魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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25章 王都周辺

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王都冒険者ギルドの巨大なホールに注目が集まる中、アリアとイアンは受付の手続きを終えようとしていた。しかし、そのざわめきは突如としてさらに大きなものに変わった。

「おい……あれ、ルイス・テミスじゃないか?」

「また何か厄介なことを持ち込む気じゃないだろうな……。」

冒険者たちの声が聞こえる中、ギルドの入口から悠然とした足取りで一人の青年が現れた。その金髪が陽光を受けて輝き、鋭い碧眼が周囲を射抜くように見渡す。彼の腰には雷の魔力を帯びたレイピアが揺れていた。

「ルイス……!」

アリアは無意識にその名前を呟いた。彼女の声に気づいたように、ルイスが視線を向けると、柔らかな微笑を浮かべる。

「ようやく見つけたよ、アリア。ここにいると思っていた。」

その優雅な声はギルド全体に響き渡り、さらに注目を集めた。

ルイスはアリアに向かってゆっくりと歩み寄る。その動きには隙がなく、まるで周囲を一切意識していないかのようだった。

「君と再会できるなんて、運命だと思わないかい?前回の戦いで確信した。君は僕にとって唯一無二の存在だ。」

「運命とか……そんなの、やめてよ!」

アリアは思わず後ずさりながら、盾を握りしめる。だがルイスは笑みを崩さず、手を軽く上げて続けた。

「怯えなくていい。ただ、君ともう一度戦いたい。それだけだ。僕を殺せる相手は君しかいないと確信しているからね。」

その言葉に、周囲の冒険者たちは青ざめた表情を浮かべた。

「また出たよ、あの『死にたがり』の執着癖……。」

「まさかルイスが追いかけてくる相手がこの剣士だなんて。どんな地獄だよ……。」

イアンが一歩前に出て、静かにルイスを睨んだ。

「アリアは君の執着の対象になるためにここにいるわけじゃない。必要以上に近づかないでくれ。」

その声に、ルイスの目が僅かに細められた。

「おや、君は前回よりも警戒心が強いね。まぁいい、アリアを守りたいという気持ちはよく分かるよ。だが、彼女に選ばれるのは誰か――それを決めるのは君ではない。」

「選ばれるって何の話をしてるの……?」

アリアが困惑した声を上げるが、ルイスは微笑むだけで答えなかった。

ギルド全体に広がる緊張感

ギルド内は静寂と緊張に包まれていた。冒険者たちの間で交わされる囁き声がその場をさらに異様なものにしていく。

「ルイスと敵対なんて、最悪のシナリオだろ……。」

「一緒に戦うだけでも命がいくつあっても足りないのに、敵になんてなったら……。」

「でも、あの白い剣士、ルイスと互角に戦ったって本当なのか……?」

アリアは周囲の視線を感じつつ、ルイスから目を逸らさずにいた。その手は盾の裏で汗ばんでいる。

「ねぇ、ルイス。どうしてそんなに私にこだわるの?」

アリアの問いに、ルイスは軽く首を傾けた。

「簡単さ。君は僕の渇望を満たす唯一の存在だからだ。」

その言葉に、アリアは息を呑んだ。ルイスの目には確かに狂気と、何か深い悲しみのようなものが宿っている。

「その渇望とやらを満たすために、アリアを巻き込むのはやめてもらおう。」

イアンの声は低く、冷たい響きを持っていた。ルイスはその声に興味深そうな笑みを浮かべる。

「君もなかなか面白いね。アリアを守るためなら、僕にだって挑むのかい?」

「必要ならね。」

イアンの決意に満ちた声に、ルイスの笑みが少しだけ崩れた。そして彼は一歩引き、手を広げる。

「今はここまでにしておこう。次に会う時を楽しみにしているよ、アリア。」

そう言い残し、ルイスは優雅な足取りでギルドを後にした。その姿を見送る冒険者たちは、安堵のため息を漏らす。

「行ったか……。」

「やっぱり近づかない方がいい相手だな……。」

新たな戦いへの決意

「ルイス、本当に一体何が目的なんだろう……。」

アリアが呟くと、イアンは彼女をじっと見つめた。

「彼自身もその答えを持っていないのかもしれないな。ただ一つ分かるのは、彼が君に執着する理由の裏には、何か深い理由がありそうだ。」


アリアとイアンはルイスの突然の訪問と執着に困惑しつつも、彼らは休む間もなく次の動きについて考え始めた。その矢先、セオドリックが新たな情報を持って現れる。

アリアたちがギルドの宿泊室で一息ついていると、扉が軽くノックされた。

「失礼します……セオドリックです。」

アリアが扉を開けると、セオドリックが少し気まずそうに頭を下げながら入ってきた。

「どうしたの?何かあったの?」

「実は……反乱勢力について、新たな情報を手に入れました。」

セオドリックは小さな布袋を取り出し、中から何枚かの地図を広げた。地図には王都周辺の村々とその間を繋ぐ道が詳細に描かれている。

「これ、どこかで見覚えがある?」

アリアが首を傾げると、イアンが地図に目を凝らした。

「……この印。魔物の出現が集中している場所だな。」

地図には複数の赤い印がついており、それぞれが最近魔物の被害が多発している地域を示していた。

「反乱勢力は、王都近郊の村々を恐怖で支配しようとしているようです。魔物を意図的に放ち、住民たちを追い詰めているのかもしれません。」

セオドリックの言葉に、アリアの顔が険しくなった。

「でも、なんでそんなことを……?」

「おそらく、王族や宮廷魔法使いへの不信感を煽るためでしょう。『王都は庶民を守らない』と示すことで、反乱の支持を広げようとしているのかもしれません。」

セオドリックの話を聞いたイアンが、静かに地図を折りたたんだ。

「ならば、まずはこの魔物が多発している村に向かうべきだな。そこに何らかの証拠が残されている可能性が高い。」

「うん。放っておけないよ。村の人たちが怖い思いをしてるなんて……絶対に止めなきゃ!」

アリアが決意を込めて頷くと、セオドリックも少し安堵したように微笑んだ。

「ありがとうございます……。もし僕が同伴した方がよければ――」

「いや、君はここで情報を集めていてくれ。その方が効率がいい。」

イアンが冷静に制止すると、セオドリックは素直に頷いた。

「分かりました。お二人の無事を祈っています。」


翌日、アリアとイアンは王都を出発する準備を整えた。ギルドホールでは冒険者たちが彼らをちらちらと見ながら噂を交わしている。

「また出て行くのか……。」

「白の剣士と鋼の魔法使い。話だけ聞くと伝説そのものだな。」

「でも、あのルイスに追われるなんて、どれだけ厄介なんだよ……。」

その視線を意識しながらも、アリアは毅然とした態度で出発の準備を進めた。

「行こう、イアン。村の人たちを守らなきゃ。」

「そうだな。準備はできている。」


王都を出て半日ほど歩いた頃、アリアはふと立ち止まった。

「そういえばさ、最近、セオドリックも頑張ってるよね。」

「頑張っているかもしれないが、彼の周囲にはまだ危険が多い。それを支えるのが君と僕の役目だ。」

イアンがそう言うと、アリアは少し微笑んだ。

「なんか、君って本当に頼りになるよね。ルイスにまで言い返せるんだから……すごいよ。」

イアンはその言葉に一瞬目を伏せたが、すぐに笑みを返した。

「僕がここにいるのは、君がいるからだ。君を守るのが僕の役目だと思っているからな。」

「うーん……ちょっと頼りすぎてる気がするなぁ。でも、ありがとうね。」
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