【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました

藤原遊

文字の大きさ
42 / 63

41

しおりを挟む
季節はさらに巡り――

カティアが私のもとに迎えられてから、まもなく二年が経とうとしていた。
今年、彼女は十五歳を迎えた。

正妃としての立場もすでに王宮内に定着し、政務や外交にも堂々と随行する姿は、王族・貴族の間でも広く評価を受けていた。

「妃殿下はまことに聡明であらせられる」
「まさしく、第六王子殿下に相応しきお方」

――そんな声が、日常のように耳に届くようになって久しい。

だが、穏やかな日々は長くは続かない。

ある日の執務室。ノルベルトが静かに書簡を差し出してきた。

「殿下。王太子殿下より、お取り次ぎの打診がございました」

私は視線を落とす。

書面は、簡潔に、そして極めて慎重な文面で綴られていた。

要旨は――

先の隣国との戦争で、アレスト王国は勝利を収めた。
その講和条件の一環として、隣国王女の一人が人質を兼ねた婚姻要員として差し出されることが決まった。

当初は王太子の後宮に配属される予定だったが、
王太子の後宮は現在、妃たちの間で勢力争いが過熱している。

そのため王太子側近らからの提案として、こう伝えられてきたのだ――

「正式に王位継承権を放棄されている第六王子ユーリ殿下の元へ、第二夫人候補として入内させることは可能か」

私は眉をひそめる。

(……この手で来たか)

王位継承権を放棄しているとはいえ、外交を担当し、王家に残ることが決まっている王子である私の離宮は、
諸外国にとって非常に魅力的な位置に映るのは当然だ。

「……まだ、カティアには伝えていない」

「はい。まずは殿下のご意向を確認してからと判断いたしました」

ノルベルトは淡々と告げる。

確かに、制度上は何ら問題はない。
アレスト王族にとって、複数夫人を迎えるのはむしろ通常運転の範疇だ。

だが――

(私は、カティアを迎え入れた時に覚悟を決めたはずだ)

あの日、あの中庭で出会った小さな少女。
今は立派な妃として私の隣に立つ彼女に、どれだけの想いを注いできたか。

「……簡単には返答はできんな」

低く呟き、私は机に肘をついた。

「この件、まずは王太子殿下へ直接お目通り願おう」

「畏まりました」

ノルベルトは静かに頭を下げ、部屋を出ていった。

私は深く息を吐く。

この国の制度は、時として残酷にさえ思える。

(――だが、私は妃を泣かせる男にはならない)

その夜。

執務を終えたカティアが執務室へやって来た。

「お疲れ様でございます、ユーリ」

「カティア……。少し、話がある」

私は彼女をソファへ座らせ、ゆっくりと今回の打診の内容を説明した。

カティアは、静かにすべてを聞き終えると――

「……なるほど」

わずかに俯き、そして、ほんの少し唇を噛んだ。

「制度として、他に妃を迎えることは許されています。ユーリ殿下は、外交を担当する王子ですもの……外交のためなら仕方がありませんわ」

精一杯に取り繕うように、彼女は笑った。
けれどその指先は、小さく震えている。

「カティア」

私は彼女の両手をそっと包み込んだ。

「ありがとう。……だが、私は簡単に受け入れるつもりはない。私にとって妃は――君一人で良い」

カティアは驚いたように目を丸くした。

「……ユーリ」

「私はあの日から、君に誓ったつもりだ。これ以上、誰にも君の居場所を奪わせたくはない」

そっと微笑むと、彼女の瞳に涙がにじんだ。

「……ありがとうございます」

肩の力を抜いたその顔は、十五歳になったばかりとは思えぬほど美しく、大人びて見えた。

こうして――

新たな縁談の話は、静かに幕を開けたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです! 12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。  両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪  ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/07/06……完結 2024/06/29……本編完結 2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位 2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位 2024/04/01……連載開始

不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。 和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。 政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。

「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ

西野歌夏
恋愛
前世でフラれた記憶を思いだしたフローラ・ガトバンは、18歳の伯爵令嬢だ。今まさにデジャブのように同じ光景を見ていた。 エイトレンスのアルベルト王太子にまつわるストーリーです。 ※の付いたタイトルは、あからさまな性的表現を含みます。苦手な方はお気をつけていただければと思います。 2025.5.29 完結いたしました。

【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」  ……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……? ◇◇◇◇  恋愛小説大賞に応募しています。  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。 ※小説内容にはAI不使用です。

恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。

長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様! しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが? だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど! 義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて…… もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。 「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。 しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。 ねえ、どうして?  前妻さんに何があったの? そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!? 恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。 私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。 *他サイトにも公開しています

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

冷遇された妻は愛を求める

チカフジ ユキ
恋愛
結婚三年、子供ができないという理由で夫ヘンリーがずっと身体の関係を持っていた女性マリアを連れてきた。 そして、今後は彼女をこの邸宅の女主として仕えよと使用人に命じる。 正妻のアリーシアは離れに追い出され、冷遇される日々。 離婚したくても、金づるであるアリーシアをそう簡単には手放してはくれなかった。 しかし、そんな日々もある日突然終わりが来る。 それは父親の死から始まった。

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...