毒殺未遂で追放された辺境伯令嬢は、修道院から人生を取り戻します

藤原遊

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第7章 政治の渦

7-3

反乱の証拠は静かに積み上がっていた。

外部の貴族と結びつき、
農地改革を妨害した貴族たちが広間に並ぶ。

アリーナは席を立ち、ひとり正面へ歩み出た。
まだ幼いはずの背が、不思議と大きく見える。

「ロストフ領を揺らす者は、ここには置けません。
 本日をもって、領地から退去していただきます」

声は柔らかいのに、揺るぎがなかった。

貴族たちが口々に反論を叫んだが、
騎士団長ボリスの一言で静まり返る。

「領主代行の決定だ。従え」

連行されていく背中を見送りながら、
ミハイルは胸の奥がひそかに熱を帯びるのを感じた。

(この子は……変わったのではない。
 本来の力が表に出始めただけなのだろう)

その瞳は氷のように冷たくも、
領地の命を守りたいという願いだけは温かかった。

広間の空気が重く沈む一方で、
城の廊下にはまったく違う匂いが漂っていた。

焼き立てのパン。
肉の香り。
甘い果実酒の香り。

誕生日の準備だった。

使用人たちが忙しなく動いている。

「余った料理は城下に全部回す手筈です」

「アリーナ様の嫌がる“廃棄”は絶対に出しませんよ!」

「ええ、あの子には心からの祝いを」

皆が自然に笑みを浮かべる。

アリーナはこの空気をまだ知らない。
政務に追われ、祝われることへの実感も薄い。

ミハイルは廊下の影から
その準備風景を静かに見つめていた。

(誕生日とは……
 こうして誰かが動いてくれるものだったのですね)

自分にはなかった温度だ。
アリーナには、それを知ってほしいと思った。

自室に戻ると、机の上に小さな箱が置いてある。

中には銀細工のイヤリング。
氷狼の意匠が刻まれた庇護の証。

本来、これが“正しい贈り物”だ。

(後見人として……叔父として。
 これは必ず渡すべきだ)

ミハイルは静かに蓋を閉じた。

その隣には、もうひとつの箱。

意図せず、指先がそちらに触れてしまう。
箱を開けると、光が揺れた。

白氷石を連ねたネックレス。

(これは……贈るべきではない)

当然の結論だった。
ネックレスを贈るのは、婚約者候補として見て貰えませんか?という意思表示になってしまう。あの子を無駄なことで悩ませたくない。

司祭である自分が持つなど許されないし、
アリーナの未来を縛ることになる。

ただ、ミハイルはそれを
“誤って手配してしまった理由”を説明できなかった。ただアリーナに似合うとそう思ったら購入してしまっていた。

ネックレスを静かにしまう。

廊下の向こうから氷狼王の気配が近づいた。
影の中で、鋭い瞳がこちらを見ている。普通の人間なら姿すら見えないはずなのに、わざわざ自分に見せに来るとは警告、の意味合いだろう。

まるで心の奥を覗き込むように。

ミハイルは苦笑を浮かべた。

「……誤解しないでください。
 渡すつもりはありません」

氷狼王は何も言わない。
ただ、すべてを知っているように
ひとつ瞬きを返した。

その沈黙が、余計に胸に響いた。

(十二歳の誕生日。
 あの子は……次の段階へ歩き出す。婚約ができる年齢になるのだから)

ミハイルは静かに息を吐いた。

自分には、その背を押すことだけが許されている。
それ以上の願いなど、あってはならないのに──

胸の奥は痛むばかりだった。
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