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私室へ移動した私は、カティアの案内を受けて静かに腰を下ろした。
ゆっくりとベッドの端に座り、思わず無意識に手を伸ばして――カティアの手を取る。
カティアは一瞬だけ驚いたように目を瞬かせたが、やがてその小さな手を優しく重ね返してくれた。
沈黙が落ちる。
けれど、私はもう抑えられなかった。
「……私の母は、サファイア宮の妃だった」
ぽつり、と。
まるで独り言のように、言葉が溢れ始めた。
「とても美しい人だった。笑うと、本当に宝石みたいに輝いていた。……けれど、それが災いでもあった」
カティアは静かに耳を傾けてくれている。遮ることなく、ただじっと、私の言葉を受け止めてくれていた。
「母は毒を盛られて死んだ。他の妃たちの権力闘争に巻き込まれてな……。私はまだ幼くて、何が起きたのかもよく分からなかった。ただ突然、母がいなくなった。それだけだった」
喉が詰まりそうになる。
けれど、吐き出すことは止められなかった。
「その時からずっと思っていた。――武術も剣も、私は他の兄たちのように習得できなかった。ならば、別の道を選ばなければ生き残れないと」
拳が自然に震えていた。
「必死に勉強した。言葉を、歴史を、国を、人を――。生きるために、外交の才を身につけた。けれど……」
カティアの瞳が僅かに揺れる。
私は言葉を継いだ。
「けれど――ずっと、ずっと寂しかった。
誰とも同じ目線で世界を語れる相手がいなかった。
誰も、本心を曝け出せる相手がいなかった。
人の好意も悪意も、計算も期待も、全部、全部理解できてしまったから――余計に、孤独だった」
そこまで言ったとき、自分でも驚くほど視界が滲んでいた。
私は震える声で、けれどはっきりと口にした。
「でも……君と出会って、初めて思ったんだ。
――ああ、ようやく、私と同じ高さで隣を歩いてくれる人に出会えたのかもしれないって」
カティアは何も言わなかった。
ただそっと、私の手を包み込むように握り返してくれる。
私は苦笑する。
「おかしなことを言っているのは分かっている。君はまだ幼くて……私はただの兄で……。でも、でも……君が、遠くへ行ってしまうかもしれないと思うと――胸が苦しくなるんだ」
その瞬間、ぐっと涙が零れ落ちた。
するとカティアは、ゆっくりと手を伸ばしてきた。
驚くほど自然な動作だった。
細く柔らかな指先が、私の髪を撫でた。
「……お兄様」
優しく、包み込むような声音だった。
「寂しいのですね」
ただ、それだけだった。
慰めでも、同情でも、否定でもない。
けれど、その一言が――私の胸を救った。
私はそのまま、頭をカティアの手に預けるように項垂れた。
もう、涙は止まらなかった。
「ありがとう……」
その言葉を最後に、私は知らぬ間に眠りへと落ちていった。
幼子のように、ようやく甘えきったまま――。
ゆっくりとベッドの端に座り、思わず無意識に手を伸ばして――カティアの手を取る。
カティアは一瞬だけ驚いたように目を瞬かせたが、やがてその小さな手を優しく重ね返してくれた。
沈黙が落ちる。
けれど、私はもう抑えられなかった。
「……私の母は、サファイア宮の妃だった」
ぽつり、と。
まるで独り言のように、言葉が溢れ始めた。
「とても美しい人だった。笑うと、本当に宝石みたいに輝いていた。……けれど、それが災いでもあった」
カティアは静かに耳を傾けてくれている。遮ることなく、ただじっと、私の言葉を受け止めてくれていた。
「母は毒を盛られて死んだ。他の妃たちの権力闘争に巻き込まれてな……。私はまだ幼くて、何が起きたのかもよく分からなかった。ただ突然、母がいなくなった。それだけだった」
喉が詰まりそうになる。
けれど、吐き出すことは止められなかった。
「その時からずっと思っていた。――武術も剣も、私は他の兄たちのように習得できなかった。ならば、別の道を選ばなければ生き残れないと」
拳が自然に震えていた。
「必死に勉強した。言葉を、歴史を、国を、人を――。生きるために、外交の才を身につけた。けれど……」
カティアの瞳が僅かに揺れる。
私は言葉を継いだ。
「けれど――ずっと、ずっと寂しかった。
誰とも同じ目線で世界を語れる相手がいなかった。
誰も、本心を曝け出せる相手がいなかった。
人の好意も悪意も、計算も期待も、全部、全部理解できてしまったから――余計に、孤独だった」
そこまで言ったとき、自分でも驚くほど視界が滲んでいた。
私は震える声で、けれどはっきりと口にした。
「でも……君と出会って、初めて思ったんだ。
――ああ、ようやく、私と同じ高さで隣を歩いてくれる人に出会えたのかもしれないって」
カティアは何も言わなかった。
ただそっと、私の手を包み込むように握り返してくれる。
私は苦笑する。
「おかしなことを言っているのは分かっている。君はまだ幼くて……私はただの兄で……。でも、でも……君が、遠くへ行ってしまうかもしれないと思うと――胸が苦しくなるんだ」
その瞬間、ぐっと涙が零れ落ちた。
するとカティアは、ゆっくりと手を伸ばしてきた。
驚くほど自然な動作だった。
細く柔らかな指先が、私の髪を撫でた。
「……お兄様」
優しく、包み込むような声音だった。
「寂しいのですね」
ただ、それだけだった。
慰めでも、同情でも、否定でもない。
けれど、その一言が――私の胸を救った。
私はそのまま、頭をカティアの手に預けるように項垂れた。
もう、涙は止まらなかった。
「ありがとう……」
その言葉を最後に、私は知らぬ間に眠りへと落ちていった。
幼子のように、ようやく甘えきったまま――。
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