殿……」
「そういうこと、なのか……」
ざわめきが広がる。
誰も止めない。
それは辺境伯家に仕える者たちにとって、当然の選択だからだ。
「やめなさい!」
鋭い声が響いた。
リシェル様だった。
疲弊した身体を押し起こし、私を睨みつける。
「それは、あなたの役目ではない!」
胸の奥が揺れた。
だが、私は口元にかすかな笑みを浮かべる。
「任せてください、リシェル様」
握りしめた剣の柄のように、声は揺らがなかった。
俺には覚悟がある。
魔力が尽きれば生命力を重ねてでも――彼女の影として、都市を守り抜く覚悟が。
その瞬間、首飾りに伸ばした手に、重みが加わった。
リシェル様の手だった。
必死に、震えるほどの力で、私を止めようとしていた。
城壁の外では、魔物の群れが波のように押し寄せては討たれ、また押し寄せる。
斬り伏せても斬り伏せても尽きることなく、地は血と灰で染まっていた。
城内では、リシェル様が結界を維持し続けている。
青白い光は今も都市を包んでいたが、その光は日を追うごとに揺らぎを増していた。
「――リシェル」
辺境伯閣下が娘に声をかけ、彼女から首飾りを受け取ろうとする。
代わりに結界を支え、リシェル様に一刻の休息を与えるためだ。
だが、その閣下の顔にも疲労が色濃い。
彼もまた、限界に近いのだ。
「斥候から報告です!」
駆け込んだ兵の声に、軍議の場が緊張に包まれる。
「今夜……親玉が姿を現すとの見込み!」
空気が張り詰めた。
三日の間、都市に魔法を降らせ続けた魔物の主。
それがついに、自ら姿を現すというのだ。
――今夜。
すなわち、決戦の刻。
だが、辺境伯もリシェル様も、このままでは持たない。
親玉と相対する前に、命を削り尽くしてしまう。
「ならば――俺が代わります」
自分でも驚くほど、声は静かだった。
軍議の場にいた兵たちが、一斉にこちらを振り返る。
誰もが理解したのだ。
傍系の務め。
直系の身代わりとなり、命を懸けて結界を維持する役目。
「カイ殿……」
「そういうこと、なのか……」
ざわめきが広がる。
誰も止めない。
それは辺境伯家に仕える者たちにとって、当然の選択だからだ。
「やめなさい!」
鋭い声が響いた。
リシェル様だった。
疲弊した身体を押し起こし、私を睨みつける。
「それは、あなたの役目ではない!」
胸の奥が揺れた。
だが、私は口元にかすかな笑みを浮かべる。
「任せてください、リシェル様」
握りしめた剣の柄のように、声は揺らがなかった。
俺には覚悟がある。
魔力が尽きれば生命力を重ねてでも――彼女の影として、都市を守り抜く覚悟が。
その瞬間、首飾りに伸ばした手に、重みが加わった。
リシェル様の手だった。
必死に、震えるほどの力で、私を止めようとしていた。
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