毒殺未遂で追放された辺境伯令嬢は、修道院から人生を取り戻します

藤原遊

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第7章 政治の渦

7-2

ロストフ領の各地で改革が進む中、
アリーナはさらに一歩踏み込んだ策を打ち出していた。

「改革の邪魔をしてくる貴族の皆さまを……
 今は泳がせます。証拠を集めて、いざという時に一気に押さえましょう」

その言葉に、執務室の空気が静かに震えた。

ミハイルは書類をめくる手を止め、
まじまじとアリーナを見つめた。

「……驚きましたよ、アリーナ。
 あなたは……守られるだけの存在では、もうありませんね」

アリーナはきょとんと首を傾げた。

「わたしはただ……皆が困らないようにしたいだけです」

ミハイルは小さく息をついた。

(政治は権力闘争だ。
 それなのにこの子は、人の善意を疑いきれない……
 根が優しいのだ)

その優しさが、脆さにも、強さにもなる。
ミハイルは心の奥がざわつくのを感じた。

その日の午後。
城の廊下を歩いていると、使用人たちがそわそわしているのが目に入った。

ミハイルは足を止めた。

「何かありましたか?」

老年の家令が、困ったように微笑んだ。

「実は……あと三ヶ月でアリーナ様が十二歳になられますので……」

「十二歳……」

ミハイルは一瞬、言葉を失った。

貴族にとって十二歳とは、
成人として認められ始める節目。
大規模な祝宴を開くことが通例だ。

しかし──

「アリーナ様は……“パーティはしません”と申されて……」

家令は深く肩を落とした。

「おそらく……今まで、きちんとした誕生日祝いをしたことがないからかと。
 それに、領地のことを優先されて……」

ディアナや侍女見習いたちも沈んだ面持ちで続いた。

「本来なら辺境伯様が主催するべきですが……
 ドミトリー様は療養のため城に戻られず……」

ミハイルの胸に、重たい痛みが走った。

(この子は……どれほど“当然の愛”を知らずに育ってきたのだろう)

アリーナの背に、
幼い日の自分を重ねてしまう。

家令たちは切実な表情で言う。

「ミハイル様……このままでは、アリーナ様は……
 誰にも祝われない十二歳を迎えてしまいます。
 どうか……どうか……」

ミハイルは目を閉じ、静かに頷いた。

「……わかりました」

家令たちの顔がぱっと明るくなる。

ミハイルは続けた。

「私は現在、領地外の貴族との交渉権の一部を委譲されています。
 その権限を用いて……アリーナの誕生日を私が準備します。
 内外の貴族を招いても、問題ありません」

「ミハイル様……!」

涙ぐむ使用人までいた。

(……十二歳の誕生日は、人生で一度きりなのだから)

アリーナにとって、ようやく迎える“本当の誕生日”。

それを祝えるのなら──
ミハイルは、どんな政治の火種でも引き受ける覚悟だった。

彼の胸の奥では、氷狼王の低い唸り声のように、
確かな決意が形を成し始めていた。
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