転生って異世界じゃないの?!サスペンスドラマに転生だなんて誰得よ。

藤原遊

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第7話 最終ゲーム

5

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冷たい風が、車の窓越しに音を立てていた。

菜月は助手席に座り、流れる景色をぼんやりと見ていた。
外の街並みが、どこか遠い世界のように感じられる。

――Apex International。

――教授が出入りしていたビル。
次の手がかりが、そこにある。

「……菜月さん」

神崎の声に、菜月は我に返った。

「……はい?」

「着きますよ」

神崎が、静かに車を停めた。
目の前には、高層ビルの“Apex International”のロゴが見えている。

菜月は、緊張した面持ちでビルを見上げた。

――この中に、教授の手がかりが……。

神崎が、ドアを開けた。

「行きましょう」

菜月は、深く息を吸い込んでから、車を降りた。

ビルのエントランスは静かだった。

広々としたロビーには、受付のデスクと、数名のビジネスマンが行き交っている。
だが、どこか――不気味なほど静かだった。

――まるで、この空間そのものが、私たちを見ているみたい。

菜月は、無意識に手を握りしめた。

「緊張していますか?」

神崎が、静かに声をかけた。

「……少し」

菜月は、苦笑いを浮かべた。

「大丈夫ですよ」

神崎の声は、いつも通り冷静だった。

「俺たちの目的は、教授の痕跡を探すことです。
余計なことは考えず、目の前の事実に集中してください」

その言葉に、菜月は小さく頷いた。

「……はい」

二人は、ビルの中を静かに歩き始めた。

菜月の目は、廊下の隅々まで注意深く動いていた。

――教授が残した手がかりがあるはず……。

だが、どこを見ても、特別なものは見当たらない。

――おかしい。
ドラマの中では、この場所に……。

菜月の胸がざわついたその時、神崎が立ち止まった。

「……菜月さん」

神崎の視線の先に、壁に取り付けられた監視カメラがあった。

そのカメラは、ゆっくりと動き――二人を見つめている。

菜月は、背筋がぞくりとした。

「……見られてる?」

神崎は、じっとカメラを見つめていた。

「教授が、俺たちを見ている」

その言葉に、菜月は息を呑んだ。

――教授が、ここにいる。
いや、ずっと見ている――。

突然、廊下のスピーカーから、教授の声が響いた。

『ようこそ、“Apex International”へ。
神崎譲刑事――そして、雨宮菜月さん』

その声に、菜月の体が固まった。

「……教授」

神崎は、冷静な目をカメラに向けた。

「俺たちがここに来るのを、待っていたんですか」

『もちろんです』

教授の声は、滑らかで楽しげだった。

『ゲームの次のステージへ進むには、プレイヤーが動く必要がありますから』

菜月の胸が、大きく跳ねた。

――ゲームの次のステージ……?

『さあ――ここからが本番です。
貴方たちは、“正解”にたどり着けるでしょうか?』

その言葉に、神崎は目を細めた。

「俺たちを試しているんですか」

『ええ。
私は、貴方たちの推理力を信じています』

教授の声は、不気味なほど滑らかだった。

『さあ――“最終正解”まで、あと一歩です。
見つけてください、私を』

スピーカーの音が途切れ、廊下に静寂が戻った。

菜月は、少し震える手を見つめた。

「……神崎さん」

「何ですか?」

神崎は、冷静な目で菜月を見た。

「……教授は、本当に……」

菜月は言葉を探したが、うまく見つからなかった。

だが、神崎は静かに言った。

「大丈夫です」

その言葉に、菜月は顔を上げた。

神崎の目は、いつも通り冷静で、揺るぎない。

「俺たちは、最後まで進みます。
そして――このゲームを終わらせます」

その言葉が、菜月の胸に深く響いた。

――私は、この物語の中で、最後まで神崎さんの隣に立つ。
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