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第3話「新しい聖女」
聖堂は、前日よりも整っていた。
動揺は完全には消えていないが、式次第は滞りなく進められている。貴族たちは静かに席につき、聖職者は厳かな声で祝詞を唱える。誰も立ち上がらず、決まったことに、異を唱える者はいなかった。
祭壇の前に立つのはカミラだ。
白い法衣はまだ新しいが、その背筋は伸びている。緊張はあるはずなのに、逃げ出す気配はない。隣に立つセドリックが、ほんのわずかに視線を落とす。
「大丈夫だ」
声は低く、周囲には届かない。
カミラは小さくうなずいた。
宮廷に出入りするようになった頃から、彼は彼女の祈りを見てきた。夜の礼拝堂で灯りが落ちたあとも、彼女がひとり残って祈り続ける姿を。あのときから、彼は疑わなかった。
「始めよ」
合図が落ちる。
カミラは両手を胸元で重ね、目を閉じた。
「女神よ。この国を照らす光を、どうか……」
声は澄んでいる。
震えはない。
空気が静まり返る。
次の瞬間、祭壇の上に柔らかな光が満ちた。
小さなどよめきが起こる。
聖職者が安堵したように息をつく。
光は確かに現れている。
奇跡と呼ぶにふさわしい輝きだった。
セドリックが一歩前に出る。
「見ただろう」
その声音には、迷いがない。
「女神は応えている」
拍手が起こる。
遠慮がちだった音が、次第に広がる。
その一方で、聖堂の後方では、結界の記録盤に淡い線が走っていた。
普段はなだらかな曲線を描くそれが、わずかに揺れる。
ほんの一瞬。
見間違いかと思うほどの歪み。
盤の前に立つ男が、目を細めてもう一度確かめる。
波形はすぐに整い、穏やかな弧を描き直す。
……合っていない。
言葉は喉の奥で止まる。
光は満ち、祈りは成功している。
否定する理由はない。
「女神が試しているのだ」
セドリックの声が重なる。
「最初から完全であるはずがない」
カミラは息を整えながら、ゆっくりと目を開く。
頬はわずかに青ざめているが、視線は揺れていない。
彼を見て、微笑む。
迷いはなかった。
鐘が鳴る。
儀式の終わりを告げる音が聖堂に響いた瞬間、記録盤の光がひときわ大きく跳ねた。
一度だけ。
すぐに元の形へと戻る。
それでも、揺れは残った。
誰も気づかないほどの揺れ。
だが、それは確かにあった。
拍手が続く。
祝福の声が重なる。
その中で、揺らぎだけが静かに残った。
動揺は完全には消えていないが、式次第は滞りなく進められている。貴族たちは静かに席につき、聖職者は厳かな声で祝詞を唱える。誰も立ち上がらず、決まったことに、異を唱える者はいなかった。
祭壇の前に立つのはカミラだ。
白い法衣はまだ新しいが、その背筋は伸びている。緊張はあるはずなのに、逃げ出す気配はない。隣に立つセドリックが、ほんのわずかに視線を落とす。
「大丈夫だ」
声は低く、周囲には届かない。
カミラは小さくうなずいた。
宮廷に出入りするようになった頃から、彼は彼女の祈りを見てきた。夜の礼拝堂で灯りが落ちたあとも、彼女がひとり残って祈り続ける姿を。あのときから、彼は疑わなかった。
「始めよ」
合図が落ちる。
カミラは両手を胸元で重ね、目を閉じた。
「女神よ。この国を照らす光を、どうか……」
声は澄んでいる。
震えはない。
空気が静まり返る。
次の瞬間、祭壇の上に柔らかな光が満ちた。
小さなどよめきが起こる。
聖職者が安堵したように息をつく。
光は確かに現れている。
奇跡と呼ぶにふさわしい輝きだった。
セドリックが一歩前に出る。
「見ただろう」
その声音には、迷いがない。
「女神は応えている」
拍手が起こる。
遠慮がちだった音が、次第に広がる。
その一方で、聖堂の後方では、結界の記録盤に淡い線が走っていた。
普段はなだらかな曲線を描くそれが、わずかに揺れる。
ほんの一瞬。
見間違いかと思うほどの歪み。
盤の前に立つ男が、目を細めてもう一度確かめる。
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……合っていない。
言葉は喉の奥で止まる。
光は満ち、祈りは成功している。
否定する理由はない。
「女神が試しているのだ」
セドリックの声が重なる。
「最初から完全であるはずがない」
カミラは息を整えながら、ゆっくりと目を開く。
頬はわずかに青ざめているが、視線は揺れていない。
彼を見て、微笑む。
迷いはなかった。
鐘が鳴る。
儀式の終わりを告げる音が聖堂に響いた瞬間、記録盤の光がひときわ大きく跳ねた。
一度だけ。
すぐに元の形へと戻る。
それでも、揺れは残った。
誰も気づかないほどの揺れ。
だが、それは確かにあった。
拍手が続く。
祝福の声が重なる。
その中で、揺らぎだけが静かに残った。
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