魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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32章 カルディナ古代遺跡

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ローデンのギルドホールにて、ユーゴが書物の内容を解析し、アリアたちに新たな情報を伝えていた。彼がページを慎重にめくりながら、冷静な声で言葉を紡ぐ。

「書物によれば、次の鍵の手がかりは『カルディナの古代遺跡』にある。」

「古代遺跡……聞いたことあるような気がする。」

アリアが首を傾げながら呟くと、ルイスが軽く笑った。

「有名な場所だからな。かつて人間と魔族が争っていた時代の施設だ。研究所として使われていた場所だが、今ではただの廃墟だ。」

「ただの廃墟、ってわけでもなさそうだな。」

イアンが低い声で言う。その瞳には慎重さが浮かんでいた。

「そうだ。書物に記されている内容によると、遺跡内には多くの罠が仕掛けられており、封印が施された区域には強力な魔物が巣食っている可能性が高い。」

ユーゴの説明に、アリアは真剣な表情で頷いた。

「でも、その鍵を見つけないとヴァリオスの計画を止められないってことだよね。」

「そうだ。だが、無理はするな。戻れる範囲で行動しろ。」

ユーゴの言葉には、彼女を案じる強い感情が込められていた。アリアは笑顔を見せて軽く頷いた。

「分かってるよ、ユーゴさん。大丈夫。」

ギルドホールを出た三人は、街中で必要な物資を調達するため、武器屋や防具屋、食料店を巡っていた。

「アリア、その剣と盾、ちゃんと点検しておけよ。」

イアンが言うと、アリアは軽く肩をすくめた。

「分かってるって。ほら、もう修理も済ませたし、準備は万端!」

「そういう油断が危険を招くんだ。」

その言葉に、アリアは少し拗ねた表情を浮かべる。

「イアンったら心配性なんだから……。」

「そう思うなら、もっと気をつけろ。」

そっけない返事に、アリアは小さく笑った。その様子を見たルイスが、ふと口を開いた。

「お前たち、随分と気安いな。」

「え?」

「そのやり取り、俺にはもう長年の夫婦にしか見えないんだが。」

ルイスの言葉に、アリアは一瞬で顔を赤くした。

「そ、そんなことない! 全然そういうんじゃないし!」

「そうか? ならいいが……。」

ルイスが軽く肩をすくめる一方、イアンは無言で視線を逸らした。

翌朝、三人はローデンを出発した。東南に位置するカルディナの古代遺跡までは、徒歩で二日ほどの距離。道中は平坦な丘陵地帯が続き、ところどころに広がる森林が景色を彩っていた。

「ここ最近の冒険、ずっと廃墟とか遺跡ばっかりだよね。」

アリアが剣を背負いながらぼやくと、ルイスが振り返って微笑んだ。

「冒険者らしくていいじゃないか。俺は退屈しないが。」

「ルイスはいいよね、どうせ戦闘で雷ピカピカして終わりだもん。」

「ふむ。だが、お前の剣技には敵わないと思うがな。」

「え?」

突然の称賛に、アリアは驚いた顔をした。ルイスは真面目な表情で言葉を続ける。

「魔力に頼らない剣技。あれは、俺には真似できないものだ。お前の戦い方は、他の誰とも違う。」

「……そっか。ありがとう。」

アリアが少し照れながら笑顔を見せると、ルイスは軽く頷いて先へ進んだ。

そのやり取りを静かに見ていたイアンは、何も言わずに歩みを進めたが、どこか落ち着かない表情をしていた。
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