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第九章 告白と結末
53
執務室には重々しい静けさが漂っていた。
窓から差し込む陽が長く伸び、机に置かれた地図の上で淡く揺れる。
ルシアンは姿勢を正し、迷いなく口を開いた。
「――俺は、エリシアを妻に望みます」
その瞬間、空気が張り詰めた。
言葉は力強く、揺るぎがない。だがそれだけに、室内に漂う緊張は深まるばかりだった。
辺境伯――父上は、じっと孫を見据える。
その蒼い瞳に宿るのは、祖父としての温情ではなく、領主としての冷厳な光。
「……ルシアン」
低く落とされた声に、私の胸が震える。
「お前は次代を背負う者だ。己の感情だけで伴侶を選んでよい立場ではない」
厳しい言葉が突き刺さる。
けれどルシアンは怯むことなく視線を返した。
「わかっています。それでも――彼女以外に考えられません」
食い下がる声に、辺境伯の眉が僅かに動いた。
だがすぐに視線は私へと移る。
「エリシア」
名を呼ばれ、息を呑む。
父の瞳は、娘を想う温かさを含みながらも、鋭さを帯びていた。
「ルシアンに押し切られているのではないか。お前自身の意志なのか」
胸の奥で強く鼓動が響く。
私は、唇を震わせながらも、真っ直ぐに答えた。
「……私の意志です。私は、ルシアンを愛しています」
静寂が落ちた。
やがて辺境伯は深く息を吐き、机の上に重ねた手をゆっくりと解いた。
「……そうか」
再び孫へと視線を戻す。
その眼差しには厳しさと、しかし確かな期待が同居していた。
「ならば二人で背負え。家の重みも、領の未来も。……ルシアン、軽い気持ちで口にしたわけではないな」
「はい」
力強い声が返る。
沈黙ののち、父の顔にわずかな柔らかさが浮かんだ。
「――娘を頼むぞ」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
ルシアンは深々と頭を垂れ、私の手を強く握り締める。
父としての愛情と、領主としての承認。
その両方を得た瞬間、胸に広がった安堵は涙に変わりそうだった。
窓から差し込む陽が長く伸び、机に置かれた地図の上で淡く揺れる。
ルシアンは姿勢を正し、迷いなく口を開いた。
「――俺は、エリシアを妻に望みます」
その瞬間、空気が張り詰めた。
言葉は力強く、揺るぎがない。だがそれだけに、室内に漂う緊張は深まるばかりだった。
辺境伯――父上は、じっと孫を見据える。
その蒼い瞳に宿るのは、祖父としての温情ではなく、領主としての冷厳な光。
「……ルシアン」
低く落とされた声に、私の胸が震える。
「お前は次代を背負う者だ。己の感情だけで伴侶を選んでよい立場ではない」
厳しい言葉が突き刺さる。
けれどルシアンは怯むことなく視線を返した。
「わかっています。それでも――彼女以外に考えられません」
食い下がる声に、辺境伯の眉が僅かに動いた。
だがすぐに視線は私へと移る。
「エリシア」
名を呼ばれ、息を呑む。
父の瞳は、娘を想う温かさを含みながらも、鋭さを帯びていた。
「ルシアンに押し切られているのではないか。お前自身の意志なのか」
胸の奥で強く鼓動が響く。
私は、唇を震わせながらも、真っ直ぐに答えた。
「……私の意志です。私は、ルシアンを愛しています」
静寂が落ちた。
やがて辺境伯は深く息を吐き、机の上に重ねた手をゆっくりと解いた。
「……そうか」
再び孫へと視線を戻す。
その眼差しには厳しさと、しかし確かな期待が同居していた。
「ならば二人で背負え。家の重みも、領の未来も。……ルシアン、軽い気持ちで口にしたわけではないな」
「はい」
力強い声が返る。
沈黙ののち、父の顔にわずかな柔らかさが浮かんだ。
「――娘を頼むぞ」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
ルシアンは深々と頭を垂れ、私の手を強く握り締める。
父としての愛情と、領主としての承認。
その両方を得た瞬間、胸に広がった安堵は涙に変わりそうだった。
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