冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます

藤原遊

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第六章 再開

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スタンピードの収束から一ヶ月が過ぎた。
領内はまだ傷痕を抱えながらも、復旧の歩みを進めている。
その中で、父が領内会議で下した「私の婚約者はカイ」という決定は、兵も領民も異論なく受け入れた。
彼が命懸けで領地を守ったことを、誰もが知っているからだ。

だが、まだ王の承認は下りていない。
それが、私の心を不安定にさせていた。

そして今日。王都からの通達が届いた。
「公爵家三男、アルノルト=ディアス卿を調査隊として辺境に派遣する」と。

父が文を読み上げたとき、室内の空気が張りつめる。
アルノルト卿はまもなく新侯爵として領地を賜る予定。
その臣下として、カイが引き抜かれる可能性――誰もが同じ想像に至った。

「……王都め。見え透いた策を弄してくる」
父の声は低く、苛立ちを隠していなかった。

胸が冷える。
もしカイが奪われれば、私は……。

その思いが込み上げてきて、心臓を握り潰されるように苦しい。
けれど、すぐに理性が囁く。

――それがカイの望みだったら?
王都の侯爵家の臣下となれば、栄誉も、自由も、安定した未来もある。
婚約は父が決めたこと。彼が心から同意したわけではない。
もしかしたら、彼の人生を縛ったのは私で……。

「リシェル」
父に名を呼ばれてはっとする。

視線を横に向けると、カイがいた。
いつもと変わらぬように私の半歩後ろに控え、真剣な眼差しで場を見つめている。
その姿が、胸を締めつけるほど誇らしく、そして痛ましい。

私は感情に揺れる一方で、跡継ぎとしての計算も始めていた。
どうすればカイを守れるか。
婚約を既成事実として王に押し通すのか。
あるいは辺境伯領に新たな大義を築き、王都の思惑を跳ね除けるのか。

個人としての私と、辺境伯令嬢としての私が胸の内でせめぎ合う。
それでもただひとつだけ確かなのは――。

カイを失うことだけは、どうしても耐えられないということだった。
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