14 / 63
13
しおりを挟む
アレクシス殿下とリディア嬢の結婚式の招待状は、随分前に我が国にも届いていた。
アルセリア王国――
冷静沈着な実務家アレクシス王弟殿下と、その補佐役として王宮を支えるリディア妃殿下によって、極めて安定した王政運営が築かれている。
二人の存在が、この国の均衡と秩序を巧みに保っているのだ。
王弟アレクシス殿下からは、わざわざ私宛てに個別の手紙まで添えられていた。
――『第六王子ユーリ殿下がお越しになる際は、必ず同伴者をお連れください』――
あの慎重な王弟殿下が、わざわざ「同伴者を連れてこい」とまで指定してくるとは――
(……ふふ。結婚式という場で、少しでも波風を立てぬための配慮、というわけか)
以前、リディア嬢へ求婚を試みた私が、もし独りで乗り込めば余計な誤解を招きかねない。
王弟殿下は、私に”退路を塞がせた”のだ。
これは私個人への、実にアレクシス殿下らしい繊細な牽制である。
私は今回の随行にカティアを連れて行く決断を下した。
◇ ◇ ◇
アルセリア王宮に到着すると、豪奢な迎賓殿でアレクシス殿下とリディア殿下が我々を出迎えてくれた。
「ようこそお越しくださいました、ユーリ殿下」
「今回もご招待いただき感謝いたします、アレクシス殿下」
握手を交わすと、殿下の隣に寄り添うリディア妃殿下が、優雅にカティアへ微笑みかけた。
「そちらが噂のカティア王女殿下ですね?」
「初めまして。第十一王女、カティア・アゲート・アレストにございます。こうして直接お目にかかる機会を賜り光栄です」
カティアは緊張しつつも、完璧な宮廷礼法で一礼した。
◇ ◇ ◇
その晩の晩餐の後、控え室での小規模なお茶会が開かれた。
リディア妃殿下はわざわざ特別な茶葉を用意してくださっていた。
「この紅茶は、今年の春摘みのものですの。香りが繊細でしょう?」
「本当に素晴らしい香りですわ」
カティアは丁寧に返礼しつつも、カップの中の液色を一度覗き込み、続けた。
「ミルクの量も完璧にございますね。この茶葉は濃度と香りの調整が難しいと伺っておりますが……」
その言葉に、わずかにリディア殿下の眉が上がった。
「まあ……そのような細かな知識まで。どなたに教わられたのです?」
「――後宮で仕入れた些細な知識にございます」
カティアは微かに微笑んだが、決して饒舌にはならない。
だが、その一瞬の切り返しは、観察眼の鋭いリディア殿下には十分だったらしい。
ふ、と柔らかく目を細められる。
「なかなか奥深い学びを積んでいらっしゃいますのね」
私はそのやり取りを静かに見守りながら、内心で軽く頷いていた。
(……やはり、この子は実地に出して正解だった)
◇ ◇ ◇
その夜遅く、賓客用の控え室。
「ユーリ殿下」
ふいにアレクシス殿下が一人で私のもとに現れた。
さすがは王弟殿下、必要な情報の吸収も早い。
「……良き補佐役をお連れですね。まさか、妹姫殿下をご自身の妃候補とお考えで?」
「まさか」
私は肩を竦めた。
「確かに有能ですが、まだ学びの最中です。いずれ外交において重要な役割を担えるよう育成しているだけですよ」
アレクシス殿下はふっと微笑を浮かべた。
「貴殿の趣味も含めて、今後が楽しみですな」
「――お手柔らかに願いますよ」
軽口を交わしながらも、殿下の銀灰の瞳はわずかに探るような色を湛えていた。
◇ ◇ ◇
滞在期間中、カティアはリディア妃殿下とも少しずつ交流を深めていった。
緊張を解きつつも、決して油断せず、相手の言葉を丁寧に汲み取る姿勢は見事だった。
私はまた一つ、彼女の成長を確信する。
(この子は、遠くない将来――私の右腕となる)
確信は、静かに固まっていく。
アルセリア王国――
冷静沈着な実務家アレクシス王弟殿下と、その補佐役として王宮を支えるリディア妃殿下によって、極めて安定した王政運営が築かれている。
二人の存在が、この国の均衡と秩序を巧みに保っているのだ。
王弟アレクシス殿下からは、わざわざ私宛てに個別の手紙まで添えられていた。
――『第六王子ユーリ殿下がお越しになる際は、必ず同伴者をお連れください』――
あの慎重な王弟殿下が、わざわざ「同伴者を連れてこい」とまで指定してくるとは――
(……ふふ。結婚式という場で、少しでも波風を立てぬための配慮、というわけか)
以前、リディア嬢へ求婚を試みた私が、もし独りで乗り込めば余計な誤解を招きかねない。
王弟殿下は、私に”退路を塞がせた”のだ。
これは私個人への、実にアレクシス殿下らしい繊細な牽制である。
私は今回の随行にカティアを連れて行く決断を下した。
◇ ◇ ◇
アルセリア王宮に到着すると、豪奢な迎賓殿でアレクシス殿下とリディア殿下が我々を出迎えてくれた。
「ようこそお越しくださいました、ユーリ殿下」
「今回もご招待いただき感謝いたします、アレクシス殿下」
握手を交わすと、殿下の隣に寄り添うリディア妃殿下が、優雅にカティアへ微笑みかけた。
「そちらが噂のカティア王女殿下ですね?」
「初めまして。第十一王女、カティア・アゲート・アレストにございます。こうして直接お目にかかる機会を賜り光栄です」
カティアは緊張しつつも、完璧な宮廷礼法で一礼した。
◇ ◇ ◇
その晩の晩餐の後、控え室での小規模なお茶会が開かれた。
リディア妃殿下はわざわざ特別な茶葉を用意してくださっていた。
「この紅茶は、今年の春摘みのものですの。香りが繊細でしょう?」
「本当に素晴らしい香りですわ」
カティアは丁寧に返礼しつつも、カップの中の液色を一度覗き込み、続けた。
「ミルクの量も完璧にございますね。この茶葉は濃度と香りの調整が難しいと伺っておりますが……」
その言葉に、わずかにリディア殿下の眉が上がった。
「まあ……そのような細かな知識まで。どなたに教わられたのです?」
「――後宮で仕入れた些細な知識にございます」
カティアは微かに微笑んだが、決して饒舌にはならない。
だが、その一瞬の切り返しは、観察眼の鋭いリディア殿下には十分だったらしい。
ふ、と柔らかく目を細められる。
「なかなか奥深い学びを積んでいらっしゃいますのね」
私はそのやり取りを静かに見守りながら、内心で軽く頷いていた。
(……やはり、この子は実地に出して正解だった)
◇ ◇ ◇
その夜遅く、賓客用の控え室。
「ユーリ殿下」
ふいにアレクシス殿下が一人で私のもとに現れた。
さすがは王弟殿下、必要な情報の吸収も早い。
「……良き補佐役をお連れですね。まさか、妹姫殿下をご自身の妃候補とお考えで?」
「まさか」
私は肩を竦めた。
「確かに有能ですが、まだ学びの最中です。いずれ外交において重要な役割を担えるよう育成しているだけですよ」
アレクシス殿下はふっと微笑を浮かべた。
「貴殿の趣味も含めて、今後が楽しみですな」
「――お手柔らかに願いますよ」
軽口を交わしながらも、殿下の銀灰の瞳はわずかに探るような色を湛えていた。
◇ ◇ ◇
滞在期間中、カティアはリディア妃殿下とも少しずつ交流を深めていった。
緊張を解きつつも、決して油断せず、相手の言葉を丁寧に汲み取る姿勢は見事だった。
私はまた一つ、彼女の成長を確信する。
(この子は、遠くない将来――私の右腕となる)
確信は、静かに固まっていく。
200
あなたにおすすめの小説
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。
和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。
政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。
「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ
西野歌夏
恋愛
前世でフラれた記憶を思いだしたフローラ・ガトバンは、18歳の伯爵令嬢だ。今まさにデジャブのように同じ光景を見ていた。
エイトレンスのアルベルト王太子にまつわるストーリーです。
※の付いたタイトルは、あからさまな性的表現を含みます。苦手な方はお気をつけていただければと思います。
2025.5.29 完結いたしました。
【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~
雨宮羽那
恋愛
魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。
そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!
詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。
家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。
同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!?
「これは契約結婚のはずですよね!?」
……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……?
◇◇◇◇
恋愛小説大賞に応募しています。
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"
モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです!
※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。
※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。
※小説内容にはAI不使用です。
恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。
長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様!
しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが?
だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど!
義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて……
もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。
「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。
しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。
ねえ、どうして? 前妻さんに何があったの?
そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!?
恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。
私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。
*他サイトにも公開しています
氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁
瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。
彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。
冷遇された妻は愛を求める
チカフジ ユキ
恋愛
結婚三年、子供ができないという理由で夫ヘンリーがずっと身体の関係を持っていた女性マリアを連れてきた。
そして、今後は彼女をこの邸宅の女主として仕えよと使用人に命じる。
正妻のアリーシアは離れに追い出され、冷遇される日々。
離婚したくても、金づるであるアリーシアをそう簡単には手放してはくれなかった。
しかし、そんな日々もある日突然終わりが来る。
それは父親の死から始まった。
本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
氷雨そら
恋愛
本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。
「君が番だ! 間違いない」
(番とは……!)
今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。
本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる