魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

文字の大きさ
49 / 200
12章 ローブの男の襲撃

しおりを挟む
翌朝、ギルドホールには緊張した空気が漂っていた。

アリアはいつも通り剣を腰に下げ、イアンと共にホール中央のテーブルを囲んでいたが、彼女の視線は何度も剣に向けられていた。

「イアン、この剣が血を受け入れるって……どういう意味だと思う?」

アリアが切り出すと、イアンは一瞬言葉に詰まった。昨夜、彼が書庫で見た記述が頭をよぎる。

「それは……剣が持ち主の生命力や魔力を代償として動く仕組みだろう。君がそれを使うたびに、代償を支払っているのは間違いない。」

「それなら、ただ命を削られるだけじゃないの?」

「そうとは限らない。」

イアンが低い声で答える。

「この剣は魔族の技術で作られたとされている。もしその技術が呪いと同じ原理に基づいているなら、持ち主の血――特に魔族に関連するもの――を力の源にしている可能性がある。」

アリアは目を見開き、剣を握り直した。

「じゃあ……イアンの中の魔族の血とも関係があるってこと?」

「その可能性が高い。」

イアンが静かに答える。

「私がこの剣に触れたとき、明らかに違和感を覚えた。そして、君がこの剣を使うたびに、私の中の魔族の力が微かに反応している。」

アリアは困惑した表情を浮かべた。

「でも、私は魔族の血なんて持ってないよ。だったらどうして……?」

その言葉に、イアンはさらに言葉を選ぶようにして答えた。

「君が魔族の血を持たないにもかかわらず、この剣を使える理由……それこそが、この剣の謎の一端だろう。君の存在そのものが、この剣にとって特別な意味を持っているのかもしれない。」

そのとき、ギルドホールに入ってきたユーゴが話に割り込んだ。

「確かにその通りだ、イアン。この剣とアリアの関係には、特別な要因がある。」

アリアが驚いた顔で振り向く。

「ユーゴ、どういうこと?」

「少し気になることがあったので、古い記録を調べてみた。すると、この剣――選ばれし刃にまつわる伝承がいくつか見つかった。」

ユーゴは古びた巻物を取り出し、二人の前に広げた。

「この剣は、かつて魔族の封印を施すために作られた。その際、魔族の血と人間の血を融合させる技術が使われたと記されている。さらに、その力を発揮するためには特定の『魂の性質』を持つ者が必要だと。」

「魂の性質……?」

アリアが眉をひそめる。

「具体的な定義は不明だが、おそらく君に関わる何かだろう。」

その言葉に、アリアは無意識に剣を見つめた。

そのとき、ギルドの外から緊急を告げる鐘の音が響き渡った。

「何事だ……?」

ユーゴが険しい顔で窓の外を見る。

「街の外壁に魔族が現れた!ローブをまとった男が先頭に立っている!」

駆け込んできた冒険者の報告に、アリアとイアンは即座に立ち上がった。

「また奴か……!」

イアンが杖を握りしめる。

「剣を狙ってきたんだね。絶対に渡さない!」

アリアが力強く剣を引き抜いた。

「だが、奴は強敵だ。一度に攻め込まれると防ぎきれないかもしれない。」
ユーゴが冷静に状況を分析する。

「それでも戦うしかない。」
イアンが決然と言い放つ。

「私たちにはこの剣がある。そして、君がいる。」
アリアが笑顔でイアンを見た。

「行こう、みんなを守るために!」

二人はギルドを飛び出し、街の防壁へと向かって走り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

処理中です...