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雨脚が強まる中、狩猟小屋の扉が静かに開いた。
「殿下、ご無事で何よりです」
濡れた外套のまま、ルネと私が到着した。
捕縛された黒子たちは既に縄で縛られ、奥に控えさせられている。
王太子殿下が驚いたように声を上げた。
「リディア! 王宮に残るべきだったのに、危険を冒してまで……」
私は少し微笑み、控えめに頭を下げた。
「心配でしたので……殿下のお姿をこの目で確認したく。
なお、サクラ様の護衛には教会から聖騎士を呼んでおります。王宮の安全は確保しておりますので、ご安心ください」
王太子殿下は安堵の表情を浮かべた。
「ありがとう、リディア。本当に……助かるよ」
そのやりとりをそっと見守っていたアレクシス殿下と視線が交わる。
殿下はわずかに頷いた。
これが合図だった。
私はすぐに状況の整理に移る。
「殿下、状況をご説明ください」
「刺客は六名。捕縛済み。ただしまだ背後関係は掴めていない」
アレクシス殿下は淡々と報告を続けた。
「刺客の動きから察するに、標的はユーリ殿下で間違いありませんわね?」
私の問いかけに、ユーリ殿下は穏やかに頷く。
「ええ。戦いぶりからも、その意図は明白でした」
「目的は外交妨害、もしくはアレスト王国と我が国の関係悪化を誘う意図が考えられます。背後は未特定ながら、召喚技術絡みの派閥が動いている可能性も排除できません」
私とアレクシス殿下は短く情報を重ね、整理を進めていく。
場の空気は張り詰めたまま、だが無駄はなかった。
――その様子を、ユーリ殿下は静かに観察していた。
(……実に見事な采配だ。こうして王国は秩序を保っているのか)
ユーリの眼差しは、徐々にリディアの方へと向き始める。
だが、その変化にリディア自身はまだ気付いていない。
気付いているのは――アレクシス殿下だけだった。
殿下は内心で僅かに眉を寄せる。
(……ユーリ殿下。どうやら、リディアに興味を持ち始めたな)
けれど表情はいつも通り、冷静で柔らかだった。
「リディア、現時点では整理が優先だ。詮議は後日に回そう」
「はい、殿下」
私はすぐさま捕縛者の調査や証拠整理に着手した。
雨音が、静かに盤上の鼓動を打ち続けていた。
*
アレクシス殿下は捕縛した刺客たちを一瞥し、静かに口を開いた。
「……今回の襲撃は、小規模かつ即席の手配と見てよいだろう」
私も頷く。
「ええ。これ以上の増援が控えている様子はなく、動員規模から見ても第二波は考えにくいですわ」
「となれば――現場に留まる必要は薄い、か」
アレクシス殿下が判断を口にすると、控えていたルネが即座に進み出た。
「殿下、周囲の警戒を終えました。今のところ追加の動きはありません。加えて、雨脚も落ち着き始めております」
私はそっと空を仰いだ。確かに、先ほどよりも雨は細かくなっている。
「……では、撤収いたしましょう。王都へ戻り、改めて捕縛者を詮議にかけます」
アレクシス殿下が静かに結論を下した。
王太子殿下は少し安堵した様子で頷く。
「うん……皆、無事でよかった。本当に、ありがとう。リディアも、危険な中で来てくれて……」
「王太子殿下のお姿をこの目で確認できただけで、十分でございますわ」
私は微笑みを返すと、馬に手を添えた。
静かな撤収準備が進む中――
盤上は小休止に入っただけに過ぎないことを、私も殿下も理解していた。
「殿下、ご無事で何よりです」
濡れた外套のまま、ルネと私が到着した。
捕縛された黒子たちは既に縄で縛られ、奥に控えさせられている。
王太子殿下が驚いたように声を上げた。
「リディア! 王宮に残るべきだったのに、危険を冒してまで……」
私は少し微笑み、控えめに頭を下げた。
「心配でしたので……殿下のお姿をこの目で確認したく。
なお、サクラ様の護衛には教会から聖騎士を呼んでおります。王宮の安全は確保しておりますので、ご安心ください」
王太子殿下は安堵の表情を浮かべた。
「ありがとう、リディア。本当に……助かるよ」
そのやりとりをそっと見守っていたアレクシス殿下と視線が交わる。
殿下はわずかに頷いた。
これが合図だった。
私はすぐに状況の整理に移る。
「殿下、状況をご説明ください」
「刺客は六名。捕縛済み。ただしまだ背後関係は掴めていない」
アレクシス殿下は淡々と報告を続けた。
「刺客の動きから察するに、標的はユーリ殿下で間違いありませんわね?」
私の問いかけに、ユーリ殿下は穏やかに頷く。
「ええ。戦いぶりからも、その意図は明白でした」
「目的は外交妨害、もしくはアレスト王国と我が国の関係悪化を誘う意図が考えられます。背後は未特定ながら、召喚技術絡みの派閥が動いている可能性も排除できません」
私とアレクシス殿下は短く情報を重ね、整理を進めていく。
場の空気は張り詰めたまま、だが無駄はなかった。
――その様子を、ユーリ殿下は静かに観察していた。
(……実に見事な采配だ。こうして王国は秩序を保っているのか)
ユーリの眼差しは、徐々にリディアの方へと向き始める。
だが、その変化にリディア自身はまだ気付いていない。
気付いているのは――アレクシス殿下だけだった。
殿下は内心で僅かに眉を寄せる。
(……ユーリ殿下。どうやら、リディアに興味を持ち始めたな)
けれど表情はいつも通り、冷静で柔らかだった。
「リディア、現時点では整理が優先だ。詮議は後日に回そう」
「はい、殿下」
私はすぐさま捕縛者の調査や証拠整理に着手した。
雨音が、静かに盤上の鼓動を打ち続けていた。
*
アレクシス殿下は捕縛した刺客たちを一瞥し、静かに口を開いた。
「……今回の襲撃は、小規模かつ即席の手配と見てよいだろう」
私も頷く。
「ええ。これ以上の増援が控えている様子はなく、動員規模から見ても第二波は考えにくいですわ」
「となれば――現場に留まる必要は薄い、か」
アレクシス殿下が判断を口にすると、控えていたルネが即座に進み出た。
「殿下、周囲の警戒を終えました。今のところ追加の動きはありません。加えて、雨脚も落ち着き始めております」
私はそっと空を仰いだ。確かに、先ほどよりも雨は細かくなっている。
「……では、撤収いたしましょう。王都へ戻り、改めて捕縛者を詮議にかけます」
アレクシス殿下が静かに結論を下した。
王太子殿下は少し安堵した様子で頷く。
「うん……皆、無事でよかった。本当に、ありがとう。リディアも、危険な中で来てくれて……」
「王太子殿下のお姿をこの目で確認できただけで、十分でございますわ」
私は微笑みを返すと、馬に手を添えた。
静かな撤収準備が進む中――
盤上は小休止に入っただけに過ぎないことを、私も殿下も理解していた。
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