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最終章 婚約発表前夜と未来
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魔族討伐から、一週間。
辺境伯領にようやく静けさが戻ったというのに、私の心だけは騒がしいままだった。
――あの戦場で、カイが言った言葉。
「俺の人生は、最初からあなたのためにある」
その告白を、私はまだ返せていない。
返せる自信がなかった。
あのときは必死で、血の匂いと轟音に包まれ、ただ生きてくれてよかったと泣きそうになって……それでも、彼の言葉を受け止める勇気はなかった。
だが現実は待ってはくれない。
王都から届いた王家の書簡には、私とカイの婚約を正式に承認する旨が記されていた。
明日には領内に発表される。
もう後戻りはできない。
なのに私は――まだ彼に、心からの答えを伝えていない。
気づけば夜更けの廊下を歩き、私はカイの部屋の前に立っていた。私とカイの部屋は廊下を介さなくても行き来できる。
胸が強く脈打ち、手が震える。
躊躇った末、扉を叩く。
「……リシェル様?」
驚いた声とともに、カイが姿を現した。
眠気の残る瞳で私を見つめる彼に、胸が締めつけられる。
「カイ……話があります」
そう切り出せば、カイは真剣な瞳で私を真っ直ぐ見つめた。いつもは頼もしいその瞳が、今はどうしようもなく怖かった。
「明日、婚約が発表されます。でも……今なら、まだ取り消せます」
声が震えていた。
自分でもどうしようもなかった。
「あなたを縛ることになるのなら、あなたの人生の唯一の選択肢を、奪ってしまうのなら……」
言葉にした瞬間、胸の奥が痛んだ。
怖かった。
自分のせいで彼の未来を閉ざすのではないかと。
けれど彼は、真っ直ぐな瞳で一歩近づいてきた。
その眼差しに、心臓が大きく跳ねる。
「違います」
低く、確かな声。
「縛られるんじゃない。俺が――望んで、リシェル様と共にいることを選んだのです」
その言葉が胸に突き刺さり、呼吸が乱れる。
けれどまだ、恐れが消えなかった。
私の表情を見透かしたのか、彼はさらに踏み込んでくる。
「俺の心は、何度でも言えます。剣を振るうのも、魔法を鍛えるのも、命を懸けるのも――全部、あなたのためです」
距離を詰め、私の手をそっと包む。
その熱が伝わり、心臓がまた跳ねた。
「リシェル様、何をすれば、信じてもらえますか?どうすれば、俺が本気だとわかってもらえますか?」
必死な問いかけに、堪えていたものが決壊した。
視界が滲み、胸の奥が熱くなる。
――あぁ、こんなにも真剣に。
私のためだけにここまで言ってくれる人がいる。
「……カイ」
声が震え、涙がこぼれ落ちた。
それでも、逃げずに彼を見つめる。
彼の瞳が揺れた。
その蒼に吸い込まれながら、私はようやく言葉を紡ぐ。
「私も……カイが好き」
その瞬間、彼の腕が私を強く抱き締めた。
甲冑も外套もない、生の温もりが全身を包む。
胸の奥に広がる熱は、これまでの罪悪感や恐れを溶かしていく。
涙が止まらなかった。
でも今度は、幸せで泣いているのだと自分でわかった。
「あなたが居ない未来は考えられなかった。ずっと前から」
カイが腕の中で小さく息を呑むのが伝わった。
「……夢みたいです。リシェル様にそう言って貰えるなんて」
――ようやく、互いの想いが重なった。
同志としてではなく、婚約者として。
そして、恋人として。
明日、正式に発表される。
けれどその未来はもう、確かにここにある。
辺境伯領にようやく静けさが戻ったというのに、私の心だけは騒がしいままだった。
――あの戦場で、カイが言った言葉。
「俺の人生は、最初からあなたのためにある」
その告白を、私はまだ返せていない。
返せる自信がなかった。
あのときは必死で、血の匂いと轟音に包まれ、ただ生きてくれてよかったと泣きそうになって……それでも、彼の言葉を受け止める勇気はなかった。
だが現実は待ってはくれない。
王都から届いた王家の書簡には、私とカイの婚約を正式に承認する旨が記されていた。
明日には領内に発表される。
もう後戻りはできない。
なのに私は――まだ彼に、心からの答えを伝えていない。
気づけば夜更けの廊下を歩き、私はカイの部屋の前に立っていた。私とカイの部屋は廊下を介さなくても行き来できる。
胸が強く脈打ち、手が震える。
躊躇った末、扉を叩く。
「……リシェル様?」
驚いた声とともに、カイが姿を現した。
眠気の残る瞳で私を見つめる彼に、胸が締めつけられる。
「カイ……話があります」
そう切り出せば、カイは真剣な瞳で私を真っ直ぐ見つめた。いつもは頼もしいその瞳が、今はどうしようもなく怖かった。
「明日、婚約が発表されます。でも……今なら、まだ取り消せます」
声が震えていた。
自分でもどうしようもなかった。
「あなたを縛ることになるのなら、あなたの人生の唯一の選択肢を、奪ってしまうのなら……」
言葉にした瞬間、胸の奥が痛んだ。
怖かった。
自分のせいで彼の未来を閉ざすのではないかと。
けれど彼は、真っ直ぐな瞳で一歩近づいてきた。
その眼差しに、心臓が大きく跳ねる。
「違います」
低く、確かな声。
「縛られるんじゃない。俺が――望んで、リシェル様と共にいることを選んだのです」
その言葉が胸に突き刺さり、呼吸が乱れる。
けれどまだ、恐れが消えなかった。
私の表情を見透かしたのか、彼はさらに踏み込んでくる。
「俺の心は、何度でも言えます。剣を振るうのも、魔法を鍛えるのも、命を懸けるのも――全部、あなたのためです」
距離を詰め、私の手をそっと包む。
その熱が伝わり、心臓がまた跳ねた。
「リシェル様、何をすれば、信じてもらえますか?どうすれば、俺が本気だとわかってもらえますか?」
必死な問いかけに、堪えていたものが決壊した。
視界が滲み、胸の奥が熱くなる。
――あぁ、こんなにも真剣に。
私のためだけにここまで言ってくれる人がいる。
「……カイ」
声が震え、涙がこぼれ落ちた。
それでも、逃げずに彼を見つめる。
彼の瞳が揺れた。
その蒼に吸い込まれながら、私はようやく言葉を紡ぐ。
「私も……カイが好き」
その瞬間、彼の腕が私を強く抱き締めた。
甲冑も外套もない、生の温もりが全身を包む。
胸の奥に広がる熱は、これまでの罪悪感や恐れを溶かしていく。
涙が止まらなかった。
でも今度は、幸せで泣いているのだと自分でわかった。
「あなたが居ない未来は考えられなかった。ずっと前から」
カイが腕の中で小さく息を呑むのが伝わった。
「……夢みたいです。リシェル様にそう言って貰えるなんて」
――ようやく、互いの想いが重なった。
同志としてではなく、婚約者として。
そして、恋人として。
明日、正式に発表される。
けれどその未来はもう、確かにここにある。
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