魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

7章 選ばれし刃

④

黒の峡谷を抜け、アリアとイアンは街へと戻った。その手には、青白い光を放つ「選ばれし刃」が握られている。この剣が何を意味し、どのような力を秘めているのか――その答えを求め、二人はギルドのユーゴを訪ねた。

ユーゴはギルドの奥の部屋で、剣を注意深く観察していた。その鋭い目が刃の細かな模様に注がれる。

「これが『選ばれし刃』か……確かに普通の剣ではないな。」
ユーゴが静かに言う。

「触ると暖かいんだよね。何か特別な力があるのかな？」
アリアが剣を握りながら答える。

「その通りだ。この剣は、ただの武器ではない。どうやら、君のように魔力を持たない者だけが扱える仕組みになっている。」

「えっ、どういうこと？」
アリアが驚く。

「この剣は、持ち主の魔力ではなく、別のエネルギー源を引き出しているようだ。おそらく、純粋な生命力だろう。」
ユーゴが指で剣の模様をなぞりながら説明する。

「生命力……じゃあ、魔力ゼロの私が持つのにぴったりってこと？」

「そういうことだ。ただし、この剣を使いこなすには、君自身の成長が必要だ。」

「成長って……具体的に？」
アリアが首を傾げる。

「簡単に言えば、この剣は持ち主に合わせて力を解放する。今のお前には制御できないほどの力を秘めているが、それを引き出すにはさらなる試練が必要だ。」
ユーゴは視線を剣から外し、アリアを見た。

「試練ねえ……なんか大変そうだけど、燃えるじゃん！」
アリアが笑顔で剣を腰に収めた。

「楽観的で結構だ。ただし、これからの戦闘はこれまで以上に過酷になるだろう。」

剣の調査を終えた後、二人はギルドを後にした。ギルドの外に出ると、アリアがふとイアンに話しかけた。

「ねえ、この剣ってすごいけど、イアンから見てどう思う？」

「……興味深いものだ。生命力を使う武器は、魔法とはまったく異なる仕組みだからな。」
イアンが杖を握りながら答える。

「私、これを使いこなせるかな。」

「君ならできるだろう。」
イアンが即答した。その声には揺るぎない確信が感じられる。

「本当に？」
アリアが目を丸くする。

「君の無鉄砲さには不安を覚えることも多いが、その適応力には驚かされる。」
イアンが少しだけ微笑んだ。

「それ、褒めてるの？」
アリアが笑顔で返す。

「……そのつもりだ。」

その夜、二人は次の冒険の準備を整えながら、それぞれの心に新たな決意を抱いていた。アリアは「選ばれし刃」を携え、次なる試練に挑む準備をしている。そしてイアンもまた、自分がアリアを守り抜くべき理由を少しずつ自覚し始めていた。

新たな冒険はすぐそこまで迫っている――。